<20> 変化

また、暑い夏の日がやってきた。

私ウンヒが出勤すると、顔見知りのスタッフから声が掛かる。
「ウンヒ! よかったなぁ。やっと希望が通ったんだって?」
「えっ?」
「でも、この時期に移動なんて珍しいよな・・」
「あの〜」
「あれ? 内示受けてないの? もう掲示板に貼りだされているよ」
私は廊下を走るようにして掲示板のもとへ行く。

      【 チェ・ウンヒ A3エンターティメントへ出向を命ず 】

へっ? ちょっと、どういう事よ・・
私・・なんにも知らない・・なんにも聞いてないわよ!!

しばし掲示板の前で呆然としていると、また背後からまた声が掛かる。
「あっ、ウンヒさん。希望を出して1年になるんだってね。でも、よく希望通りましたね。珍しいですよ、人気DJがまったく違う世界に行くんだから・・」
「あの〜」
「キムプロデューサーに感謝した方がいいですよ。上を説得したりなんだりで、キムプロデューサーが直接動いたって噂だから」

どういう事よ! どうなっているのよ!
私は廊下をキムプロデューサーのデスクを目指して走り出す。
あいにくデスクは空席。今の時間は・・
「キムプロデューサーなら、今、会議室・・」
私は最後まで聞かずに体の向きをかえた。

会議室のドアを思い切り開ける。
室内の数名のスタッフとキムプロデューサーが一斉に振り返った。
「キムプロデューサー! お話があります!」
私は勢いのあまり大声を出す。
「ウンヒ、今は打ち合わせ中だ。話は後で聞く」
キムプロデューサーは憮然と答えた。
私の剣幕に押されてか、ほかのスタッフは口々に
「あの、僕達も煮詰まってきた所だし、コーヒーでも飲んできます。少ししたら戻りますから・・」
ひとり、ふたりと席をたった。

そして会議室にはキムプロデューサーと私のふたりきりとなった。
キムプロデューサーはあごの下で手を組み、私に視線を向ける。
「ウンヒ、なんだ?」
「A3エンターティメントへ出向ってどういう事ですか!」
「ああ、その事か。もう知っているの?」
「知っているって、今、掲示板に貼り出してあります。私の希望が通ったってどういう事なんですか!」
「ウンヒ、ちゃんと話すから、落ち着いて。・・・・ まずは座って」
座って話を聞く気にもなれず、キムプロデューサーを睨み返す。

キムプロデューサーがふーっと大きく息をついた。
「A3エンターティメントって、シナリオライターのハンさんのいる制作会社なんだ。ウンヒもハンさんを知っているよね。ハンさんにね、君の書いていた短編にずっと目を通してもらっていたんだよ。・・もう1年くらいになるのかな・・僕はシナリオの世界に詳しい訳ではないから、助言をもらっていたんだ。ちゃんと見てもらうからには、使い物になりそうだったら、ウンヒを引き抜いてもいい・・そういう約束だったんだ。ウンヒ? 聞いてる?」

唐突な話に、私はなにがなんだか事情が飲み込めない..
「・・なんで、なんで自分の事なのに私が後から知るんです?」
「ハンさんとね、そういう約束だったんだ。才能があるかないかを見極められるまでハンさんの名前は出さないって。ウンヒはハンさんと揉めた事があるだろ?ハンさんには僕の元で、2年間、バッチリ躾直したって言ってあるし、癖のある人だけれど、根に持つような人でもないから心配はいらないよ」
「・・・・」
「出向の形になるのは、修行にでも行くと考えて。ちゃんと実力が付いて、制作部に空きが出来れば、局に呼び戻すことも考えてもらうから。まだ、何か心配がある?」
「・・・・」
「番組のこと気にしている? 『憩いの夕べ』のほうも心配は要らない。当分の間はユ先輩が深夜と掛け持ちしてくれることになったんだ。まあ、生放送は負担が大きいから、録音になるけれど。ウンヒ?聞いている?」
「・・・私が希望出したって・・」
「だって、ウンヒの夢だろ?その・・大きい声じゃ言えないけれど書類はちょっとばかり手を加えたって言うか・・」
「そういう事・・・なんですか・・」
「ウンヒ?」
「いつから決まっていたんですか?」
「いつからって・・僕はチャンスのある時はチャレンジしてみた方がいいと思う。ウンヒはイヤなのか?」
「イヤなんて・・・・イヤなんて言っていません。・・そう、チャンス・・」
「ひとつ夢に近づけるんだぞ?」
「そうですよね・・・私の夢ですから!!ありがとうございました!!!」

私は来た道を、来た時の勢いのまま引き返す。

そうなんだけど・・そうなんだけど・・
私・・今のままでよかったの・・今のままで・・
あっ、でも・・こんな風に思ったらダメよね。
なんかわからないけれど、素直に喜んでいない私がいる・・

それから、私はキムプロデューサーと目が合わないように仕事をする。
なんとなく、目を合わせ辛かった。
片道切符を手渡されたみたいに・・急に放り出されてしまったように感じてしまう。
何も考えられない分だけ、目の前の仕事に集中するしかないわ!

いつものように、サンヒョクがウンヒをご飯に誘っても、気のない返事ばかりだ。
仕事面での会話も、紋きり口調・・

ADのミンウがサンヒョクに話しかける。
「ウンヒさん、出向が決まってからちょっとおかしくないですか?怖いくらいの集中ですよ。DJ生活の最後を満喫しているんですかね?飛ぶ鳥はあとを濁さずで、張り切っているんですかね?」
「・・・アレは、きっと怒っているな・・怒って口を利かなくなると、こっちはまったくお手上げだよ」
「怒ってる? なんで?」
「さぁな・・」


 

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2人の間にもうひと風を起こしてしまいました^^




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