『サンヒョクの雪融け』番外編 その2
                                           

<後偏>
コーヒーに手を伸ばした時、サンヒョクの携帯電話が鳴った。
番号表示を見て首を傾げる。
『はい』
窓際にもたれながら、その電話はしばらく切れることがなかった。


ウンヒがすまなそうに起きて来る。
「おはようございます。私、いつの間にか寝ちゃって、寝坊しちゃいました?」

サンヒョクが眉間に手を当て険しい顔をしている。

ジュンサンはいつもの穏やかな声で
「ウンヒさん。おはよう。よく眠れましたか?」

サンヒョクはまだ、黙っている。

「あの..サンヒョクさん? 」

「ウンヒ、荷物まとめて。ソウルに帰るぞ」

「えっ?だって帰るのは明日ですよね。今日もジヒョンちゃんと遊ぶ約束」

「ウンヒ、携帯電話の電源切っているだろ?」

「・・・」

「今、ハンさんから電話が来た」
ウンヒはサンヒョクから視線をそらした。

「・・イ先輩..任せとけなんて言っていたのに..言い付けたんだ..もう・・」

「だめじゃないか!仕事、投げたまま来たら!」

「ちがうんです。ちゃんと、ハンさんにOKをもらったお休みでなんです」

「じゃ、なんでハンさんから僕に電話が来るんだ?」

「でも、もう、いいんです」

「よくないだろ!」

「だから、いいんです」

「ダメだ」

「私がいいって言ってるんだから、いいんです!」

だんだん語気が荒くなる二人を見兼ねてジュンサンが間に入る。
「ウンヒさん、今ちょっとだけサンヒョクから聞いたんだけど、初めての大きな仕事って聞いたけど、本当にいいの?初めての事は、大変な事も多いと思うけど、今後を考えたら、やり遂げたほうがいい。サンヒョクの言っている事は間違っていないよ」

「は・・い」

ユジンはウンヒの分のコーヒーを運びつつ声を掛ける。
「サンヒョクも帰るって言うし、朝ごはんは」

「えっ?私だけ失礼します。サンヒョクさんは予定通り」

「そうもいかないらしいよ。僕にもハンさんからお小言があるそうだから。いつもながら、あの人が怒るとコワイね」

「えっ、あの..ハンさんからどこまで聞きましたか?」

「だいたい全部」

「あ・・・」
ウンヒ、下を向いてしまう。

「こうなったら仕方ないだろ?ハンさんがコワイ声で言うんだ。『キムチーフプロデュサー!あなたにも言いたい事があります!出でいらっしゃい!』ってさ」
サンヒョクはわざとおどけた声を出すがウンヒはうなだれたままだった。

「すみません・・」

「もっと早くに教えて欲しかったな。なんで言わなかったんだ?」

「だって・・」


朝食後、サンヒョクとウンヒは、コン一家より1日早くソウルへと帰っていった。


船を降り、サンヒョクの運転する車で、一路サンヒョクの職場であるラジオ局を目指す。
車中では、憂鬱そうなウンヒにサンヒョクが話しかける。
「ごめんな、気が付いてやれなくて」

「・・私も言わなかったし。・・自分で何とかしたかったんです」

「大きな初仕事が、うちの局のラジオドラマだったなんて..な。
担当のパクプロデューサーからは新人作家を抜擢したとは聞いていたけど、ウンヒとは思わなかったんだ。
なんで、気が付かなかったんだろう・・
ウンヒがうちの局で仕事する事はなかったから、今回もそうだと思い込んでいた。
パクプロデューサー、僕の先輩だけど、今は僕の下に位置しているから、僕にいい感情は持っていない事は気が付いていた。報告書もちゃんと上がってくる事は少ないし、会議もよくすっぽかすし・・・でも、いい仕事をする人だから..と思っていたけど。
今回ウンヒに辛い目にあわせてしまったみたいだね。
ハンさんが言うには、ほとんど僕への八つ当たりがウンヒに回ってしまったって。
ハンさんは、僕の目の行き届く所でウンヒに大きな初仕事をって考えてくださったのに
まったく・・ 
ウンヒ、八つ当たりでも、嫌がらせだと思っても、負けるな。
パクプロデューサーは絶対に無理な事は言っていないはずだ。
それなりに口の悪い人だけど、番組作りに掛けてはヘンな私情は持ち込まないはずだ。
ハンさんがあれだけ怒っていると言うことは、他のスタッフからの嫌がらせもあったのかな..
ウンヒを無理に転職させた事、よく思っていない人もいるだろうから。全然気が付かなかった。ウンヒが」

