<2> 大失敗
 

頑張っていたのに、私、チェ・ウンヒは大失敗してしまった。


それは、夏の日差しを感じるようになって間もなく、新スタートを切って番組も軌道に乗り始めた頃のことだった。

ADのミンウが、サンヒョクのところへ慌てた様子で駆け込んできた。
「ウンヒさんがまだ来ません」
サンヒョクは時刻を確認する。
「最終打ち合わせの時間も、とっくに過ぎているじゃないか..連絡は?」
「ないです!」
「ないで済むか!」
「キムプロデューサー、どうしましょう?」
ミンウは半泣きだ。時間がない。サンヒョクはユ先輩に連絡を取るため受話器を握る。
「もしもし、先輩! 局のスタジオまで何分で来られます?」
「おいおいサンヒョク、こっちはまだ睡眠時間だぞ」
しかし、サンヒョクの切迫した声に、ユ先輩はすぐ反応した。
「30分はかかるぞ」
「20分で来て。ピンチヒッターお願いします!」
 
ユ先輩がスタジオに滑り込むと同時に、選曲リストと進行表を手渡す。間一髪!
ユ先輩は、何事もなかったように、番組を始めた・・

番組は滞りなく終了した。
「オイ、久しぶりに焦ったぞ。お前、さては、しごき過ぎて、ウンヒちゃんに逃げられちゃったのか?
 女の子には優しくしなくちゃ..」
「・・先輩。ありがとうございました。助かりました」
「ホント、人使いのあらい後輩だ!」

そこへ、ウンヒが汗まみれで駆け込んできた。
「申し訳ありません!!」
みんなの視線がウンヒに注がれた。
「本当に申し訳ありません。すみませんでした!」
サンヒョクは言った。
「・・・生番組に、遅刻はご法度なのは承知しているな!
 ・・まず理由を聞こうか。この時間、渋滞も大事故もなかったはずだ。
 お母さんもお元気そうだったから病気でもないな! 理由は何だ!」
「えっと、途中で・・」
「妊婦さんが産気付いたとか言うなよ!」
「・・・・すみません」
ウンヒの声は次第に小さくなり、涙が流れる一歩手前。
サンヒョクは思った。
(あああー、泣くなんてずるいぞ。 これだから..これ以上言えないじゃないか..)


「ユ先輩がピンチヒッターをしてくれた。ちゃんとお礼とお詫びを。
 他のスタッフにもかなり負担をかけた。きちんと一言入れておくように。
 明日までに始末書と、原稿用紙5枚分の反省文を僕に提出するように。
 分かったら返事!」
「ハイ・・謝りますし、お礼もきちんと言います。
 反省文? 学校の先生みたいなこと言うんですね。」
「トイレ掃除もつけるか?」
「若いからって、馬鹿にしていませんか?」
「・・いやなら辞表を書いてくれ。責任感のない奴は-―」
見かねたユ先輩が話に割って入る。
「ウンヒ、始末書と反省文、書くよな?
 サンヒョク、誰でも失敗の1度や2度あるだろう?
 そのくらいで勘弁してやれよ。何とかなったんだから。
 ところでウンヒ、僕は自分の番組までたっぷり時間があるんだ。
 お礼としてご飯でもおごって!
 サンヒョクも、この俺を引っ張り出したんだから一緒に行くぞ!」

ユ先輩のおかげで、事態は何とか収拾する。
(今まで、仕事でこんな体験はなかったよなあ。ユ先輩の偉大さが身に沁みるぜ。)


