<13> サンヒョク、実家へ帰る

お正月、サンヒョクは久しぶりに実家へと足を向けた。
玄関の前で大きく深呼吸をしてから、『ただいま』と中へ入っていった。

母チヨンが、サンヒョクを玄関で出迎えてくれた。
「やっと帰ってきたわね。あなた、近頃、全然顔を見せないんだから」
「母さん、新年おめでとう。父さんに新年の挨拶をしてから、また、母さんの話を聞くよ」
「そうね・・今回はゆっくり出来るんでしょ?」
サンヒョクは笑顔を母チヨンに向けた。

父ジヌはリビングのソファにいつもと変わらず座っていた。
「新年、おめでとうございます。父さん」
「あぁ、おめでとう、サンヒョク。やっと帰ってきたな。母さんはいつもお前の話ばかりだ。たまには孝行していきなさい」
「はい、そのつもりです」

母チヨンがお酒の用意を整えて二人を呼んだ。
テーブルの上には、チヨンお手製の祝いの膳がずらりと並んでいた。
その横に厚紙の束が置いてある。サンヒョクはそれに気が付くと苦笑いが浮かんだ。
ジヌもそれに気付き、チヨンに言った。
「そういうものは、今は仕舞って置きなさい。サンヒョクだって気楽に母さんの手料理を楽しめないじゃないか」
「でも、近頃のこの子は逃げ上手になって・・話せるときに話さないと・・」
「サンヒョクは、今度は逃げ出さないさ。なぁ、サンヒョク」
二人の視線を痛いくらい感じて、笑いながら言った。
「父さんまで・・。出来れば、ご飯が済むまで、仕舞ってほしいけど・・ わぁ、母さんの味も久しぶりだなぁ。とっても美味しそうだよ」
サンヒョクは、お皿の上の豆腐焼きをひとつつまんで、口に入れた。
チヨンはサンヒョクの笑顔に、厚紙の束をテーブルの上からリビングの方へ持っていった。

「父さん、あれって、例の・・?」
「母さんの半分趣味だな。お前のお嫁さん探しが。けっこう美人もいたぞ。(笑) 見るだけでも見たらどうなんだ? 今度こそ、ちゃんと母さんの話を聞いていきなさい。母さん、お前が帰って来るのを首を長くして待っていたんだぞ」
「・・。父さん。あとで、話があるんだけど」
「・・ジュンサンのことか?」
「そう」
「わかった。後で、書斎で聞く」


サンヒョクが家を出て一人暮らしを始めて、はじめは寂しさを隠せないチヨンだったが、いつしかそれにも慣れてきていた。
それでも久しぶりの家族そろっての食卓は、チヨンにとってもジヌにとっても楽しい一時であった。


食事が一段落すると、チヨンは例の厚紙の束をサンヒョクの前においた。
「今日こそ、見てもらいますからね」
「母さん。僕はまだ結婚する気なんてないよ。仕事も充実してるし・・」
「あなた、自分の年、考えているの? そろそろ家庭を持ったって、全然おかしくないのよ」
「・そうかな・・」
「そうよ。あなた、まだ、ユジンの事・・」
「それはないよ」
「じゃあ、今、お付き合いしている人がいるの?」
サンヒョクの中でウンヒの姿が一瞬浮かんだ。が、
「そういう人はいないよ。いれば、ちゃんと紹介するよ」
「もう・・。サンヒョク。あなたは母さんに孫を抱かせてくれない気なの?」
「母さん。もうおばあちゃんになりたいの? 母さんにはいつまでも若々しくいて欲しいなぁ(笑)」
二人の会話を見守っていたジヌが助け舟を出した。
「母さん、サンヒョクに一本取られたな。サンヒョク、だんだん口がうまくなってきたじゃないか。(笑)」
チヨンがお見合い写真に目を通すように再三サンヒョクに勧めるが、サンヒョクはそれに手も触れようとはしなかった。
チヨンは大袈裟なくらいに大きなため息をついた。


その夜、チヨンが台所に立って片づけをしている時に、ジヌとサンヒョクはジヌの書斎に移動した。
ドアをそっと閉めると、ジヌがサンヒョクに振り返り言った。
「ジュンサンがどうかしたのか?」
「父さん。とうとう、おじいちゃんになる日が近いよ」
「そうか!」
「ユジン、今、妊婦さんなんだ。つわりの時期は入院したりで大変だったけれど、今は元気だよ」
「いつ、生まれるんだ?」
「5月の中旬って聞いているけど」
「そうか、5月か・・」
父ジヌは、遠くを見詰めるように視線を天井へと向けた。
「ジュンサンは生まれてから連絡するつもりらしいけど、ユジンが気にしているみたいだから・・」
「いつも、お前が力になってやってくれているんだな。礼を言うよ。サンヒョク」
「どうして父さんがお礼を言うんだよ。ジュンサンは僕の兄さんなんだろ?」
「そうだが・・」
「この事、母さんには父さんから話してください」
「分かった・・」
「また、なんかあったら、父さんに連絡するから」


二人はチヨンに聞かれないように気を使ったつもりではあったが・・
紅茶を用意してきたチヨンがドアの扉の向こうにいたことには気が付かなかった。




*****

サンヒョクとウンヒ。
いい感じになってきたところで、まだまだ忘れてはいけない人物..その名はチヨンさん^^
キム家にも「雪融け」の季節をもたらしておくれ..ってことで。




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