『サンヒョクの雪融け』番外編 その2
                                           

<前編>
暑い夏のある日、ジュンサンとユジンのお誘い受け島の別荘に招かれる日が来た。

サンヒョクが一番に待ち合わせの場所に到着した。
車を降り、強い日差しを感じながら、煙草を一本取り出す。
煙が一筋、青い空に昇っていった。

そこへ、また一台、車が着いた。車中にはヨンゴクの一家が乗っていた。
サンヒョクが車に近付くと、窓が開いた。

「よぉ!サンヒョク、待たせちゃったか?」

「そんなこともないよ」

「今日は楽しみねぇ〜、ジヒョン。お庭でご飯を食べるのよ!」

「お庭で?」

「そうよ〜」


サンヒョクが親子の会話に割って入った。


「今年もバーベキューの予定なんだ」

「ジュンサンが恒例にしようってさ。こういう時は腕の見せ所さ」

「そういう事はヨンゴクに任せるよ」

「じゃ、行きましょうょ。チェリン、今日は来られないって連絡があったから」

「えっ、チェリン、来ないの?」

「なによ、サンヒョク。チェリンにそんなに会いたかったの?」

「そういう訳じゃないけど、チェリン、なんか話があるって言ってたけど...まぁ、また連絡が来るか..」

「チェリンが?そんな事言うなんて珍しいわね」

「ウン..だから気になって」

「チェリン、今、ソウルにいないみたいだから。また連絡あるんじゃない?出発出発!」



サンヒョクは辺りをキョロキョロと見回すと、ヨンゴクは“フ〜ン”と頷きながら問い掛けた。

「もしかして、今日は一緒に行く予定なのか?」

「あぁ」

「一緒にって 誰と?」

「そんなのサンヒョクの彼女に決まっているだろ」

「えっ、サンヒョク、彼女、いるの?」

ジンスクは大きな瞳を見開いた。

「..まぁ..そんなところ..」

「ちょっと、どういう娘よ? ねぇ、白状しちゃいなさいよ」

「..ジンスク.. 待ってれば来るよ..」

「そうだよ、お前はいつもせっかちなんだよ」

「何よ、ヨンゴクは知っているの?」

「まあね」


ウンヒが遠くから手を振りながら走ってくる。
サンヒョクも気が付き、2〜3歩駆け寄る。

「すみませ〜ん。お待たせしました?」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫です。久々にお休みもらいましたから」

