年の瀬が押し迫っていたある日。
私ウンヒはいつものように、キムプロデューサーに原稿の批評をいただいていた。
プロデューサーというのは、誰でもこんなにオールマイティなのかしら?
その批評は常に的を射ていて、未熟者の私には耳の痛いことばかり・・
でも、言われることはもっともなことばかりで、『次こそは』と思いつつ拝聴していた。
私って少しは成長しているのかしら・・
キムプロデューサーの携帯電話が鳴った。
「あっ、ユジン。どうかしたの?」
ユジンさんからの電話か。私がそっと席を立とうとすると、キムプロデューサーが私の袖を引いた。
「ジュンサンには内緒の相談なの?わかった。いいよ。 これからウンヒと夕飯食べに行くから、ウンヒも一緒でいいなら・・ ユジン出て来られるの?うん、あとで」
えーっ。私が同席でもいいって・・ どうして?
私が困惑していると、キムプロデューサーが私の顔を覗き込んで言った。
「ウンヒ? 迷惑?」
「・・そういう訳では」
「じゃ、付き合って」
「・・はい」
私とキムプロデューサーは、いつもの如くいつもの席に座った。
「あの・・私が居ていいんですか?」
「いいと思うけど、なんで?」
私が次の言葉を言おうとすると、視野の片隅から、ユジンさんが現われた。
アレ?ユジンさん、もしかして?
ユジンさん。頬は少しこけた感じだけれど、お腹あたりはふっくらしている?
キムプロデューサーはユジンさんに向かって言った。
「ユジン。もう体調はいいの?」
「ええ。心配かけてごめんなさい。安定期に入って少し楽になったの」
「ジュンサン、心配しているだろ?つわりが無くなったからといってあまり無理するなよ。大切な身体なんだから」
「ジュンサン、私より神経質になっていて・・私よりお産について勉強しているかも・・」
「ハハハ、ユジンがうっかり者だから、ちょうどいいよ」
「アラ、私だってしっかりしているわよ!」
「はいはい」
「サンヒョク・・あの・・あなたばかり頼りにしてしまって・・」
「気にするな」
ユジンさんはキムプロデューサーの正面、私の横に座った。
「ウンヒさん、ゴメンナサイね。すぐ失礼するから」
「あの・・私、席外した方がいいですよね?」
ユジンさんはキムプロデューサーに問いかけた。
「サンヒョクは、どう?」
「僕はかまわないけれど、ユジンは?」
ユジンさんはうなずいた。
私は席を外すタイミングをなんとなく失ってしまった。
ユジンさんが話し始めた。
「あなたのお父さん、お母さんの事なんだけれど・・」
「・・父さんと母さん・・やっぱり。ジュンサン、気にしているのか?」
「ええ、赤ちゃんが生まれる前に、少しでも和解出来たらって思っているみたいなんだけれど・・春川の母も、アメリカのお父様、お母様も、赤ちゃんが出来たことすごく喜んでくれていて・・かえって・・私がこちらのお父様、お母様にお会いできる立場じゃないし・・少しでも、ジュンサンの心の負担を軽くしてあげたいんだけれど、私、どうすればいいのか分からなくって・・」
「・・難しいな。うちの父さんも母さんも気にはしていると思うけれど・・まだ、その話は・・・母さんには、受け入れるのにもう少し時間がかかる気がする・・父さんもそんな母さんに遠慮しているし・・お正月に帰ったら、少し話してみるけれど・・僕が力になってあげたいけれど・・この件は・・あまり期待しないで」
「私が妊娠している事は、知っていらっしゃるのかしら?」
「まだ、言ってないけれど・・父さんもおじいちゃんになるんだから、そろそろ教えておいた方がいいかな?」
「ジュンサンは、私には、生まれてからお伝えすればいいって・・・」
「そうだね。・・ユジンが気になるなら、僕から父さんに伝えておこうか?」
「近くに住んでいるのに、一度もご挨拶も、連絡もせず、本当にごめんなさい」
「なんでユジンが謝るのさ。これは誰が悪いって言う類の話じゃないから」
「サンヒョク、また家に遊びに来て、ジュンサンにお父さんの近況とか教えてもらえるかしら?」
「いいよ」
「ありがとう」
「ユジン。あまり考えすぎるな。胎教に悪いぞ。そういう事はジュンサンに任せておけよ。それと身体大切にしろよ。お前、そそっかしいんだから・・困ったことがあったら、なんでも相談して、力になるから」
「ごめんなさい・・」
「気にするなよ。お義姉さん!」
