<終> ふたり


「あぁ〜あ、また約束はキャンセルだな」
サンヒョク、思わず、ひとり言が口を突いて出る。

それに自分が気付き苦笑いが浮かんだ。

ウンヒが職場を去ってから電話では話をしてはいたが、約束をしてもなかなか逢うことは出来なかった。
ウンヒが忙しかったり、サンヒョクの泊りがけの出張が入ったり、抜けられない用事が次々に持ち上がって来てはふたりの時間はなかなか訪れない。

 (仕方ないな。今日は、家で企画書でも書くか・・)
サンヒョクは、自宅の机の上に数々の書類を広げて、しばし、それに没頭した時間を過ごす。
すると、ドアチャイムの音が響いた。
「サンヒョクさん!今日、デートの約束ですよ〜」
ウンヒの元気な声がインターホンから聞こえてきた。
サンヒョクの頬が緩む、そして玄関に向かった。
「ウンヒ。来るんなら電話くれれば、迎えにくらい行くのに・・」
「来たかったから来たんです。早く会いたくって!」
とりあえず、サンヒョクはウンヒを部屋に招き入れる。

「あっ!お仕事中でしたか? よっ チーフプロデューサー!チーフプロデューサーともなると大変なんですね」
「これは・・後でするから・・」
「いいですよ。私、待っていますから・・私も急にお邪魔したんだし、切のいい所までお仕事してください」
サンヒョクがウンヒに笑顔を向ける。
「あの、その間、紙と書く物、貸してもらえませんか?今、ここまで来るバスの中で浮かんだイメージ、忘れないように書き留めたいんですけど・・」
サンヒョクは、レポート用紙と鉛筆をウンヒの前に差し出す。
「ウンヒもそれらしくなってきたんだね。忙しいのか?」
「・・そうでもないです。私の事は気にせず、キムプロデューサーの仕事にかかって下さい」
「そろそろ、キムプロデューサーは止めない?」
「はぁ〜い、サンヒョクさん!」

サンヒョクは引き続き机に向かい、ウンヒはその後ろのローテーブルでなにやら書き始めている。
サンヒョクがふと振り返ると、一心不乱に鉛筆を走らせるウンヒの姿がそこにあった。
なにやら身振り手振りをしたかと思うと、下を向きまたキョロキョロしながら言葉を紡ぐウンヒ。
サンヒョクが振り返っていることに気が付く事もない。
 (そういえば、ウンヒが書いている姿って見た事なかったなぁ・・)
しばらく見詰めた後、サンヒョクは自分の企画書の仕上げに入る。

ウンヒも、ふっとサンヒョクに視線を走らせる。
(あ〜!いつものキムプロデューサーだ。真剣な横顔、久しぶりに見られた!あっ、見惚れていちゃダメダメ、私も真剣にやらなくっちゃ!)

同じ空間にいるのに、別々に事をしている・・
でも、それも心地いい・・・

サンヒョクは企画書を書き上げて、ウンヒを振り返る。
ウンヒ? 

ウンヒは机に突っ伏せて眠ってしまっているようだ。足音に気をつけながら、ウンヒのそばへ歩み寄る。
ウンヒの下からレポート用紙を引きずり出し、そっと目を通す。
(? なんだ? なんかの途中のようだけど・・)

サンヒョクはウンヒの横に座り込む。ウンヒはその気配にまったく気が付かないようだ。
ウンヒの上体を起こし、自分の肩に持たれ掛けさしてみる・・
そして、顔を覗き込むが・・・・
(・・これは、熟睡だな・・)
何かの拍子に、サンヒョクの上にウンヒの上体が倒れてくる。
(うわっ、仕方のない奴だなぁ・・無防備な顔して眠るなよ・・ったく・・)

顔にかかった髪を耳にかけてやりながら、頬をつついてみた。
ウンヒ、まったく起きだす気配がない。


ふぅーっ。
サンヒョクはウンヒの髪を撫でながら想いに沈む。

            思えば、ウンヒって不思議な奴だよな。
             いつの間にか、僕の心に住んでいる・・
 今まで一緒にいたのが当たり前だったから、ここのところずっと会いたかったよ・・

            また、人を好きになるなんて思わなかった・・
                 もう、愛することなんて・・
                    ユジンの事・・
            忘れたい訳でも、忘れた訳でもないんだ・・
             封印した・・そんな感じだったのかな?

