<7> 仕切なおし

サンヒョクはウンヒを送った後、マルシアンへ行き、ジュンサン宅の鍵を封筒に入れ受付に預けた。

サンヒョクは、ウンヒの行動に戸惑っていた。そして、ずっと考えていた。
(ウンヒは、なんでこんな事をしたんだろう?ウンヒに、なんで何も言えなかったんだろう・・・・)


その夜、サンヒョクはジュンサンからの電話を受けた。
「今日、あれから社に来てくれたんだって? 鍵、受け取ったよ」
「ジュンサン。今日は本当にすまなかった」
「気にしなくていいよ。それで?」
「それで?」
「ウンヒさんとは、ちゃんと話し合ったのか?」
「・・・ちゃんと送って行ったよ」
「サンヒョク。聞いてもいい?」
「なに?」
「ウンヒさんの気持ち、気付いているよね?」
「・・そんなんじゃないよ」
「そう?」
「そう」
二人はこれ以上話が続かなくなり受話器を置いた。

ジュンサンはユジンに、ユジンが出掛けた後の話やサンヒョクとの電話内容を話した。
ユジンもウンヒとジュンサンがどんな話をしたのか、とても気になっていた。
ジュンサンは少し考え込んだ後、微笑みながら言った。
「ユジン。今度もう一度、お招きしてもいい?」
ユジンは少し不安そうに首を傾げた。
「どうなのかしら・・おせっかいじゃないかしら?」
「僕、ウンヒさんとせっかく知り合えたんだ。このままじゃもったいないよ。ユジンだって全然話を聞いてあげてないんだろ?」
「・・そうねぇ」
二人はなにやら相談を始めた。


次の日曜、青空が広がり気持ちのよいお天気だった。
サンヒョクはジュンサンから相談があると呼び出され、彼らの家へ向かった。
すると、家の前の路地で行ったり来たりしているウンヒを見付けた。
「君、なんでここにいるの?」
「あっ・・あの・・ユジンさんに呼ばれたんです・・
 あの、私・・やっぱりちゃんと謝らないといけないと思って・・キムプロデューサーは?」
「・・僕はジュンサンに呼ばれた」
サンヒョクは思った。
(あの二人、まったく・・なに考えてんだよ・・)

ともかく、二人でユジンさん宅へ向かうことにした。

キムプロデューサーと一緒かぁ・・。私きちんと謝れるのかしら?

玄関の鍵が開いていた。
中からユジンさんの声が聞こえてきた。
「ジュンサン! どうしてこの図面がやり直しなの?」
「・・・」
「ジュンサン! 聞こえているんでしょ?」
「ふう。仕事の場合はミニョンなの!ユジンが言ったんだろ?仕事と家庭は切り離しましょうって・・」
「じゃ。ミニョンさん。私も納得できるように説明してくれない?」
「・・・」
「理事!」
「ミニョンはもう退社しました。(笑) あのなぁ、ユジン、もうちょっと器用になれよ。」
「だって、さっきの話じゃ最初の条件提示と全くちがうわ。」
「そう・・こっちの方がいいと思ったから条件から変えたの。わかった?」
「待ってよ。 そんな・・」
ユジンは図面から目を離せないでいた。

私とキムプロデューサーは顔を見合わせた。
この場面に入っていっていいのかしら?

キムプロデューサーがドアを静かに開けた。
ジュンサンさんはすぐに気付いたようだった。
「ホラ、ユジン、お客さんだよ。仕事はこれで終わり!」
「・・」
ユジンさんは険しい表情で、まだ手元の資料を見ていた。
ジュンサンさんは、まるでそれが見えているかの様にユジンさんの手をとり言葉を続けた。
「・・大丈夫だよ。ビルも相談に乗ってくれるし、僕も手伝うし、ポラリスのチョンユジンだったら出来ると思ったんだから・・・。ユ、ジ、ン。お客様!サンヒョクとウンヒさんだよね?」
ユジンさんは、慌てて顔を上げた。
「あっ。いらっしゃい・・」
「ユジン。シャワーでも浴びて、頭から仕事を抜いといで。」
「・・はい。」