「初めての大きな仕事って言っていたじゃないか?」

「だから、大丈夫ですって。それより紹介してもらえません?」

ウンヒをじっと見ているジンスクとジヒョンのほうに視線を走らせた。
サンヒョクはウンヒの様子を訝しく思いながらも、ジンスクに向かって口を開いた。

「あ〜 こっちはチェ・ウンヒ。その・・」

「サンヒョクさんの“彼女”です。よろしくお願いします」

「ウンヒさんて言うのね。よろしく。あの、サンヒョクとは?」

「1年位前まで一緒の職場にいました」

「へぇ〜。私はコン.ジンスク。こっちは娘のクォン.ジヒョン。ジヒョン、挨拶は?」

「ジヒョンちゃん、よろしくね。私はウンヒおねえちゃんよ」



2台の車で船着き場まで向かった。
ウンヒはサンヒョクの車の中で上機嫌に喋り捲っていた。



船上では、早くも意気投合したウンヒとジヒョンがキャーキャーとはしゃいでいる。
サンヒョクはちょっとあきれたように、二人を眺めていた。



森の中の小道を抜け、島の家が見えてくる所まで来た。

「こっちこっち」
ユジンが、出迎えに出ていてくれた。

「お久しぶり、ジンスク。よく来てくれたわ。ヨンゴク、サンヒョク、元気だった?あれ?ジヒョンちゃんは?」

「ウンヒと探検するんだってさ。おかげで僕は荷物持ちだよ」

「ウンヒさんも来てくれたのね」

「いいかな?」

「いいに決まっているじゃない。荷物は..去年チェリンが使っていた部屋に入れて」

「分かった。ジュンサンは?」

「みんなが来るの、待っているわ」


テラスで、ジュンサンはユソンを膝の上に乗せ、いすに座っていた。


「ジュンサン。今年も大勢でおじゃまするよ」

「いらっしゃい。待ってたよ」

「ユソン。ちょっと見ないうちに大きくなったな。もう赤ちゃんって感じじゃないね。よう!ユソン。おじさん、覚えてい
るか?」

サンヒョクが抱こうと腕を伸ばすと、ユソンはジュンサンの胸に顔を押し当て隠れてしまった。



ユジンがお茶を運びながらジュンサンに話し掛ける。

「ジュンサン。サンヒョクはウンヒさんと一緒よ」

「そう。サンヒョク、仲良くしてる?」

「もちろん、仲良くしてるさ」



ヨンゴクがお茶も飲み終わらないうちに立ち上がった。
「さぁ!炭に火が付くまで時間がかかるといけないから、さっそく取り掛かるか!」

「ヨンゴク、ありがとう。炭とか一式は庭のほうに出して置いてもらったはずだけど。わかる?」

「ワカルワカル、サンヒョクも来いよ」

「はいはい」



「あ〜。もう。お前、頭いいくせに要領が悪いな。もうイイ、あっちに行け」

「なんだよ〜」

「つもる話もあるだろ?ジュンサンと話して来いよ。恋の悩みでも聞いてもらえば?」

「ジュンサンにか?」

「ジンスクから聞いたんだけど、相当スペシャリストだったみたいだぞ」

「へぇ〜」

テラスからジュンサンの声が届く。

「ヨンゴク、聞こえてる」

「ジュンサン、サンヒョクのお守りを頼む」

「なんだそれ」

「サンヒョク、ヨンゴクの邪魔せず、こっちに座れば?」


サンヒョクは肩を竦めながらテラスへと向かった。


「あれ?ユソンは?」

「ウンヒさんとジヒョンちゃんに連れられて”探検”に出たよ」

「あいつ..大丈夫なのか..」

「ウンヒさん、本当に子供が好きなんだね」

「ふっ、精神年齢が丁度いいんじゃないか?」

大皿を持ったジンスクが通りすがりに言う。
「でも、子供たちを見てくれると助かるわ。おかげで、キッチンでユジンとゆっくり話せるもの」

「そう、ウンヒを連れて来てよかった。(笑)」

「ふふ」



サンヒョクはジュンサンの隣に腰掛ける。
「サンヒョク..その..キム教授はお元気?」

「ああ。元気だよ。そう言えば、ユソンの写真、ホラ、1歳の誕生日の奴、送ってくれたんだって?」

「あ..その..ご迷惑掛けてないか?」

「母さん? まぁ、フクザツそうな顔はしていたけど、一緒に写真を見てたよ」

「そう・・よかった」

「そんなに、気を使うなよ」

「ん」

「そう言えば、その写真を見た時が可笑しかったんだ。父さんがさ。急いで帰って来いって言うんだよ。何があったのかと思って帰ったら・・」

サンヒョクは笑いを堪えきれない。

「何?」

「ウンヒが来ていたんだ」

遠くから、ヨンゴクの声がする。
「へぇ〜」

「なんだ、聞こえてるのか?」

「聞こえてる。俺の耳は地獄耳なんだ。それで?」

「父さんがさ、落ち着かなさそうに、新聞もってソファに座ってるんだ。聞き耳を立ててさ。・・なんか、可笑しくって」

「ウンヒさん、サンヒョクの実家によく行くんだ」

「よくって程でもないけど。その時は、母さんと外でばったり会ってそのまま家に来たみたいだよ」

「へぇ〜。お前ん家のおふくろさんとも仲がいいん」

「仲がイイのか、ワルイのか..だな。でも、母さんが楽しそうに笑っているの、久々に見たんだ」

「なあ、サンヒョク。サンヒョクは結婚とか考えているのか?」

「なんだよ急に」
ジュンサンの表情から、冷やかしで尋ねたのではないと分かった。

「・・・考えてないって言ったら嘘になるかな。でも、まだまだ先だよ。ウンヒの仕事もまだ軌道に乗っていないし。ウンヒもピンと来ないんじゃないかな」

「そうか・・」

「なんだ、ジュンサン。心配してくれるのか?」

ヨンゴクがジンスクに聞こえるような大声で
「家庭もいいもんだよな。ジュンサン!」

「まあ、そうだな」

「ヨンゴク〜、この前と言っている事がちがうぞ!独身貴族は羨ましいって言っていたのは誰だ?」

「ばらすなよ〜」

キッチンの方からも、くすくす笑う声が伝わってきた。
「はいはい、お二方の結婚の先輩のご教示はありがたく頂きます」


ユジンがサンヒョクに尋ねた。
「サンヒョク、チェリンって元気?」

「元気だよ、今日だって来られそうな事言っていたのにな。ここのところ、大体突然電話で呼び出されて飲みに行くってパターンだから」

ヨンゴクは口を尖らせる。
「どうしてチェリンはサンヒョクだけ誘うんだよ」

「家庭人は誘いにくいだろう? ましてや、子育て母さんはもっとだから。その点僕が一番気軽なんじゃないか?」

「ウンヒさん、やきもち焼かないのか?」

「やきもち?焼かないんじゃないかな?ウンヒはオ.チェリン先生のファンだから。そうそう、この前ウンヒも連れて行ったら、ウンヒ一人で舞い上がっちゃって、うるさいうるさい。チェリンに悪い事しちゃったな」

