Noel


1個1個数字がカウンターされるのをドキドキしながら見てた頃。
素敵なHP達がクルクルカウンターされるのを横目で見ながら、落ち込んだ日々。
ゆったりノッタリとした足並みで「44444」を迎えることが出来ました。
皆さまありがとうございます。

「44444」の方のリクエストにお答えしようと思っていたのですが、
まだお声も掛からないので・・・・・・・・。

誰もがどこかで・・・・・あった。普通の物語。
ありきたりの何の落ちもなく、すぐに自分とすり替わるお話です。

                      皆さまに感謝を込めて yoshino




『kiss』


カッラン・・・・・・・・
カウンターに入っていたマスターが顔を上げた。

「いつ以来だい、元気だったのか」
「ホント久しぶり・・・・・まぁ元気よ」
「アインシュペンナー(Einspaenner)でいいのかな」
「覚えてくれてたのね、嬉しいな」


あの頃とナンにも変わっていないお店、相変わらず閑散としていた。
一気に時間が戻ったかのような錯覚に陥った私は窓際の席に腰掛け、
バックから本を取りだしテーブルの上に置いた。

「・・・・癖もそのままだね・・はいどうぞ、ごゆっくりね」
マスターはコーヒーを置くとまたカウンターに戻っていった。
特別何かを言わない限り放ってくれる、そんな空間が好きで週に何度来ていたんだろう。


取りだした本を捲るわけでもなくカップを握りしめて、
最初はふんわりとしたクリーム、その次にほろ苦いコーヒー、
そして最後に沈んだザラメ糖のコーヒーの甘みが口の中一杯に広がった。
空っぽになったカップを覗き込んでいたら、ぽたりぽたりとカップに落ちた。
知らない間に涙が零れていた。

なにが悲しいんだろう・・・・・。
アインシュペンナーが人生と重なった気がした。
今、幸せのはずなのに・・・・・・・・・。



ほんの些細なことだった。
時間って意地悪で、甘いふたりだけの時を楽しみたいときは仕事も絶好調。
ベットを一緒にする時間さえ取れないことが続き、
いつの間にかパパとママになって・・・・・・。
彼は社会のど真ん中で自分の人生を続けていて、わたしは・・・。

なにに腹を立てたんだっけ。
そう・・・・クリスマスツリーよ。
忙しいのはわかっていたわ、
でもツリー飾るのは「パパと一緒じゃないとイヤだ」って凛が言うから、
あなたがお休みになるまで待っていたのよ。


「ねぇママ・・・パパを起こしちゃダメかな」
「もう少し休ませてあげてよ、ずっと忙しかったんだからね」
「・・・・だって・・もうすぐクリスマスになっちゃうよ、僕のうちだけキラキラが見えないと
サンタのおじさん行っちゃうかも・・・・ねぇママ・・・」

ポタポタ・・・・・・
足元に小さな水たまりが出来た。

「・・・・だからね・・・もうちょっと待っててね」
この言葉が引き金になって、凛が声を上げて泣き出してしまった。
その泣き声に反応するようにメグもグズリだした。


「・・・もう、頼むよもう少し休ませてくれよ」
二階から彼が下りてきた。


「パパ・・・パパ・・・」
凛が飛びついた。
「お願い凛、もう少しだけ眠らせてよ」ソファのクッションを抱えて彼が踞った。

「パパ・・・パパ・・・ねえパパ・・・」
「おい、ママ何とかしてくれよ」ソファに寝っ転がって彼が叫んだ。


わたしの中で何かが弾けた。

「おい でも、ママでもありません」

バックを掴むとわたしはもう玄関から飛び出していた。
もの凄い勢いで駅に向かって歩いていて、ハタッと立ち止まった。
ーわたしどこへ行ったらいいのかしらー


愕然とした。




彼とはここで初めて会った。
何度か通うようになってやっと周りを見渡す余裕ができ、
ひとりで座ってコーヒーを飲みながら本を読んでいる彼をみつけた。

仕事帰りの彼は濃紺のスーツと真っ白なシャツそしてレジメンタルストライプのネクタイ。
時々よく見ないとわからないピン・ストライプのスーツ、ヘラルディックのネクタイ、
その姿は格好いいなんて言葉を通り越して・・・そう ーりりしいー。

