[スコール・・4文字の秘密] 恋の思い出
 


駆けめぐった夏
過ぎ去った夏


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遠くの空を走る閃光
微かに空を切り裂く稲妻は目を上げても捉えることのできない
ー 音と光のすれ違い ー

さっきまでの暑さを激しい雨が包み込み、亜熱帯特有のモワッとした空気が辺りに立ちこめる。
眼下の景色はカーテンに閉ざされるように少しずつ姿を消していく。
ライトアップされた橋が消え、目の前のプールも消えた。

長く長く突き出た軒がこの広いテラスを濡らすこともなく不思議な空間を作りだしている。
おもいがけずゆったりとした夜を手に入れた僕は、雨という贈り物に伸び伸びとテラスから身を乗り出した。
どこからも見えない素晴らしい場所とこの時間に自分を取り戻そうとしている。

ー 静かだな ー

こんなことを思うなんていつ以来だろう。

雨が勢いを増す。さっきまで煙って見えた軒下のテールランプさえ消えた。

リビングルームから引っ張り出した椅子に深く腰掛け、音の消えた世界に身を任せた。
僕はいつの間にか君のことを考えていた。



風雪の吹き荒ぶ高原でひとつのコートにくるまり温まりあったあの夜
僕たちは明け方近くやっと解放されホテルに向かった。
足先は感覚がなく、骨の髄まで冷え切っていた。
君の凍える指が部屋のキーを取り落としたとき、僕はかじかんだ君の手にくちづけをして代わりにドアを開けた。
ほとばしるような熱い思いを指から頬へ、寒さでちぎれそうな耳朶にくちづけた。
君のほんのりと染まった頬を両手で挟み込み唇に愛撫を繰り返す。
君があふれそうな涙をまつげでしばたたいて堪えているのを見たとき、僕の鼓動は大きくなり、すべての血管がどくどくと打ち出した。

君は微かに吐息を漏らし、僕の髪の中に手をすべらした。
僕は君を強く抱きしめ、君は戸惑いがちに身を委ねた。


ほんのつかの間、僕たちは激しい恋に落ちていた。
あの時は一生続くものと信じていた恋、いつからすれ違うようになったのだろうか。

ー 僕の求めるものと君が掴もうとしたもの ー

音も立てずに崩れ去る虚しさを僕は知った。



今の君は、あの時の君ではない。
まっすぐな瞳で僕の心を揺すぶった君、そんな君に僕は翻弄され誠実さまでも試されたのだろうか。
まさか・・・・・・・。

僕の腕の中でしなやかでたおやかだった君、僕は君の全てを覚えている。

君はどうなの・・・・・・・・。
僕の全てを忘れ去ろうとしているかい、それとももう忘れてしまったのかい。

あの時とは変わってしまった君。
いや、もしかして変わろうとしているのか、そんな甘い考えに自嘲する。

あぁ・・僕の未練なのか。



輝く宝石のような君、あの恋があったから今の僕がある。
そう思えるのはあの時
ー 求め会う心の共鳴を信じられた ー
あの確信が今も僕の奥底を流れている。



雨足が弱まり、スコールの間も変化し続けた橋脚のイルミネーションが再び姿を現した。
遙か遠くの街の灯りも溢れだしていく。

不夜城・台北の夜が更けていく。


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いかがでしたでしょうか。
想像の翼が大きく広がることを祈って。





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