わたしは、いつ挨拶をするか迷っていると、ジュンサンさんとキムプロデューサーが話し始めた。
「ゴメン。サンヒョク、ウンヒさん。いつもはこうではないんだけど・・」
「ジュンサン、ユジン泣きそうだったぞ。優しくしてやれよ。」
「十分優しいつもりなんだけどなぁ(笑)」
「それで、いつもこんな感じで喧嘩しているの?」
「まさか、いつもこんな感じでいい物作っているの!ユジンには無理も聞いてもらっているからね。」
「ふーん」

ジュンサンさんが私の方へ笑みを浮かべながら言った。
「ねぇ、ウンヒさん。キムプロデューサーよりよっぽど僕の方が優しいでしょう?」
「えっ、あっ・・はい」
「なんでだよ。僕はそんなに厳しくないぞ!」
「まぁ、ウンヒさんの証言次第だな。ねぇ?」
ジュンサンさんはウインクをしながら言った。
「・・えっと・・お二人、似ているんですね」
私の言葉にジュンサンさんとキムプロデューサーは、二人で笑い始めた。
「オイ、似ているんだって・・そんなこと初めて言われたなぁ」
「そうだよ。全然似てないよ。こいつとなんか」
「兄さんに向かってこいつと言うのか? サンヒョク、言葉使いに気を付けなさい(笑)」
「ハイハイ。お兄さま!(笑)」

そりゃ、タイプは全然違うかもしれないけれど・・・
仕事に厳しい所とか、笑顔が素敵な所は似ていると思ったんだけどなぁ・・
それにしても、こんなくだけた感じのキムプロデューサーを見るのははじめて・・

ユジンさんが『ごめんなさいね』と言って部屋に戻ってきた。
さっきの表情とはうって変わって柔らかな微笑を浮かべてくれた。

私は先日の事を謝らなくてはと口を開いた。
「・・あの・・先日は大変失礼しました!」
「アラ、私、失礼される前に、仕事へ行っちゃったから・・
 まだお話ある?なければ、お昼ご飯ご馳走したいんだけど・・ウンヒさんも手伝ってくれる?」

なんかユジンさんのペースに乗せられてしまった。
第一印象どおり、とっても素敵な人なんだなぁ・・お料理も手際よくって、そして美味しい!! 
私もこんな大人の女性になりたいわぁ・・

ご飯をご馳走になった後、先日の一件に触れることなく歓談してしまった。
覚悟を決めて訪問したわりに楽しい時間を過ごしてしまった。
これでよかったの??

私とキムプロデューサーは、夕方になる前にユジンさん宅を失礼することになった。

「ウンヒさん、今日は楽しかったわ。また来てくださいね。今度はサンヒョク抜きでもいいわよ!」
ユジンさんはウインクをしながら言い、私はペコッとお辞儀をした。
ジュンサンさんがキムプロデューサーに話しかけた。
「サンヒョク、ウンヒさんをちゃんと送って行けよ」
「・・わかっているよ!」

ユジンさん宅にいた時は上機嫌に見えたキムプロデューサーだったけど、私と二人になったら黙りこんでしまった。
私、キムプロデューサーにもちゃんと謝らなくては・・

キムプロデューサーは重い口を開いた。
「どこかで、話していかない?」
「・・はい」
私たちは近くの喫茶店に入ることにした。
「あの、先日は、私・・」
「もういいよ、終わった事だから。 でも次行動するときは、その、よく考えて・・出来ればその前に相談して・・」
「はい。申し訳ありません・・」

しばらく沈黙した後、キムプロデューサーが話し始めた。
「番組のことなんだけど、ウンヒのDJも評判上がってきているし、春の番組改編で番組枠が拡大しそうなんだ。」
「発表前に聞いてもいいんですか?」
「心積もりの話をしているの! 君の番組だろ?」
「はい」
「そうなると、番組の構成も少し変えようと思っている。音楽家のインタビューや、リクエスト枠をもっと増やしたり、クラッシックがベースだけれど、なにか新しい事やりたいんだ。君にもいろいろ勉強してもらうからね」
「はい!私も何か考えてみます」