ページを捲る長い指、温かな瞳を包んだ眼鏡、組み替える足・・・・・・。

いつからかドアを開け彼の姿を目で探しているわたしがいた。
顔見知りになって、言葉を交わし、同じテーブルに座る頃、
季節は春から秋そして冬になっていた。

この窓から初雪が降っているのをみつけ、手を繋いで外に飛び出した。
毎年見ているはずなのにあの年の雪はきれいだった。



カップの中にポタ・・ポタ・・ポッタン・・・・。
ーもう・・何やってるんだか・・凛と変わらないじゃないー


「おや!雪が落ちてきたよ」
マスターが肩を竦めながら声を掛けた。
「全くいやになるよ・・・・寒くてかなわな・・・・・・・・・・・」

窓に目をやると大きな花びらみたいな雪がふわふわ落ちてきていた。
どうりで静かなはず、雪が音を吸収していたんだものね。
ーきれいねー
うっすらと被さった雪が窓の外を別世界に作り替えていた。


向こうの歩道で誰かが立ち止まった。
黒のコートに不似合いなマザーズバックを肩に掛け、
左手は大きなショールを抱え込んで、
右手はしっかりと・・・・・・・・凛の手を繋いでいた。


「ママ!おいしいよアイスクリーム、ママも食べる?」
「凛・・ママはいいからメグのお口に入れてくれる?」
「いいよ、メグ!はい、おいしいね」

「ごめん・・・」「ごめんなさい・・」
お互いに視線を避けて子どもたちの方を向きながらわたし達は同時に声を出した。
ちょっと照れくさい顔を見合わせた。

「ここがよくわかったわね」
「まあね・・・」
「探した?」

「パパねおばあちゃんたちのおうちに電話したんだよ」
凛の口を慌てて塞ごうとした彼の手にアイスクリームが付いた。

「でねでね・・・」
「リン!!」
「でね、パパね叱られてたよ、パパが出掛けるって言うから
僕がメグのお出かけバックを用意したんだよ。
だってねパパなんにもわかんないの」

彼の長い指がコーヒーカップに伸びた。

「凛、パパはねいろんなこといっぱい知ってるのよ」
「そうだよね、だって僕のパパだもんね」


「・・・・・愛ちゃんごめん」
「ジュンさん・・」
「君のこと愛ちゃんだってこと忘れていた。
凛やメグのママの前に僕の愛ちゃんだったんだよね。
だからごめん」

わたしの目からはさっきと違う熱いものが零れた。
彼の指がそっと伸びてぬぐい去った。

「凛、おうちに帰ってクリスマスツリーを飾ろうね」
「もう飾ったよ、ねえパパ」
「サンタさんが凛とメグのおうちですってわかるように窓の所に飾ったよね、凛」
「えーえー!ずるーい」

彼と凛が同じ笑顔を浮かべた。

「ほらね、やっぱりママがそう言うと思ったんだ僕」
「だから・・・ね」彼が凛にウインクした。
「ママ大丈夫だよ、一番大きなお星様はママのために残してあるんだよねパパ!!」


「イブはサンタさんを待って、クリスマスの夜はふたりでデートしよう」
「・・・・ジュンさん」
「もう、子どもたちは予約済みだよ。母さんが甘やかしたくって待ってるって」
「僕たちおばあちゃんの家にお泊まりするんだよね、パパ」


彼の右手がわたしの顎を掴まえた。
彼の左手が凛の目を塞いだ。


「パパがママにキスしてる!!!」

お店の外はしんしんと雪が積もっていた。




I saw Mommy kissing Santa Claus
Underneath the mistletoe last night.
She didn't see me creep
Down the stairs to have a peep;
She thought that I was tucked up
in my bedroom fast asleep.

Then, I saw Mommy tickle Santa Claus
Underneath his beard so snowy white;
Oh, what a laugh it would have been
If Daddy had only seen
Mommy kissing Santa Claus last night.



これからもよろしくお願いいたします。


お言葉をいただけますか?


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