『夢に似てうつゝも白し帰り花 蓼 太(りょうた)』
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人の気配に目を覚ました
「・・・・・・・あぁ・・・・」
「驚いただろ」
「心臓が止まるかと思ったわ・・驚かせないで・・でも、どうして・・・」
彼がポケットからそっと差し出した
「・・・あら、なんて可愛いのフクフクしてるわよ」
「気に入ったかな、でも中国っていったらパンダだもんね」
「ありがとう・・・・・でも・・」
彼の指が私の唇にそっと触れた
「 ーでもー は なしだよ、僕が君に会いたかったんだ」
「・・・・・・・」
「もうお休み・・・・僕はずっとここにいるよ」
「検温ですよ」
夢だったの・・・私はボンヤリした記憶を確かめようと、私を覗き込む視線に目を向けた
「おはようございます、ご気分はどうですか・・・・」
「・・・・ええ」
「そりゃあ、とってもいいはずですよね、あら?婚約者の方はどちらへ」
「こんやくしゃ・・・・?」
点滴を調節しながら彼女は興奮した口調で話し続けた
「だって、あなたの婚約者ですがってあの男の人が現れたとき、もうあんまり素敵で見とれてしまったわ、海外に出張だってんですって?入院したのを知らなかったって青い顔をして言うもんだから、こっちもドキドキしちゃった」
「・・・・・知らせたくなかった・・」私のつぶやきは彼女の耳には届かなかった
「だからね、特別な許可を戴いて付き添っていたのよ、あら?どこに行ったの」
「どうして教えてくれなかったの」
「・・・・・・」
「君は仕事に復帰して忙しいってあの3週間だってほとんど週末位しか会えなかったじゃないか。僕はもう君はすっかり良くなったものだと・・・・」
堅く握った彼の拳が頬を伝わる涙を押しとどめていた
「お願い・・・泣かないで、私まで悲しくなっちゃうわ」
彼の手が私の頭を抱え、胸に強く押し当てた
彼の激しい鼓動に彼の哀しみを知った
「ねえ覚えてる、あの約束・・・」
「ああ・・・忘れてはいないよ」
「だったらお願い私をここから連れだして」
「・・・でも・・」
私の指が彼の唇を塞いだ
「 ーでもー は なしよね」
「もう恥ずかしいからダメ・・・よ」
「誰に恥ずかしいの、僕なら平気だよ」
彼に抱かれて私は部屋を出た、腕はしっかり彼の首に巻き付けて。
ナースセンターから「お大事にね、おめでとう」
私は頬を赤くしながらただ微笑むしかなかった。
「あら?ねえ運転手さん止めてください」
「どうしたの?」
「ほら見て、あの木にだけ花が咲いてるわ」
ー狂い咲きしてるってニュースで言ってましたよ、ここのことだったんですねー
タクシー運転手が言った
「桜ね、今年は二度も見ることが出来たわ」
「今度の春にまた見ようね」
「・・・・・そうね・・・・・あれは帰り花よ」
「帰り花?」
「季節を勘違いしたのよ」
「・・・・いいや違うさ、今があの木の春なんだよ」
「運転手さんありがとう、もう出してください」
「指切りしよう」
彼が小指を差し出した
「そうね、ゆびきりげんま、うそついたらはりせんぼん、のーますゆびきった」
走り行く冬枯れの並木道に春の桜吹雪が通り過ぎた
ーはりせんぼん・・・・のんだら痛いだろうなー
私は微かな意識の底で笑った
冷たいものが私の頬を流れる
ー大丈夫よ大丈夫・・・・約束したじゃない・・・・泣かないでー
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いかがでしたでしょうか。
想像の翼が大きく広がることを祈って。