<16> 内緒事

5月、風薫る・・そんな感じか似合いそうな昼下がり
私ウンヒは取材から帰ってくると、局の正面玄関付近でキムプロデューサーのお母様を見かけた。
「あの・・おばさま?」
私が声を掛けるとおばさまは少し驚いたように振り返った。
「この前は、ありがとうございました。・・あの、キムプロデューサーに御用事ですか?私、呼んで参りましょうか?」
「えっ・・」
「確か、今頃は収録に入っていると思いますから、終わるのを待つと時間かかると思います。少しなら、抜けられると思いますが・・」
「・・いいのよ」
「そうなんですか?」
おばさまが私の顔をじっと見た。
「ウンヒさん。あなたは、お仕事いつ終わるの?」
「私ですか?私は、今日はこの取材の資料をまとめたら終わりですけれど・・」
「その後、お時間もらえるかしら・・」
「いいですが・・まだ1時間はかかりますが・・」
「じゃ、後1時間したら、またここへ来るわ」
なんだかよく分からなかったけれど、とりあえずお約束をして仕事へと戻った。

・・いったい、なんなのかしら?


1時間後、正面玄関に急ぐとおばさまが所在無げに立っているのが目に入った。
私は小走りに駆け寄り声を掛けた。
「おばさま。お待たせして申し訳ありません。あの・・なんでしたでしょうか?」
「ウンヒさん。私に付いて来てくださるかしら?」
「はい? それはかまわないんですが・・」


連れて行かれたのは百貨店のベビー用品売り場。
なんで? 一緒にショッピングしたかったとか??
私はよくこの状況が理解できないまま、とてもうれしそうにベビー服やおもちゃなど選んでいるおばさまに、半ば荷物持ちのようにくっついて歩いた。


今度は食料品売り場。簡単に調理できる缶詰め類、そして大量のわかめ・・
こんなに買って・・どうするのかしら? どっかに篭城とか?

一通りお買い物を済ませたおばさまは私に向かって言った。
「さあ、どこかでお茶でも飲みましょうか?」
また、引きずられるように喫茶コーナーへ足を運ぶ。
ニコニコしているおばさまになんと声をお掛けしたらいいのか、正直困っていた。
すると、おばさまが私に話しかけてきた。
「あなたに今日来ていただいたのには訳があるの。私の頼み事、聞いてくださるかしら?」
「えっと、私に出来ることでしたら」
「そう言っていただくと助かるわ。うちの事情、大体知っているわよね」
「えっ、・・まぁ・・そんなに詳しくは・・」
「これを、ユジンに・・ジュンサンとユジンに、あなたからと言うことにして渡してほしいの」
おばさまは今日購入したものを見詰めながら言った。
「なんで?・・なんでですか?」
「ユジンが、この5月中旬に出産予定と言うのは知っているかしら?」
「ええ。なんとなく・・」
「お祝いを贈りたいの・・」
「でしたら、私なんか通さない方が・・ユジンさんも気にしていたようでしたし・・あの・・差し出がましいとは思いますが、よい機会じゃないでしょうか?」
私は思ったことをそのままぶつけてみた。
「ウンヒさん。サンヒョクとユジンの事は知っているわよね」
「えぇ・・」
おばさまがまた小さくため息をついた。
「ユジンが憎くて仕方のない時期もあったの。ずいぶん酷い事も言ってしまったし、してしまった。後悔している事もあるし、していないこともあるわ・・もう何年話をしていないのかしら・・ユジンはね、幼い時からよく知っているのよ・・。今思うと娘みたいに成長を見てきたの・・ジュンサンは夫の子・・でもある・・あの子が出産するのに知らん顔も・・出来ない・・したくないの・・」

おばさまはテーブルの上のカップを見つめながら、とぎれとぎれに話をしてくれる。
でも、だんだん声が小さくなる。
私が聞いてしまってもいいのだろうか・・

「でも、いまさら、私から何かを言うことはできないの・・。気持ちがね。ついていかない部分ががあるの・・ 私がこういう事をするのは、夫にも、サンヒョクにも、知られたくないの・・あなたなら・・・と思ったのだけれど・・お願いできないかしら?」
「サンヒョクさんにも内緒なんですか?」
おばさまが静かにうなずく。
「・・・おばさま。おばさまがそういうお気持ちなら、なおさら、おばさまからユジンさん・・サンヒョクさんに託した方がいいんじゃありませんか?第一、 私がこんなにたくさんのお祝いを持っていくのは不自然だと思います」
「・・そうね。でも、お願いできないかしら?」
おばさまの真剣なまなざしに、私は断ることが出来なくなってしまった。

おばさまは不安そうな私に微笑みながら言った。
「大丈夫よ。サンヒョクはお祝いに行く時、あなたをきっと誘うから」
「なんで、そんなことわかるんですか?」
「なんで? 母親だからかしら」
なんだかはっきりしないまま大量のお祝いを託されてしまった。


私、そんなに器用じゃないのに・・渡すだけなら簡単なんだけど・・贈り主を隠すなんて・・
おばさまのお気持ちも大切にはしたいのだけど・・・
さて。どうしようか・・
・・バレちゃっても、その時はその時か! でも・・

そうか! ここはキムプロデューサーに自然に気が付いてもらえばいいんだわ!
私って、冴えてるぅ!




******

チヨンさん、取り巻く複雑な状況を何とかしていこうと、頼りにならない男性人になり代わり?行動を起こしてもらいました。
サンヒョクとの交際宣言前に、キム家とも関わりが先に深まっていくウンヒ..
ここは1つ、ウンヒに頑張ってもらいましょう。




冬のソナタ To the Future 2005 Copyright©. All Rights. Reserved
当サイトのコンテンツを無断で転載・掲載する事は禁じています