恋愛遊戯 その3
 

「私の父はユです、どなたかとお間違えではございませんか」

下っ端の官僚としても務めも無難にこなしていたジョンウォンだが、酒の席だけは苦手であった。
同じ役所にいながら顔を合わせることのない者たちがこれ見よがしに、こそこそと何ごとかを囁きあっているのが聞くに忍びなかった。
ましてや自分のことをことさら執拗に聞くに及んでは、愛想も尽き果ててしまった。
いつもならば難なく聞き捨てる辛らつな言葉も飲み慣れない酒につい口が開いていた。

「ほぉ、そうなのかな」
目を赤く濁らせた年老いた官位の上がらない男が思わせぶりに吐き捨てた。
「まあまあ・・・ご先輩・・・そのようなことはいいではないか」
その場を取り繕うとする同輩を押しのけるように言葉をつなげた。
「まぁ私の見るところお主の風貌はあのかの淫蕩男チョ・ウォンに生き写しではないか」
その言葉に上座にいたものまでが息を呑んで静まりかえった。



あの上司たちまでも沈黙してしまったさっきの場を思い返しながら、ジョンウォンは側仕えを従えてぼんやりと歩を進めていた。
その時、自分を凝視する視線に気づいた。
ーアッ、あの男・・・・ー
「お前はもう帰っていいぞ、私は少し寄っていくところがある」
とっさにジョンウォンは側仕えに駄賃を渡し、遠ざけた。


側仕えが姿を消したのを確かめたようにあの男が近づいてきた。
「領主様・・・・」

ジョンウォンが全く気づいていないこの男が放つ色気にチャグンノミは圧倒されていた。
侮辱された怒りがジョンウォンをさらに引き立てていた。

「なぜ、領主などと呼ぶのだ、チャグンノミ・・・・・・・お前は何か知っていよう・・・」
チャグンノミは目が潤むのを感じた。
ーまるであの方ではないかー




ジョンウォンは黒いカッを外し、物珍しげに部屋を見回していた。
「失礼いたします」
障子越しに女の声がした。
酒肴の膳と年に似合わぬ派手な髪を結った女が入ってきた。
女は「まぁ・・」と言ったきりマジマジと顔を見入った。
「私はどなたかと似てるのか」
よく響く低い声が部屋全体を包んだ。


「そんな野暮なことは・・・・よいではありませぬか。まずは一献」
「いや、酒はあまり・・」
「酒も飲みようでございますよ、領主様」
如才ないチャンフィにかかっては赤子同然のジョンウォンであった。
「・・・領主様・・・?・・・何故そのような・・・」
「あら?そんなことを言いましたかね。ジョンウォンさま」


ジョンウォンは盃を手から滑り落とすとそのまま寝入った。
「ジョンウォンさま、お風邪を召しますよ」
チャンフィの声が笑っていた。


「ヨンエお前の部屋に連れて行っておあげ」
「わたしの部屋ですか」
この家一番の売れっ子をチャンフィは名指しした。


正体のないジョンウォンをやっとの思いで寝かしつけるとヨンエはスルスルと隣に潜り込んだ。
女将のチャンフィが下にも置かない接待ぶりを見るとただの客ではあるまい、そう思いヨンエは幼さが残る顔を見ていた。

数多くの男たちを見てきたヨンエでもこれほどにも美しい顔立ちは初めてだった。
さっきまで刺すような視線で妓生を見ていた冷たい黒い瞳は閉じられ、通った鼻梁、完璧な輪郭は見とれてしまうほどのであった。

思いがけないゆったりとした夜をヨンエは過ごした。



横に寝ていたジョンウォンは跳ね起きた時、ヨンエは目覚めた。
「まだお早いですよ、ジョンウォンさま」
「・・・お前は誰だ・・・」
「ヨンエと申します」
「わたしは・・・・酔いつぶれたのか・・・・」

ジョンウォンの慌てぶりを後目にヨンエの手はパジの中をなぞった。
「・・・な・・なにを・・」
「おなごに恥をかかせるものではありませぬ・・・」

「う・・・・」
ジョンウォンが小さい声を上げた。
「・・ジョンウォンさま、わたしにお任せ下さい」
ヨンエが仰向けにしたジョンウォンに躰を沈めていった。
瞬く間にジョンウォンは果てた。






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