「サンヒョク・・」
「ここに寄っている事、ジュンサンには内緒なんだろ?遅くなると冷えてくるし、あいつ、けっこう心配性で勘が鋭いから、帰った方がいいよ。送っていく?」
「いいわよ。外にタクシーを待たせているの。ウンヒさん。ごめんなさいね。気を悪くしないで。また、家にも遊びに来てくださいね」
ユジンさんは、にっこり微笑んで、席を立った。
私は、会釈することしか出来なかった。
キムプロデューサーは駐車場までユジンさんを送っていった。
キムプロデューサーがテーブルに戻ってからも、しばらく会話が始まらなかった。
私は、キムプロデューサーの表情を伺うと、穏やかに微笑んでいるように見えた。
「ユジンさんて、お腹に赤ちゃんいるんですね」
「あぁ、春過ぎる頃には生まれるんじゃないかな」
私はキムプロデューサーの目を見て聞いた。
「サンヒョクさん、つらくないですか?」
「つらくなんかないよ」
「どうして笑って話せるんですか?」
「どうしてだろうね」
キムプロデューサーも目をそらさなかった。私は答えてくれるのを待った。
キムプロデューサーは軽く息をはいてから言った。
「ユジンは、愛した人だけど、終わったことだから。ユジンは小さい頃から家族みたいに育って、相談したり、されたりって、当たり前のことなんだよ」
私は、キムプロデューサーの瞳をじっと見た。
(私に、本当のこと、本当の気持ちを言っているの?・・・)
そして、キムプロデューサーの心中を思うとだんだん胸が苦しくなってきた。
(愛した人がお兄さんと結婚して平気なはずなんてないのに・・なのに、相談にも乗って、力になってあげるなんて・・普通に出来ることじゃないわ!)
「・・心、広いんですね」
「どちらかというと狭いよ。狭くて自己嫌悪すること多いし・・」
私はキムプロデューサーの手を取り言った。
「サンヒョクさん。『いい男』なんですね!」
「は? いい男ってなんだよ?」
「素敵な男性って言う意味です!」
キムプロデューサーは私のアタマに手を乗せ、私の髪をくしゃくしゃっとした。
「・・ウンヒ。今頃、気付いたのか?(笑)」
「私、素敵な人って好きです!」
あっ、私ったら、大声でなに言っているんだろう・・
自分で言ってから恥ずかしくなってきた。
なのに、キムプロデューサーは肩を震わせて笑っていた。
「そう言ってくれるのは、ありがたいけど・・」
「なにが、そんなにおかしいんですか?」
「いや、おかしくないよ。 ありがとう、ウンヒ」
「お礼を言われることじゃないです!」
「そうかな?」
「そうです!」
キムプロデューサーはまだクックッと笑っていた。
「でも、ユジンさんて羨ましいなぁ」
「どうして?」
「『困ったことがあったらなんでも相談して』なんて、私、言ってもらった事ないですよね」
「ウンヒは相談なんかしないで、どんどん自分で決めていくばっかりだろ?あとのフォローだけでこっちは大忙しだよ(笑)」
「私だって、悩みのひとつやふたつあります!」
「本当?ウンヒが考え込んでいる姿って見たことないけど・・悩み、聞いてあげようか?あればだけど(笑)」
「失礼な」
「自分で決断していく力も魅力だと思うけど・・・」
「それって、褒めてます?」
「もちろん。褒めているつもりなんだけど」
んー。なんか納得いかない。
キムプロデューサーは笑いながら言った。
「ねぇ。お腹すかない? まず、なんか食べない?」
「そうですよね。食べましょう!」
そうだ、まだご飯食べてなかった。
空腹じゃあ、キムプロデューサーに太刀打ち出来ないわ!!
サンヒョクは思った。
(ウンヒ。僕とユジンが話している間、僕をずっと心配そうに見ていたね。気付いていたよ。
そんなに心配しなくても大丈夫だよ..
ウンヒ、君の視線を感じていたら・・ 空気が・・心の中が・・あったかだったよ・・)
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切な過ぎる経験を積んだサンヒョク。そんなあなたがウンヒの存在に付いたら...
ウンヒと出会って2年弱、サンヒョクにとって超スピード展開^^?
今後、じわじわっと..ウンヒの存在が大きくなっていってくれれば.... *^^*
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