「お前・・女心が全然分かってないな」

「ヨンゴクは分かるのか?」

「ダメだ..ジュンサン。サンヒョクにつける薬、ないか?」

「ないな・・(笑)」



ヨンゴクは庭の端のほうに目をやった。
「わっはっはっは。噂をすればだな。これはこれは、探検隊のみなさんすごいお姿で..」

ヨンゴクの陽気な声が響く。
皆はいっせいにヨンゴクの視線の先を見た。

「ウンヒ・・ 何やったらこうなるんだ?」

「その〜、ちょっと泥んこ遊びを..ユジンさ〜ん。ジンスクさ〜ん」


ユジンはユソンを抱き上げて、
「楽しかった?ユソン」

ジンスクはジヒョンの頭に手を乗っけて、
「ありゃ〜。すごい事になってる。さて、ユジン母さんこのお子達どうします?」

「あの..私が二人ともシャワーに入れますから。出してもらっていいですか?」

「いいかしら・・じゃ、ウンヒさんにお任せするわ」

ウンヒは大きく頷いた。
「では。キレイキレイにする人はウンヒお姉さんについて来てくださぁ〜い」
ユジンに案内され浴室に向かった。

子供たちが姿を消すと、ヨンゴクがはじめに吹き出した。
「ぶっ ウンヒさんって豪快な子育てしそうだな」

「そんなに豪快な姿なの?」

「あっ、は。ユジン、ジンスク、ごめん」

「サンヒョクがなんで、謝るのよ」

「そうよ、謝るようなことじゃないわ」



「サンヒョク、ユソンにやきもちを焼くなよ」

「は?なんで?」

「ユソン、今頃ウンヒさんとシャワーだぞ?」

「ユソン相手にやきもちなんか焼くか」



しばらくすると、

「ユジンさぁ〜ん、ユソン君、でまぁ〜す」

「ジンスクさぁ〜ん、ジヒョンちゃん、でまぁ〜す」



着替えが終わったウンヒに、ユジンはサンヒョクの隣に席を用意する。
「ごくろうさま。ウンヒさんも座ってゆっくりして」

「あの、何かお手伝いする事は?」

「もう大体済んだわ、後はヨンゴクにおまかせよ」



ワイワイ、ガヤガヤ、楽しい食事が始まった。
大勢の人に慣れてきたユソンはサンヒョクの膝の上にも乗っかった。
みんなが他の事に気を取られているうちに、サンヒョクはユソンに囁いた。
「ユソン、ウンヒおねえちゃんはサンヒョクおじさんのものなんだぞ。手、出すなよ」
ユソンはキョトンとサンヒョクの顔を見ていた。


辺りがすっかり暗闇に包まれ、子供たちが夢の国へ入っていった頃、リビングでは・・
「さあ、これからが大人の時間だ!」

ジンスクが可笑しそうに言った。
「ここに大人の時間まで待てなかった大人が一人」

ウンヒがサンヒョクにもたれながら、うとうとしている。
「ウンヒ、みんなが見てるぞ」

「いいわよ、サンヒョク、このまま寝かせてあげて。子供と遊ぶのってけっこう疲れるのよ」

「仕方のない奴だなぁ..ごめん。ウンヒ、きっと昨日あんまり寝てないと思うんだ」

「えっ?」

「そんな顔していた」

「そういう事も分かっちゃたりするんだ」

「分かるさ」
みんなでサンヒョクのほうをじっと見る。

「なんだよ〜、もう。ウンヒ、部屋に行くぞ!」

「ん・・・」



翌朝、目覚めたサンヒョクは、リビングへと足を運ぶ。
すでに起き出していたジュンサンとユジンが二人でコーヒーを飲んでいた。
「サンヒョク、おはよう」

「昨日おそくまで起きていたのに、よく起きられたわね」

「ユジンにこういう事を言われるようになるとは思わなかったよ」

「まだ、ウンヒさんは寝ているみたいだけど・・よっぽど疲れているのね」

「そっか、僕もコーヒーもらえる?」

ユジンが立とうとすると、ジュンサンが手を押さえた。
「コーヒーだったら、僕が入れるよ」



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                             「冬のソナタの人達」 UP 2004/07/24




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