『サンヒョクの雪融け』番外編 その3
                                           

大きな街路樹の下にウンヒが立っているのが目に入ってきた。
(もう、来ていたんだ。珍しい事もあるもんだ。)
サンヒョクが背後から声を掛けようとすると、若い男がウンヒに話しかけた。

「あ〜、ウンヒ、こんな所で何やってんだ?」

「あっ、イ先輩。待ち合わせです。」

「ウンヒが待ち合わせ?」

「なんですか」

「ハンさんが、ウンヒは婚約するからちょっかいをかけるなって言っていたけど、相手いるんだ」

「当たり前じゃないですか。一人では婚約は出来ませんから」

「でもなぁ〜、お前に男の影ないじゃないか。嘘を付くなら説得力のある言葉を考えれば?」

「イ先輩のように、女の影がいっぱいじゃないですから。」

イ・セジンは辺りをキョロキョロする振りをしながら、
「待ち合わせの彼も来ないみたいじゃないか。俺と出掛けない?」

「出掛けません! あっ! 先輩、あっちでお綺麗な女の人が手を振って・・」

セジンが振り向いた隙に、ウンヒはすっとその場所を離れた。
セジンが立ち去るのを確認しつつ、ウンヒはまた元の場所にため息を付きながら戻って来た。

サンヒョクは可笑しそうに笑いながらウンヒに声を掛けた。
「ウンヒ! なかなかタイヘンそうだね。」

「あ〜〜、見ていたんですね? どうして来てくれなかったんです?」

「ウンヒは自分で何とかできるだろ? セジン君は知らない人じゃないし、今日は彼を誘ってあげられないだろ?」

サンヒョクはふくれているウンヒの頬をつついた。

「ウンヒが危険だったら、もちろん、行こうと思ってたよ(笑) ところで」
サンヒョクはウンヒの左手を取った。

「これは彼からのプレゼントではなさそうだね?」
ウンヒの左手薬指には可愛らしいリングが光っていた。

「さっすが〜、もう見付けましたね。これはサンヒョクさんからのプレゼントのつもりの指輪です。よぉっく見て、覚えておいて下さいね!」

「あのなぁ・・そういう事して虚しくないわけ?」

「ぜんぜん!」

「あっそう。じゃ、これは要らないな。」
とポケットを叩く。

ウンヒはサンヒョクを見上げたかと思うとすぐに
「あっ、携帯電話」

「えっ?」

サンヒョクが胸のうちポケットを確かめる隙に、ジャケットの右ポケットからウンヒは何かを取り出した。

「あ〜!」

「ったく、子供みたいな事するな」

小さなケースを開けると中には指輪が入っていた。
「私に ですよね?」

「他に誰に渡すんだ?」
サンヒョクに開けたままのケースを手渡すと、ウンヒは今までしていた指輪をさっさとはずし付け替えている。

「へへへ」

「ウンヒ。顔、ニヤケすぎだぞ。いつも何もしていないから興味がないのかと思ってたよ」

「サンヒョクさんって、アクセサリーを付けている女性を好きじゃないですよね・・」

「えっ」
「だって、今までプレゼントしてもらったこともないし・・それに・・」

「それに?」

「やっぱりいいです。」

「なんだ? 言いかけて止めるなよ。」

「・・ユジンさん、アクセサリーしませんよね・・」

サンヒョクはまじまじとウンヒを見詰めた。
「そんなこと気にしていたの?」

「そうなのかな・・って」

「ユジンのこと、意識していたの?」

「・・・・そうです! おかしいですか! 」

「ウンヒはアクセサリーをしなくてもかわいいし、普段しないから、してもらえないものをあげても、その・・悲しいだろ?大体、プレゼントはこれがいい!って仕事の資料ばかり請求するからいけないんだぞ!」

「そう言われると・・ あれ? でも、なんで指輪のサイズ分かったんですか?」

サンヒョクはわざと空を見上げた。
「手つないだだけでわかっちゃうとか? そんな事はないか・・」

「ピッタリだろ?」

ウンヒは指輪を見つめながら、まだ考え込んでいた。
「わかった! お姉ちゃんでしょ? お姉ちゃんに聞いたでしょ? なんだ、わかった!」

「で、気に入ってくれたの?」

「はい! もう、ず〜っと、ず〜っとしてます! ありがとうございます!」

「どうも。今日、そのままして行くつもり?」

「もちろん! 自慢しちゃいます。」

「ウンヒ? 気付いていると思うけど、それは婚約指輪じゃないからな。」

「そうなんですか?」

「それでもいいならいいけど」

「それなら・・どうしてプレゼント?」

ウンヒの視線を外すかのように歩き出す。
「プレゼントしたくなったから。・・要るんだろ? 男除けの指輪」

「お姉ちゃんからそんな事も聞いたんですか!」



「どうしてこうなるんだろうな・・ちゃんと落ち着いた席で渡そうと思っていたのに・・」
サンヒョクが小さな声で呟いたので、ウンヒは聞き取れなかった。

「なんですか?」

「ま、いいか。」




ウンヒが袖を引っ張るので、ウンヒの歩いて行く方向へ取り敢えず付いて行く。

「ウンヒ、いつものように直接家に行っていてもいいのに、どうして待ち合わせなんだ?」

「いいじゃないですか今日くらい。私の実家は一緒に行ったんだから。」

「僕の実家は初めてじゃないだろ?」

「一緒に行くのがイヤなんですか?」

サンヒョクはため息まじりに聞いた。
「で、ウンヒさん 先にどこへ寄りたいんだ?」

「おばさまにお花を持って行きたいんです。」

「花?」

「おじさまに聞いたんです。おばさまはお花を贈ると機嫌がいいよって」

「へぇ」

「息子なのに知らなかったんですか?」

「そう言えば・・」


話しながら歩くうちに花屋の前に到着した。
ウンヒは迷うことなくテキパキと注文をしている。サンヒョクは小声で
「ウンヒ、母さんの好きな花は」

ウンヒもつられて小声で返事を返す。

「サンヒョクさん。お好きな花はおじさまが贈るんですって。私達は玄関に似合うお花担当」

「えっ? 父さんと打ち合わせでもしたの?」

「そういう訳ではないんですけど・・この前大学でお会いしたんです。その時」

「わかった、ココはウンヒに任せる。1つ聞くけど、ウンヒも花を贈られるとうれしい?」

「うれしいですよ」

「よく、覚えとく」

「よ〜く、覚えておいて下さい(笑)」




キム家の玄関前に着いた。
屋根まで見上げ玄関を睨みつけているようなウンヒに、サンヒョクは声を掛ける。

「ウンヒ、そんなに緊張するな 肩に力入りすぎだよ」

「そんなに緊張して・・ない・・です。 さあ! 張り切っていきましょう!」

「いや、張り切らなくていい。張り切らない方がいいかも。普段どおりで。結婚の事は前もって父さんにも母さんにも話してあるから」

「だから、緊張してるんです」

「やっぱり、緊張してたんだ」

「サンヒョクさん」

「何?」

「私、ヘンじゃないですよね?」

「ヘンかな・・」

「どこが?」

ウンヒが慌てた様子で服装を見直していると、サンヒョクはふっと笑みをもらす。
「嘘だよ」

「もぉ〜〜」

「じゃ、行こうか」




そして キム家の玄関ドアが開いた。


                                     「冬のソナタの人達」 UP 2004/08/22




冬のソナタ To the Future 2005 Copyright©. All Rights. Reserved
当サイトのコンテンツを無断で転載・掲載する事は禁じています