私は、この際と思ってキムプロデューサーに伺ってみた。
「キムプロデューサーから見て、私のDJってどうなんでしょうか?」
「よくやっていると思うよ・・・ 声色も落ち着いてきたし。日によって、出来不出来がばらつくのは今後の課題かな。ユ先輩のあとだったから、やりにくかっただろう?リスナーも耳が肥えているしね。 ユ先輩は、ソフトな語りに、柄にもなく文学的なところもあったからね。でも、番組の投書に君の元気な語りに勇気付けられたなんてのもあったな・・」
「えっ? そんな投書があったんですか?」
「あれ?見せていなかったかな?」
「見てませんけど・・」
「まあ、見ない方がいいものもあるから」
「見ない方がいいものって?」
「知りたい?自信なくすかもよ?(笑)」
「んー。やっぱり知りたいです!」
「そう言うと思ったよ。明日、僕のデスクに来て」
「はい!」

キムプロデューサーって笑うとかわいいかも・・
なんか、今日一日終わるのが早かったわ・・


サンヒョクは思った。
( ふー。なんか疲れたけれど、なかなか・・ヘンな一日だったなぁ・・)




****

次回からはきちんと軌道修正して、ちゃんと職場恋愛にしたいな..と。
チュンサン&ユジン、時にはサンヒョクを助けに回るのも自然かな..と。
そして..チュンサン&ユジンもこんな風に夫婦でお仕事をしてもらえたら..
いろんな願望が詰まった<7>でした^^

秋も深まったある日。仕事の合間を縫って、いつものように屋上へ行く。


キムプロデューサーが申し訳なさそうに、私ウンヒに原稿を手渡した。
私の原稿はボロボロになっていた。
「ゴメン。家で読もうと思ったらチビにやられちゃって・・」
「チビ?」
「おととい子猫を拾ってね。今、家に居るんだ。」
「えー!いいなぁ。私、猫、大好きなんですけれど、アパート飼っちゃいけなくって。キムプロデューサーの住んでいる所はペット可なんですか?」
「まあ・・基本的には駄目なんだろうけど・・」
「今度、見に行ってもいいですか?」
「知り合いが獣医をしているから、今度の日曜に、そこに預けて、
 新しい飼い主さんを見つけてもらおうと思っていて・・」
「じゃ、私、今度の日曜に伺ってもいいですか?」
「・・いいよ」


日曜日。きょうは秋晴れ。
キムプロデューサーに描いてもらった地図を見ながらマンションを訪ねた。
子猫ちゃん「チビ」に会いたくて勢いでここまで来てしまったけれど、よく考えたら、ちょっと大胆だったかしら・・

キムプロデューサーのお家はきれいに片付いていた。
私が想像する男の一人暮らしとはちょっと違うみたい。あまり、キョロキョロしても失礼か・・
キムプロデューサーは平然としているように見えた。ドキドキしているのは私だけみたい。

「あの・・一人暮らしなのにずいぶん広い所に住んでいるんですね」
「あぁ。結婚後の新居にって考えていた所だからね」
あっ、いけないこと言っちゃったかしら・・。
「・・すみません。余計なこと言って」
「いいよ。別に。(笑)ここにお客さんが来るって珍しいことだから・・その辺に座っていて。
 いま、お茶でも入れるから」
「・・おかまいなく」

私の足元に、小さくてフワフワの茶色のトラ猫が寄ってきた。
「かわいい! おいで、チビちゃん こんにちは〜 はじめまして」
私は子猫を膝の上に乗せ、そっと撫ぜた。
チビちゃんは気持ちよさそうに私の膝の上でまるくなった。

キムプロデューサーがお茶を入れてきてくれた。
「おまたせ。チビ、お客さんの上に乗っかっていたら失礼だろ。こっちにおいで」
「いいですよ、賢い猫は猫好きな人が分かるんですよ。ねえ?」
「僕もけっこう好きなんだけど・・」
「私の方が上って事ですよ!」
「・・まぁ、そういう事でもいいけれど・・」


