一雨一雨に秋は深まり
我が身を我が腕で抱きしめる
*************************************
「・・・・・・・帰るのはいつ・・」
「帰ってほしいのかい・・・・」
「・・・・・・・・」
「いつ戻ってくるのとは聞いてくれないの」
あなたの胸に抱かれ漂う
夢と現実の狭間
この3週間、週末毎に雨が降る
慌ただしく金曜の夜あなたの部屋にすべり込む
ー カチャ ー
微かなドアの音にあなたは微笑み振り返る
差し出されたその腕に飛び込む前に私はテーブルに置かれたグラスに目を向けた
赤い小さな花を付けた細い数本の茎
「水引の花ね」
「そう言うのかい、君のことを思いながらゴルフ場を立ち去るときに駐車場で見つけたんだ」
「私のことを」
「そうだよ、君は思わなかったのか僕のことを」
「ここのドアを閉めたときから思っていたわ」
情熱の嵐と快感に酔いしれながら僕は彼女の顔にキスの雨を降らせた
そして何度も言った
「愛してるよ、愛してるよ、愛してるよ」
私はあなたの顎の線をなぞりながら
「明日も雨ね」
ローブを羽織りペリエをフルートグラスに注ぐ
ほのかな灯りに小さな気泡がときめく
テーブルの花のフルートグラスにもペリエを注ぐ
ー あなたも喉が渇いたわね、きっと ー
微かな笑みでグラスを合わせる
ー チーン ー
高級なものだけが持つ透きとおった音があなたの寝息と重なる
あなたのことを考えると頬が自然に緩むのを覚える
冷たいグラスを首筋に押し当てる
あなたの熱い唇を思い出し、躰が火照るのを抑えきれない
あなたの匂いあなたの温もりが私を包んだ
「なにを考えてるんだ」
「起こしてしまったのね・・・・・・・あなたのことよ」
「嬉しいな」
無邪気さを装うことは捨てて私は妖婦になる
雨は止むことを知らない
「たぶん、明日帰るよ」
「・・・・そう・・」
「新しい事務所のお祝いをして上げたいからな、それから帰るさ」
私はポケットに入れた手を無意識に握ったり広げたりしている
しだいに指先が冷たくなってくる
僕はポケットの中の箱を握りしめた
確かな約束を願っている自分がいた
遥か彼方に雲の切れ目が見える
しだいに広がる遠い向こうの青い空
雲と雲に青い橋が架かったよう
「雲に架け橋・・・・・・・」
私が呟く
「ロマンチックだね」
「・・・・・・・・・・・・叶わぬものの例えなのよ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
空が少しずつ明るさを増し雨が上がった
*************************************
いかがでしたでしょうか。
想像の翼が大きく広がることを祈って。