ゆきむしが・・・・・
地上のすべてのものを覆い隠すかのように
心を閉ざすかのように
地面が凍り幾重にも幾重にも降り積もる
土が目覚めたとき、僅かな隙間に水が流れる
時は進む
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ひとつため息・・・・・。
いや、ひとつだけではない。あとから後から零れるかのように。
空気は冷たく空は澄み渡り、細い三日月は胸を剔るにはちょうどいい大きさだ。
「寒くないか」
「大丈夫よ・・・」
「嘘だな」
「じゃあ、抱きしめて温めてくれる」
この月明かりだってあなたが苦笑いしたのがわかるわ、
ーからかうなーと、わたしの頭を指でちょっと突っついた。
わたし達は程良い近さであてもなく歩いていた。
「随分忙しかったのね」
「ああ・・・」
小石に足を乗り身体がバランスを崩しかけた。
あなたの手が肩を掴んだ。
「ボンヤリ歩いてるからだぞ」
「・・・うん・・・・」
あなたの手から流れてくるのは・・・悲しさ・・寂しさ・・何なの・・
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あの時あなたが喜びをいっぱいにしてわたしに語ったのは遥か昔のことだったのかしら。
「あのね、好きな人ができたよ」
「ほんと・・よかったわね」
「あれ、やきもち焼かないんだ」
「エッ、なんで」
「・・・・不思議な子だよね、君は・・」
「・・・・・」
あなたのことは大好きよ。でも、あなたが好きになるのはわたしじゃないわ。
そんなことはわかっているし、期待もしてないわ。
でも、あなたと一緒にいるのは楽しい、
たわいのないお喋り、沈黙、散歩
妹でも恋人でもましてや友達ってわけでもない関係
強いていったら「戦友?」でも誰と戦うの?
奇異な目で見られることもあったけど、今では周りも何となく納得していたわ。
「どんな人、わたしには聞かせてくれるわよね」
「ああ、自分を持ってる人かな」
「あら、だったら振られないようにしなくちゃ」
「・・・・」
「冗談よ冗談・・・すきなんでしょ・・・」
「ああ・・・・」
「なら、大丈夫よ。あなたほど素敵な人はいないわ、私が保証するのよ」
「君の保証か・・・誤解を受けそうだな・・・・・」
「・・・・・」
「冗談だよ冗談・・・仕返しだよ」
あの溢れんばかりの微笑みは目の前のわたしを透り抜け、あの女(ひと)に向けられる。
あなたの幸せはわたしの心まで柔らかくする。
ーよかったわ、心から祝福よー
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あなたに何があったの、忙しすぎたこの数か月。
哀しみの涙はこぼれ落ちたの
それとも瞼の縁で堪えたの
あなたが掴んだわたしの肩から伝わってくるのは心の疼きなの
こんなあなたの姿を見たのは初めてだわ。
あなたの胸の痛みが薄くなっていたと思っていたのは、勘違いだったのね。
忙しさの中に恋を置き忘れてきたの
熱い太陽の下に忘れてきたのは麦わら帽子じゃなかったの
プールサイドでパラパラ風に吹かれているのは読み忘れたペーパーバック
沈黙がすべてを語った。
「また、忙しくなるのね」
「自分が望んだことだからね」
「ここでこうしていたことを思い出すのは1年先かしら2年先かしら」
「きっと毎日懐かしく思うよ」
「いいえ、あなたは振り返る人ではないはずよ」
「・・・・さあ、帰ろう・・・」
海に背中を向け歩き出したあなた
何となく取り残されあなたの後ろ姿を見つめていた
スローモーションのようにあなたが振り返った
そのあなたの前を何かが横切った
「あっ、蝶・・・・冬の蝶だわ」
あなたの目が夜を彷徨った。
小春日の中を飛ぶ日溜まりのような蝶、まるであなたのよう。
見間違えたのかしらこんな夜更けに・・・。
「待って、置いていかないで」
わたしはあなたにじゃれるように声を上げた。
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いかがでしたでしょうか。
想像の翼が大きく広がることを祈って。