私の膝の上で眠っていたチビちゃんが『くしゅん..』とくしゃみをした。
わぁ! なんてかわいいのぉ。
キムプロデューサーに視線を上げると、目を細め首を傾げて優しい表情をしていた。
そうですよね、かわいいですよね.. 私はキムプロデューサーのまねをして首を傾げた。
キムプロデューサーは静かに笑った。

キムプロデューサーが座るとチビちゃんはスーっと移動していき、彼の膝の上に乗った。
私とキムプロデューサーは顔を見合わせて笑ってしまった。
「あー、どうして行っちゃうの!キムプロデューサーが寂しがるからチビちゃん気を使っているんですよ」
「そうかそうか。やっぱり僕の方が猫好きなんだよなぁ」
キムプロデューサーは子猫を抱き上げて頬ずりをした。
私はそれを見て吹き出してしまった。
「あはは。サンヒョクさんは仕事場の顔とずいぶん違うんですね。もしかして帰ってきた時に『ただいまぁ。いま帰りまちたよぉ。』とか言っちゃったりして・・」 
キムプロデューサーの憮然とした表情に、
「図星なんだぁ!(笑)」
「ウンヒ!うるさい。けっこう大変だったんだぞ!子猫と暮らすというのも・・夜はミーミー泣くしベッドの真ん中は占領されるし・・こいつ、最初カバンの中に寝ちゃったんだぞ。どこ行ったのかと思って探しちゃったよ」
「・・こんなに可愛いのに・・よく手放す決心しましたね」
「しょうがないよ。ここのマンションは駄目なんだから・・チビが幸せになればいいんだ」
「へぇ。寂しいくせに。正直じゃないんですね」
キムプロデューサーは軽くため息をつき、また苦笑いを浮かべた。

「・・早く、お茶飲んじゃって! ヨンゴクの所へ行くんだから」
「知り合いの獣医さんはヨンゴクさんと言うんですか?」
「そう。ヨンゴクは僕の親友なんだ」
「あの・・私って付いて行ってもいいんでしょうか?」
「えっ、行かないの?」
「行きますよ!私がチビちゃんを抱いていってもいいですか?」
「最初からそのつもりだけれど」

私ってキムプロデューサーの親友にまで会ってしまっていいんだろうか?

キムプロデューサーの車でヨンゴクさんの動物病院へ向かう。
「よう!」
キムプロデューサーとヨンゴクさんは、いきなりボクシングのマネをしてじゃれ合っている。
いい大人同士なのに・・
「サンヒョク、久しぶりだな!近頃忙しいのか?誘っても全然顔を見せないじゃないか」
「悪い悪い。それで連絡した子猫を連れてきたんだけれど」
私はヨンゴクさんにチビちゃんを手渡した。
「OK。こういうことは任せてよ。ん、健康状態はよさそうだな。よしっ。そういえば僕の助手が子猫の飼い方をFaxしたはずだけど、わかったか?」
「ああ。獣医から飼育方法を伝授されるなんて、受け取った時は緊張しちゃったよ。でも、Fax1枚にすごく分かりやすくまとめてあったよ」
「そう。どんな内容だったか見たかったよ。先生としてね」
「ヨンゴクが先生ねぇ..世の中変わるもんだよ。(笑)」
「なに言ってんだ」

