もうキムプロデューサーの実家の前に着いてしまった。
私ウンヒは考えもまとまらず落ち着かなくって、思い付くままにキムプロデューサーに話しかけていた。
「・・あの・・、連絡もしないで帰っても大丈夫なんですか?」
「自分の実家だぞ?帰って怒られることはないと思うよ」
「・・でも・・私が付いて来たらいけないんじゃありません?」
「ウンヒ、自分の口から報告したいだろ? なんて頼まれたかは知らないけど」
「・・そうじゃなくてですね・・前、サンヒョクさんの家にお見合い写真がありましたよね?」
「あー。あれね。あれは全部断ったよ」
「どうしてですか?」
「僕は自分のお嫁さんは自分で見つける主義なんだ」
「へぇ・・」
そうなんだ。あは。あれ? 私ってなんでホッとしているのよ・・こんな状況なのに・・
「で? ユジンから預かったものは僕から渡す?自分で渡す?」
「サンヒョクさんは、何を預かったか、わかっているんですか?」
「大体ね。見当は付くよ。ユソンの写真だろ?」
「あたり〜!」
「ウンヒ。ありがとう。お礼を言うよ」
「えっ?」
「母さんに頼まれたんだろ?」
「えっと・・それは答えてはいけない事になっています!」
「ふぅ。なるほどね」
キムプロデューサーは、今度はどうしてだか?含み笑いを浮かべていた。
「なんですか?」
「ウンヒが困っている姿って珍しくない? なかなか・・かわいいよ(笑)」
「別に困ってなんかいません!」
「そう? じゃあ、行くよ」
「ちょっと待って下さい。・・・だって、なんて言うんですか?」
「あのなぁ。ウンヒはシナリオライターを目指しているんだろ? そのくらいは自分で考える!」
「・・・はぁ〜い」
もう! なるようにしかなりませんよ!
キムプロデューサーが玄関を開け、『ただいま』と家の中へ吸い込まれていく。
キムプロデューサーが振り返り私に手招きをする。
私も深呼吸をしてから『お邪魔します。』と入って行く。
リビングにはキムプロデューサーのお父様とお母様が揃っていらした。
おふたりともとても驚いた目をされて、キムプロデューサーと私を見ていた。
チヨンおばさまが最初に口を開いた。
「サンヒョクにウンヒさん・・」
キムプロデューサーはとびきりの笑顔で答える。
「今日、ジュンサンとユジンの家に、ユソンの誕生祝を持っていったんだ。その帰りに、ちょっと寄ってみたよ」
キムプロデューサーのお父様が、私から視線を外さずに、相づちを打つ。
「あぁ。行ってくれたんだな。その・・なんだ・・」
「あっ。父さんは初めてだったよね? こちらチェウンヒさん」
「ようこそ、ウンヒさん?」
「あれ? 母さんから聞いてないの?」
「母さんから?」
キムプロデューサーがいたずらっ子のような目をおばさまに向ける。
チヨンおばさまは慌てた感じで私に話しかけてきた。
「ウンヒさん。ちょっと。ちょっとこちらに来て手伝ってくださる?」
「はい」
私は挨拶もそこそこにチヨンおばさまに導かれるようにキッチンへ向かう。
リビングに残されたサンヒョクと父ジヌ。ふたりはポカンとしていた。
父ジヌが小声で尋ねる。
「サンヒョク。どうなっているんだ?」
「さあ、僕も知らない所で、仲良くしているみたいだよ(笑)」
「母さんの知り合いなのか?」
「父さん。母さんから何も聞いてないんだね・・」
「お前が女の人を連れてくるなんて、びっくりしたぞ。誰なんだ?」
「ウンヒは僕のやっている番組のDJだよ。チェ・ウンヒ。けっこう人気DJになったんだけどなぁ。さすがに父さんは知らないか」
「そうか、職場の人なんだな。で、なんで母さんと仲良くしているんだ?」
「僕も、分からないよ」
「母さんが、はじめて来た人を台所に連れて行くなんて、あるのか?」
「そういえば、そうだね」
二人はまた不思議そうに顔を見合わせた。
そして、サンヒョクはジュンサン宅での事を事細かに父ジヌに話し始めた。
ジヌは時にうなずきながら、時に目を細めながら熱心に聞いていた。
「父さん。ジュンサンに1度、ユソンを連れてここに遊びに来いよって誘ってみたけれど、迷惑をかけたくないと言われたよ」
「そうか。そうだな」
「父さんの方から、ジュンサンを訪ねてみたら?」
「サンヒョク。いいんだよ。こんな時だけ父親の顔をしても、ジュンサンも・・迷惑だ」
「そうかな?」
「お前から、時々話が聞けるだけでいいんだよ」
また父ジヌは遠くを見つめた。
サンヒョクは思った。
(いつまで、遠慮し合えばいいんだろう・・何とかならないものなのかなぁ・・・)
一方、キッチンでのふたり。こちらも声のトーンをおとした会話がなされていた。
おばさまが私を睨みつけている? そうよね・・
でも、悪い事はしてないんだもの。ここは頑張るしかないわ!
