大きな街路樹の下にウンヒが立っているのが目に入ってきた。
(もう、来ていたんだ。珍しい事もあるもんだ。)
サンヒョクが背後から声を掛けようとすると、若い男がウンヒに話しかけた。
「あ〜、ウンヒ、こんな所で何やってんだ?」
「あっ、イ先輩。待ち合わせです。」
「ウンヒが待ち合わせ?」
「なんですか」
「ハンさんが、ウンヒは婚約するからちょっかいをかけるなって言っていたけど、相手いるんだ」
「当たり前じゃないですか。一人では婚約は出来ませんから」
「でもなぁ〜、お前に男の影ないじゃないか。嘘を付くなら説得力のある言葉を考えれば?」
「イ先輩のように、女の影がいっぱいじゃないですから。」
イ・セジンは辺りをキョロキョロする振りをしながら、
「待ち合わせの彼も来ないみたいじゃないか。俺と出掛けない?」
「出掛けません! あっ! 先輩、あっちでお綺麗な女の人が手を振って・・」
セジンが振り向いた隙に、ウンヒはすっとその場所を離れた。
セジンが立ち去るのを確認しつつ、ウンヒはまた元の場所にため息を付きながら戻って来た。
サンヒョクは可笑しそうに笑いながらウンヒに声を掛けた。
「ウンヒ! なかなかタイヘンそうだね。」
「あ〜〜、見ていたんですね? どうして来てくれなかったんです?」
「ウンヒは自分で何とかできるだろ? セジン君は知らない人じゃないし、今日は彼を誘ってあげられないだろ?」
サンヒョクはふくれているウンヒの頬をつついた。
「ウンヒが危険だったら、もちろん、行こうと思ってたよ(笑) ところで」
サンヒョクはウンヒの左手を取った。
「これは彼からのプレゼントではなさそうだね?」
ウンヒの左手薬指には可愛らしいリングが光っていた。
「さっすが〜、もう見付けましたね。これはサンヒョクさんからのプレゼントのつもりの指輪です。よぉっく見て、覚えておいて下さいね!」
「あのなぁ・・そういう事して虚しくないわけ?」
「ぜんぜん!」
「あっそう。じゃ、これは要らないな。」
とポケットを叩く。
ウンヒはサンヒョクを見上げたかと思うとすぐに
「あっ、携帯電話」
「えっ?」
サンヒョクが胸のうちポケットを確かめる隙に、ジャケットの右ポケットからウンヒは何かを取り出した。
「あ〜!」
「ったく、子供みたいな事するな」
小さなケースを開けると中には指輪が入っていた。
「私に ですよね?」
「他に誰に渡すんだ?」
サンヒョクに開けたままのケースを手渡すと、ウンヒは今までしていた指輪をさっさとはずし付け替えている。
「へへへ」
「ウンヒ。顔、ニヤケすぎだぞ。いつも何もしていないから興味がないのかと思ってたよ」
「サンヒョクさんって、アクセサリーを付けている女性を好きじゃないですよね・・」
「えっ」
「だって、今までプレゼントしてもらったこともないし・・それに・・」
「それに?」
「やっぱりいいです。」
「なんだ? 言いかけて止めるなよ。」
「・・ユジンさん、アクセサリーしませんよね・・」
サンヒョクはまじまじとウンヒを見詰めた。
「そんなこと気にしていたの?」
「そうなのかな・・って」
「ユジンのこと、意識していたの?」
「・・・・そうです! おかしいですか! 」
「ウンヒはアクセサリーをしなくてもかわいいし、普段しないから、してもらえないものをあげても、その・・悲しいだろ?大体、プレゼントはこれがいい!って仕事の資料ばかり請求するからいけないんだぞ!」
「そう言われると・・ あれ? でも、なんで指輪のサイズ分かったんですか?」
サンヒョクはわざと空を見上げた。
「手つないだだけでわかっちゃうとか? そんな事はないか・・」
「ピッタリだろ?」
ウンヒは指輪を見つめながら、まだ考え込んでいた。
「わかった! お姉ちゃんでしょ? お姉ちゃんに聞いたでしょ? なんだ、わかった!」
「で、気に入ってくれたの?」
「はい! もう、ず〜っと、ず〜っとしてます! ありがとうございます!」
「どうも。今日、そのままして行くつもり?」
「もちろん! 自慢しちゃいます。」
「ウンヒ? 気付いていると思うけど、それは婚約指輪じゃないからな。」
「そうなんですか?」
「それでもいいならいいけど」
「それなら・・どうしてプレゼント?」
ウンヒの視線を外すかのように歩き出す。
「プレゼントしたくなったから。・・要るんだろ? 男除けの指輪」
「お姉ちゃんからそんな事も聞いたんですか!」
「どうしてこうなるんだろうな・・ちゃんと落ち着いた席で渡そうと思っていたのに・・」
サンヒョクが小さな声で呟いたので、ウンヒは聞き取れなかった。
「なんですか?」
「ま、いいか。」
ウンヒが袖を引っ張るので、ウンヒの歩いて行く方向へ取り敢えず付いて行く。
「ウンヒ、いつものように直接家に行っていてもいいのに、どうして待ち合わせなんだ?」
「いいじゃないですか今日くらい。私の実家は一緒に行ったんだから。」
「僕の実家は初めてじゃないだろ?」
「一緒に行くのがイヤなんですか?」
サンヒョクはため息まじりに聞いた。
「で、ウンヒさん 先にどこへ寄りたいんだ?」
「おばさまにお花を持って行きたいんです。」
「花?」
「おじさまに聞いたんです。おばさまはお花を贈ると機嫌がいいよって」
「へぇ」
「息子なのに知らなかったんですか?」
「そう言えば・・」
話しながら歩くうちに花屋の前に到着した。
ウンヒは迷うことなくテキパキと注文をしている。サンヒョクは小声で
「ウンヒ、母さんの好きな花は」
ウンヒもつられて小声で返事を返す。
「サンヒョクさん。お好きな花はおじさまが贈るんですって。私達は玄関に似合うお花担当」
「えっ? 父さんと打ち合わせでもしたの?」
「そういう訳ではないんですけど・・この前大学でお会いしたんです。その時」
「わかった、ココはウンヒに任せる。1つ聞くけど、ウンヒも花を贈られるとうれしい?」
「うれしいですよ」
「よく、覚えとく」
「よ〜く、覚えておいて下さい(笑)」
キム家の玄関前に着いた。
屋根まで見上げ玄関を睨みつけているようなウンヒに、サンヒョクは声を掛ける。
「ウンヒ、そんなに緊張するな 肩に力入りすぎだよ」
「そんなに緊張して・・ない・・です。 さあ! 張り切っていきましょう!」
「いや、張り切らなくていい。張り切らない方がいいかも。普段どおりで。結婚の事は前もって父さんにも母さんにも話してあるから」
「だから、緊張してるんです」
「やっぱり、緊張してたんだ」
「サンヒョクさん」
「何?」
「私、ヘンじゃないですよね?」
「ヘンかな・・」
「どこが?」
ウンヒが慌てた様子で服装を見直していると、サンヒョクはふっと笑みをもらす。
「嘘だよ」
「もぉ〜〜」
「じゃ、行こうか」
そして キム家の玄関ドアが開いた。
「冬のソナタの人達」 UP 2004/08/22