             ウンヒ、君が僕を心配そうに見ていたね。
              なんか見守られている気がしたよ・・
             そんなこと言ったら、君はおこるのかな・・・

                   今は、ウンヒ、君を・・
         うまく説明できないんだけど、一緒に居たいんだ。ウンヒと。

        1番近くにいて、君を応援してあげられる存在でいたいのに・・
       時には、弱音や、愚痴を聞いてあげられる存在でいたいのに・・・

            そう・・そう想っていてもいいのかな・・  ウンヒ。


サンヒョクは身体をひねり、近くにあった本を手に取る。
(・・少し、このまま、眠らせてやるか・・)


日が傾きはじめ、窓から差し込む西日が部屋の奥まで差し込んだ。
ウンヒは、まだ、かわいい寝息を立てている。
サンヒョクはウンヒの身体を揺する。
「ウンヒ! ウンヒ! そろそろ起きない?」
「あっ、うわぁっ!・・私、眠っちゃったんですね」
ウンヒが飛び起きた。
「僕を枕にした感想は?」
「えっ・・えっと、いい夢、見られました(笑) あの、今から出掛けます?」
「もう、今日はいいよ。それより。行き詰って眠るより書き上げて寝た方がいいんじゃないの?」
「あーっ!読みましたね?」
「ああ。この締め切りはいつ?」
「・・明日の15時です・・」
「じゃ、頑張らなくちゃ」
「もう帰ってからやりますから、・・すみません」
「帰ってからで間に合うのか?」
ウンヒは時計を見ながら、計算しているようだ。
「・・大丈夫です。間に合わせます」
「ウンヒ。近頃ちゃんと眠っているのか?もしかして、今日も仕事帰りにここへ寄ったのか?」
「は・・・い。昨夜は社に泊まったので・・」
「・・そんなことだと思った」

「じゃ、僕が夕飯作るから食べていけば?どうせ原稿はPCにおこすんだろ?僕のPC使ってもいいから」
「えっ。夕飯作るなら、私が」
「僕だって一人暮らしが長いんだ。簡単なものくらいなら作れるよ」
「じゃ、一緒に」
「ウンヒ!ウンヒは仕事を仕上げる!はじめが肝心なんだぞ」
「はぁ〜い」

ウンヒが、サンヒョクがさっきまで使っていた机に移動する。
サンヒョクが簡単に説明すると、ウンヒはすぐに仕事に取り掛かった。

サンヒョクはキッチンに向かいながらウンヒに尋ねる。
「ウンヒ。仕事うまくいっているのか?」
「もちろんです!」
「そう、それならいいけど」
「サンヒョクさんはどうですか?」
「うまくいっていないと思うのか?」
「そうですね・・私のいなくなった穴は大きい。それを埋めるのに苦労している・・とか?」
「はいはい。ウンヒがいなくなって放送もハラハラしなくてもいいんだ、その分助かっているよ」
「ふーんだ。帰ってきて助けてくれって言っても、私はもう戻りませんからね」
「誰が言うか」
ウンヒが振り返る。
「私、そばにいないと、寂しいです?」
「ああ、静かすぎて・・サミシイサミシイ(笑)」

サンヒョクは、自分のPCでカチャカチャ入力をしているウンヒの後姿を見詰めた。

サンヒョクが用意した夕ご飯がテーブルに並ぶ。
「ウンヒ、出来たぞ」
「はぁ〜い」
ウンヒは伸びをしてから立ち上がり、テーブルに向かう。
「けっこうお料理できるんですね。予想外でした」
「あのなぁ・・」
「だって、キッチンとてもきれいだったんだもん。使ってないのかと思っていました」
「そうだな、気分が向いた時しか作らないかな・・」
二人は向かい合わせに席に座る。
「いただきまぁ〜す」
なぜか二人の声が揃う。また目が合い、微笑を交わす。

「サンヒョクさん!コレ、おいしい!これならお嫁さんは必要なさそうですね(笑)」
「おいおい、そういう事言うのか?(笑)」



                     そうだな・・

            この先、いつになるかはわからないけれど・・
                    いつか・・そう・・
          毎日、こうやってふたりでご飯を食べられたならなぁ・・

                       ウンヒ
             君は、そう思ってくれる時が来るのかな・・・



                                       終わり


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最後まで読んで頂きありがとうございました。

「雪融け」はサンヒョクとウンヒの恋愛物語のプロローグになってくれればいいな〜〜のお話でした。

勢いだけで書き進み、UPして行ったお話ですが、Netで自分の書いたものを多くの方に読んでいただくことができ、とてもいい経験をさせていただきました。


じつはこのあとのお話を番外編の形で少々書いております。^^v




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