おばさまが詰問口調で話し始める。
「ウンヒさん。どういうことなの?」
「おばさま。私、お約束は破っていません。お預かりしたお品、きちんとお渡しして来ました」
「そうね。ありがとう。でも・・」
「あのですね。おばさま。サンヒョクさんの目は誤魔化せませんでした。なんとなく気が付いたみたいなんです。いつもながら、とっても鋭いんです」
サンヒョクさん! そういう事にしてくださいね!
ヒントは出したけど正解は言ってないから・・いいですよね?
「そう・・あの子は気がよく付く子だから・・そうかもしれないわね」
「ここへ来るのも急に決まって、私もびっくりしているんです」
「ウンヒさん。お願いだから知らん振りをしてね。何か聞かれて困った時は、私に視線を送りなさい」
「はい。あの・・おばさま。この際、内緒事はなしにして、お話してしまうのはどうでしょう・・」
「あなたね・・」
「おばさま。おばさまのお気持ちも分かるんですが・・私、サンヒョクさんに嘘を付くのはイヤなんです。今度聞かれたら・・言ってしまいそうです」
「・・そうね。サンヒョクは気付いているんなら・・」
「ありがとうございます!」
「あなたも、・・けっこうやるわね」
「そんなことは・・。あの、ユジンさんから預かり物があるんですが・・」
「えっ? ユジンに言ったの?」
「えっ? 内緒にするのはサンヒョクさんとおじさまなんですよね(笑) おばさま。ユジンさんはすぐに気が付かれたみたいです」
「・・そう」
「みんなで話している前では、はっきりとは口に出しませんでしたが、後でこっそりこれを頂いて来ました」
ユジンさんにお願いしていただいた写真数枚が入っている封筒を、おばさまにお渡しする。
「これ・・」
おばさまが封筒から写真を取り出す。
ジュンサンさんがユソン君を抱いている写真
ユジンさんがベビーベッドの横に座り込んでユソン君に顔を近づけている写真
ユソン君が大写しになっている写真
3枚が入っていた。
おばさまはじっくりと、1枚1枚を見ていた。
「あの、ユジンさん、どれか1枚にメッセージをお書きになっていたようなので、裏も見てください」
おばさまはその1枚にユジンさんからの走り書きのメッセージを見つけたようだった。
[ お心遣いありがとうございます。 チョンユジン ]
一瞬、おばさまの周りの空気が止まったかのように感じた。おばさまはさっと写真をポケットに仕舞い込んだ。
私はわざと目をそらし、言葉を搾り出した。
「・・何を、何をお手伝いしましょうか?」
おばさまは私のことを見ていた気もするんだけれど、目が合わせられなかった。
もう、怒ってないわよね? これで、難しい任務完了よね?
おばさまと一緒にお茶の用意をしてリビングへと運んだ。
キムプロデューサーとお父様は何か話していたようだったけれど、
みんなでテーブルを囲んでお茶を飲むことになった。
私は何か一生懸命お話した気がするけれど、もう、緊張して何にも覚えていないわぁ・・
ご挨拶をして玄関を出た時は、気が遠くなりそうだった・・
キムプロデューサーが車で送ってくれたんだけれど、助手席に座る頃は放心状態だったような・・
キムプロデューサーはそんな私を見て、ニコニコと話しかけてきた。
「さて、これからなんだけど。母さんとのいきさつなんかを聞きたいんだけど・・元気の素、補充しに行く? それとも、まっすぐ帰る?」
答えに詰まっている私を見て、
「仕方ないな。いきさつはまたの機会ってことにしてもいいけど・・」
「そうしてください。私も何から話したらいいか・・」
「ウンヒ? めずらしいね? 君が言葉に詰まるなんて。」
「他人事だと思って・・途中からたのしんでいませんでした?」
「ああ。たのしかった!(笑) しょうがないな。チョコパフェは、また今度にするか?」
「いいえ! これからご馳走になります!」
「そうこなくっちゃ!(笑)」
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どさくさに紛れて?ウンヒを実家に連れて行くことに。
サンヒョクには、今までのジュンサンとユジンとの関わり、ユソンの誕生をキム家で明言してもらいました♪
あとは..ジヌさんとチヨンさんの話し合い次第^^?
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