ヨンゴクさんが私の方を振り返り、言った。
「サンヒョク。ところで・・彼女は?紹介してくれるんだろ?」
「ああ、彼女は僕がやっている番組のDJ、チェ・ウンヒ。こっちは僕の悪友のクォンヨンゴク」
「あの・・はじめまして」
「あー、ウンヒさん!あのウンヒさん!へぇ・・」
「何だよ?」
「ジュンサンから聞いたんだ。ウンヒさんけっこう勇ましいって(笑)」
「あの・・ジュンサンさんともお知り合いなんですか?」
「そう。俺たち高校の同級生。放送部の仲間なんだ」
「えっ?」
ジュンサンさんってお兄さんじゃなかった?
私が不思議そうにしていると、キムプロデューサーがヨンゴクさんに向かって言った。
「まぁまぁ、そういうことは・・ ところでジヒョンちゃんは元気?」
「元気元気!今日もジンスクと二人で出掛けちゃったよ。サンヒョク、女の子はなぁ成長するのが早いぞ。すっかりオマセさんに変身だ。近頃はジンスクみたいにしゃべるんだぜ。お前も子どもと一緒に遊ぶ夢があるなら、男の子だぞ!」
「なに言ってんだよ。いつもはジヒョンちゃんを目に入れても痛くない程可愛がっているのに。これだもんな」
「・・ところで、お前たちは・・その・・お付き合いをしているの?」
私が口を開く前にキムプロデューサーが言った。
「チビが彼女の大切な原稿をかじっちゃって。そのお詫びに夕飯でもご馳走しようと思って。」
私はそれを聞いてちょっと驚いた声が出た。
「えー!そうだったんですか?」
「何だと思っていたんだよ?」
「・・そう思っていました」
わたしとキムプロデューサーの会話を聞いていたヨンゴクさんが『フフッ』と笑った。

キムプロデューサーは言った。
「ヨンゴク、じゃあ、頼んだよ」
「頼まれたよ。オイ、サンヒョク。たまには俺も遊んでくれよ」
「はいはい」

わたしとキムプロデューサーはキムプロデューサーの車に乗り込んだ。
「私、なにをご馳走してもらおうかなぁ?」
ちらっとキムプロデューサーの顔を見上げると、「何でもどうぞ」と返ってきた。
何でもと言われると、案外・・思い付かないものなのね。
「じゃ、局の近くのいつもの所へ行きましょう」
「えっ、それでいいの?」
「その方が落ち着くじゃないですか?」
「では、ウンヒさん、参りましょう」

ここにキムプロデューサーと来るのも普通になってきたなぁ。
いつもの席に座った。
「聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「ジュンサンさんってお兄さんなんですよね?同級生?」
「んー。よく分かるように言えば・・異母兄弟なんだ」
「そうなんですか」
「他に質問は?」
「んー、今はいいです」
「そう?質問はこれで締め切るけど、いい?」
「私に何もかも教えてくれる気になったんですか?」
「ハハ。言うねえ」
「日々、鍛えられていますから(笑)」
「なるほど(笑)」

帰り道、外は思ったより冷え込んできた。
あー、もう1枚着て来ればよかった。さむっ。
キムプロデューサーが自分のジャケットを脱いで、私の肩にふわっと掛けてくれた。
「いいですょ、サンヒョクさんが寒いじゃないですか・・」
「遠慮するな。大切なDJに風邪でも引かれたら困るし、また代役でマイクを握るのは勘弁してもらいたいからな(笑)」
「え・・でも・・」
「いやなら、やめとく?」
「あっ、貸していただきます!」
「そう、素直でよろしい!(笑)」
キムプロデューサーのジャケット。煙草の香りがする・・
私が着ると大きくってブカブカで手なんて全然出なかった・・でも、あったかーい・・
これを借りちゃったってことは・・キムプロデューサーの方へ視線を投げた。
「でも・・やっぱり寒いですよね?」
「あぁ。さむいさむい!(笑)」
「じゃあ。お返しします!私の方が若いですから」
私はキムプロデューサーの歩みを止めようと、後ろ向きに歩きながらジャケットを脱ごうとした。
「いいよ、こういう時は黙って借りておきなさい。」
「そういうのってやせ我慢って言いませんか?サンヒョクさんこそ風邪引いたらどうするんですか?」
「あのなー」
「なんですか?」
その瞬間、私は何かにつまずいてしまった。『ああ・・あっ』
キムプロデューサーの手が私の腕をつかみ、引き寄せられた。
反動でわたしの顔はキムプロデューサーの胸の辺りにぶつかり、抱き寄せられた格好になってしまった。
「ホラ!歩く時は前を向いて歩く! まったく・・」
私は自分の顔が火照っているのを感じた。
なに意識しちゃってるのよ・・私は・・