ユ先輩がこっそりサンヒョクに耳打ちした。
「聞きしに勝るじゃじゃ馬だな・・君の苦労が目に見えるようだ..ガンバレよ」


私ウンヒは、ユ先輩のよく行くお店に連れてかれた。
この面子でご飯を食べに来るなんて、はじめて。
ユ先輩が間に入ってくれたおかげで、雰囲気的に助かっている。
ユ先輩はお仕事が控えているからお酒は飲まなかったけれど、
私とキムプロデューサーにはお酒を勧めてくれた。
こういう機会に親交を深めなさいって・・
私の謝罪の後も、キムプロデューサーはずっと不機嫌な顔しているし、
私も気まずいので、この際、飲んじゃおう。
だんだん酔いが回ってきた。
いつもは怖くて話すのにとっても勇気がいるのに、真横に座ると目も合わないし、
何でも言えちゃいそう..お酒の力って凄いわ。
「まだ怒っているんですか? キムプロデューサーって私のこと嫌いでしょ?
 私、そういう勘は鋭いんです。私が不出来なのは認めます。
 でもそんなに睨まないで下さい。」
「・・睨んでないよ・・先輩、どうにかしてくださいよ。」
「キム・サンヒョクのこういう姿って、長い付き合いだけど見た事なかったな・・
これは貴重だぞ(笑)」
「ちゃんと反省しました。お説教タイムは終わりにしません?」
「開き直るな!」

キムプロデューサーが大きな声を上げた時、彼の後ろから、誰かが肩に手を乗せた。
「サンヒョク。こんなところで、女の子を怒鳴るなんて、あなたらしくないわ。」
「・・ユジン・・」
落ち着いた感じの綺麗な人だった。せっかくの助け舟、乗らなくちゃ。
「ガミガミ言うんですよ。泣いちゃいそうですよ。」
「お前、自分がした事、棚に上げるな!」
その人はキムプロデューサーを押し留める様に、優雅に首をかしげた。
わあ。大人の女の人って感じ。私、ファンになっちゃう。
その人は、ユ先輩にも軽く会釈し、ふわっと通り過ぎようとした。
キムプロデューサーはすぐに後を追った。

何? キムプロデューサーの瞳、いつもと違う感じ?

私はユ先輩に尋ねた。
「誰なんですか?」
「サンヒョクの昔の彼女だよ。けど、その話題には触れるなよ。
古傷には触れないのが大人のエチケットだ。」
いつにないユ先輩の厳しい視線に、私はうなずいた。


サンヒョクはユジンに会ったのは久しぶりだった。
「ユジン、今日はどうしたの?」
「私はクライアントと打ち合わせ兼お食事よ。」
「後で話せる?」
「今来たところだから、時間かかるわ。」
「仕事、うまくいってる?」
「ええ、大忙し。ジョンアさんは前より人使いあらいみたい。(笑)あなたは?」
「まあまあだ。問題娘の教育に手を焼いているよ。」
「アラ。可愛らしいじゃない。」
「..ジュンサンから連絡はあるの?」
「..ないわ。でも心配しないで。」
「以前みたいに、なんでも相談してくれていいんだからな。」
「ありがとう。サンヒョク。」


キムプロデューサーが席に戻って来た。
「先輩は?」
「時間だからって、局に戻りました。」
「そうか、君も帰っていいよ。帰って始末書と反省文、書くんだろう?」
「キムプロデューサーは帰らないんですか?」
「ああ。」
ふーん。あの綺麗な人待っているんだ。
「送ってくれたりはしませんよね?」
「・・今日、デートした彼に送ってもらえば。」
ひゃー。キムプロデューサーにバレている。何で分かったんだろ?私が不思議に思っていると、
「いつもよりおしゃれしていたから、だいたい判るよ。」
これ以上怒られる前に帰ろうっと。
キムプロデューサーって意外に鋭いのね。


反省文? ちゃんと指定枚数で書きましたよ。
大失敗の後は、気を引き締めてお仕事しなくっちゃ。
もう、彼が突然会いたいって言っても行かないわ。今は信頼回復が一番よ。

秋も深まり、はじめは失敗ばかりだったけれど、この頃、私も仕事に自信が出てきて、大体の事は私とミンウで対応できるようになった。
キムプロデューサーに相談することも少なくなり、ちょっとだけ任されてきたって感じ。
君のキャラクターが固まっていないとか言われるけれど、私は成長中なんだから、
型にはまってなんかいられないわ。




****

ウンヒって..こんな感じです。
自然とパワーのあるウンヒに一人称を取られています。あは!
「ラク」な描き方に逃げた説もありますが、勢いだけ突き進んでいます。





冬のソナタ To the Future 2005 Copyright©. All Rights. Reserved
当サイトのコンテンツを無断で転載・掲載する事は禁じています