「サンヒョクさん、私もいやなんです。自分の実力で仕事をしているって思いたいんです。
・・でも、ことあるごとに、チーフプロデューサーにコネがあるからとか..」

「もっとひどい事も言われたんだろ?」

「・・・」

「付き合っていることを隠していた訳じゃないけど、こうなってくると難しいな。
でも今回は踏ん張れ。せっかくのチャンスはなくしたらダメだ。
ウンヒ、今日は仕事が終わったら僕のデスクに寄って。一緒に帰ろう。
コソコソすると返って言いたい放題だ」

「でも・・」

「付き合っているって知られるのはイヤか?」

「そうじゃなくて、シナリオの書き直しなら今日中には終わりません。きっと」

「いいよ、ずっと待ってる。僕から、ラジオドラマのスタッフには挨拶に行くから」

「いいです。これは、私の仕事ですから」

「あのな。今はラジオドラマも統括してるんだ。知らなかったんじゃ済まされないよ」

「まだ、問題は起こしてませんし」

「もう、起きてる。ハンさんの所の会社に全社員を撤退させてもらうって言われたそうだ。
まあ、ハンさん一流のはったりだとも思うけど、さっきADからも連絡をもらった所」

「うそ・・」

「まあ、期待の新人作家へのいじめは困る!!って事なんだろうけど。・・僕も当事者だからね」

「すみません・・」

「ウンヒが謝る事ないだろ?とにかく、今日は頑張れ」




サンヒョクは無言で運転をし、ウンヒも窓の外ばかりを眺めていた。
サンヒョクが沈黙を破る。
「なあ、ウンヒ。結婚しないか」

「えっ!」

「とりあえず、婚約だけでも..結婚はずっと先でいいんだ。ウンヒがしたくなるまで待つ。ウンヒは若いから、まだ、考えられないかもしれないけど..」

ふっと視線をウンヒに向けると、ウンヒの瞳から涙がポロポロ零れている。

「ちょ・・なんでココで泣くんだ?」

車を路肩に寄せる。

「ウンヒ?」

「サンヒョクさん、結婚はしない主義だって思ってました・・」 

「は? なんで?」

「そう聞いたから..」

「誰に?」

「結婚にいい思い出がないからって..」

「は?まだ一度も結婚したことないぞ?..あ・・そうか・・ユジンの事か・・」

「私も、そうかなって..」

「そうかなって・・。ずっと一緒にいたい人に巡り会わなかっただけのことで..」

「巡り会ったんですか?」

「お前が聞くな」
ウンヒの頭をこつんと突いた。

「ちゃんとウンヒの両親にも会いに行ってご挨拶をしてからにしたいけど、婚約者って事の方がウンヒも仕事がしやすいだろ?」

「私の仕事のためですか?」

「茶化すな。・・・もう一回だけちゃんと言う。ウンヒ、結婚しないか?」

「はい」

「はい、だけ?」

「ん〜。よろしくお願いします。って言うのもヘンかな..ありがとうございますって言うのもヘン..」

「あのなあ..新人作家さん。もっと頑張ったほうがいいよ(笑)」

「だって..うれしすぎて..ナンニモ浮かんでこない.. それに考える余裕がなくて..」

「なんか、こんなドタバタした時に話すことでもないか..」

「ドタバタした時しか言えなかったりして」

「ウンヒ!取り消すぞ」

「あ〜、ダメです。今のは、なしです」



「じゃ、今日は、仕事、根性見せて、頑張って」

「なんか、頑張れちゃいそうな気がしてきました!」

「あはっ、単純な奴だな」

「単純でわるかったですね」

「いいよ。かわいくて(笑)それで昨日の事だけど。僕の兄の家に挨拶に行ったってハンさんには言ってあるから」

「はい?」

「だって嘘じゃないだろ?」

「そうとも言いますが」

「そう言う事だ」



「さて、今日はこれからタイヘンだ。夏休みはたったの一日で終わりそうだな」

「そうですね」

「さて、行くか!」

「はい!」



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                             「冬のソナタの人達」 UP 2004/07/24




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