私はなんだか恥ずかしくって、話題を変えた。
「チビちゃんがいないから、今日から静かに眠れますよ」
「そうかぁ」
「そうですよ。一人暮らしは帰ると部屋は『シーン』って音が聞こえそうなくらい静かですからね。チビちゃんがいないとその静けさが身に沁みますよ。きっと」
「おいおい、僕を追い込まないでくれよ。そうだな。やっぱり寂しいかなあ・・いつも一緒に寝ていたからなぁ・・」
「私、添い寝してあげましょうか?」
「・・・」
「冗談ですよ。そんなに顔赤くしないでくださいよ」
「俺って、おちょくられている?」
「えへへへ」




*******

本編のようなダイナミック展開はありません。じわじわっと・・です^^
サンヒョクはちょこっといい男に成長してもらって.. ちょっとづつ『恋』へ行きたい!

春うららかな日、放送局の廊下で、ユ先輩が声を掛けてきた。
「サンヒョク! ユジンさん、フランスから帰って来たんだって?」
「えっ?」
「さっきの電話、聞こえちゃったんだ。お前、顔、にやけているぞ!」
サンヒョクは慌てて手を顔に当てる。
「オイ!よりでも戻りそうなのか?」
「・・・それはないよ。絶対に・・」
途端に曇るサンヒョクの表情に、ユ先輩はサンヒョクの肩を叩きながら言った。 
「心優しき先輩からの忠告だ、心して聞け。
 そろそろ、その指輪外した方がいいぞ。お前の為にも、ユジンさんの為にも」
「・・・これは御守りみたいな物だから..ユジンの前では外しますよ」
「お前、面度くさくないのか? 制作部でも噂されているぞ」
「知っていますよ。ひどい振られ方をしたから女性不信になって、
女除けの為に指輪をしているって、あれでしょう? 
僕にとっては、どうでもいいことですよ・・」
「あのなー。そんなものをしていると、新しい恋は始まらないぞ!」
「・・・」
「そろそろ、傷心癒して、自分の幸せつかまないと、すぐお爺さんになっちゃうぞ」
「・・そういう先輩も独身でしょ。僕は先輩が幸せになったら考えます。
義理堅いでしょ。年功序列をまもりますよ」
「相変わらず、言うねえ」

こんな心遣いをしてくれる先輩との名コンビを、解消する日が突然やってきた。
番組改編の時期でもないのに、ユ先輩と組んでいるクラッシック音楽の番組
『憩いの夕べ』、DJの交代を言いされた。
サンヒョクは納得できず、上司に説明を求めたが決定事項だと告げられた。

ユ先輩の慰労会を兼ねた打ち上げの夜、騒がしい店の中で
「そんなに落ち込むなって。俺は希望が叶って深夜帯への移動なんだから..
 また一緒に仕事をする日もあるさ」
「寂しがっている訳じゃないですよ・・
あの番組は先輩の才能とキャラクターに頼る所が大きかったから、
心配なんです。僕も、他の企画に時間取られていますし・・」
「俺の後任、誰が来るか知っているか?」
「ええ。今年で2年目の女の子らしいですね・・明日顔合わせです。
 ・・何とかするしかありませんけど・・」
「その女の子、前の番組でシナリオライターのハンさんと揉めちゃったらしいよ。
 まあ、癖のある人だけど・・君も新人教育の任に付かされたって所だな」
「ふー。局内の不良オヤジの次は、問題娘ですか。僕もついていませんね」
「先輩に向かって不良オヤジはないだろ。
 まあ、マンネリも嫌いじゃないが、新しい環境で、お互い心機一転頑張ろうぜ!
 相談くらいは乗るからさ」
「頼りにしていますよ。先輩!」




****

ユジン一筋で歩いてきたサンヒョク 
なんとなくですが・・
ユジンの幸せを見届けないとサンヒョクは次のステップに進めない気がして・・
空白の3年間に「恋」は用意してあげませんでした。サンヒョク君ミアネ^^はじめに





冬のソナタ To the Future 2005 Copyright©. All Rights. Reserved
当サイトのコンテンツを無断で転載・掲載する事は禁じています