恋愛遊戯 その1
 

人の噂などどのみち語りぐさとなり、果たして実在していたのかどうかも疑わしくなる。
あの醜聞録から早十数年。
鬼籍に入るもの、地方からの輩出者、さらにはあの画集の存在すら知らないものが大半を占めていた。


「ジョンウォン、見事なものだ。父は鼻が高いぞ。この数年お前のような年で科拳の試験に通るものなどなかったぞ」
政界を引退したユ氏が満足そうにジョンウォンを見た。

科拳試験に合格のお祝いに並べられた趣向を凝らした料理を前に、ユ氏が老いが見えぬよう胸を反らした。
「のう、お前もそう思うだろう。何せ私の息子だからな」

物憂げに夫を一瞥するとソオクは艶然と微笑んだ。
「さようでございます、もちろんあなた様のお子ですから聡明であります」
あどけなく愛らしい無邪気だったソオクに熟し切った大人の色香が漂っていた。
そんなソオクにユ氏は目を細めた。


ジョンウォンは滅多に顔を合わせることのない両親に愛着を感じるわけでもないが、こうも喜んでいる父を見ると、年老いたせいか哀れにも思えてくる。
外に出ることをあまり好まなかったジョンウォンだが、科拳の試験や武術などで多くの人々に出会うと、言いようのない視線にぶつかることが度々あった。
誰もが何を言うわけでもないが、一様にじっと顔を見、そそくさと視線を外すのであった。
若い女のジャンオッに隠された視線はこそばゆく、年輩の男の視線は何かを思い出すようなものであった。

ジョンウォンも更なる政府の要職に付くために官僚として仕えていた。

ある夜、人々から施しを受けているような男がジョンウォンの前に立ち塞がった。
「・・・・領主さま・・」
人々が口にはするがはっきりとは言わなかった言葉がこの薄汚い男が発した。
「誰のことを言ってるのだ」
「あぁ・・あなた様のことです」
「私はユ・ジョンウォンです。その領主さまとやらではありません」
「・・・・さようですか・・申し訳ございません。私はチャグンノミと申します」
「チャグンノミ・・・ー小さい奴ーとは見えないが」
ジョンウォンは思わず笑いそうになってその男に目を向けた。

含み笑いをしながらその男はジョンウォンに近づき囁いた。
「昔あるお方が私のことをいつも ーチャグンノミー と呼んでました、あなた様もそうお呼び下さい」
若さ故の純粋さでジョンウォンは言った。
「お前のことを ーチャグンノミー と呼ぶことは私にはないと思うが」
「さようですね、でも覚えておいて下さい。きっとまた私と会いたくなりますよ。その時には ーチャグンノミー と声を掛けてください」
口元に笑いを湛えながら悲しい目をして男は立ち去った。
ただ「では、領主さま」と、一声を添えて。







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