[月・・1文字の秘密] かぐや姫の思い出
 

コクン
冷たいお茶が喉を流れていく

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昔々その昔・・・・・・・・・
そうもう遙か昔なの。
誰も信じてなんかいないわ、月にウサギがいるなんて。
ましてや月の使者なんて・・・・・。

こんなに美しい月を誰も見向きもしない、こんなことはなかったわ。
花を見て微笑み、星に願いを掛け、月を謳う。
そんなことが当たり前だったあの頃・・・・・・。





すべてに疲れたときお気に入りの椅子に座ってぼんやり空を眺める。
星は星で好きだけど、日々形を変える月が僕はとっても好きだ。
時間は月を左の空から右の空へ変えていた。
その時・・・
少しふっくらした三日月の見えないはずの黒い部分で何かが動いた。

ー 疲れすぎているんだろうか ー

瞼をギュッと閉じそっと開き月を見つめた。
三日月の下の引っかかりがまるでスポットライトのようにすぐそこへ伸びてきた。
僕はその先を目を凝らして捉えようとした。
目の前にある公園の紫陽花が輝いた。

ふっと気が付くと月はいつもの形で地上を照らしていた。

真夜中の2時・・・
僕はマンションからいつも見ている公園を彷徨っていた。

時々上を見る、あそこから見えた紫陽花は・・・・・・

そこだけまるで雨が降ったかのようにしずくが月の光に輝いていた。

ー このしずくのせいか・・・ ー


紫陽花に手が触れ、しずくがこぼれ落ちた。
それは水ではなく氷のように転がった。
手に取ろうと屈んだとき紫陽花の根元に輝く玉を見つけた。




カーテンの隙間から眩しい朝日が射し込む。
テーブルに置かれた玉が妖しい光を放ち大きく大きく膨らんだ。




ベットが微かに揺れた気がした。
僕は夢の中を歩いていた。

甘い懐かしい匂いを感じた・・・感じた・・感じ・・・た
朦朧とした目に飛び込んできたのは、裸の肩・・・・・長い黒い髪・・・・

「おはよう・・・・・・・」
「・・・・・・・お おはよう・・」
ゆめ?いや夢ではないようだ。
シーツを身体に巻きながらかのじょ・・彼女は立ち上がった。
白い肩としなやかそうな手そして細い足に目が引きつけられた。
彼女は左手でシーツを捕まえて右手で髪を掻き上げた。
驚くほどの美しい顔が微笑んでいた。



僕は呆然とテーブルに砕け散った黄金の欠片を拾い集めていた。
中に入っていたのは・・・・・・・・。無意識の呟き。

僕のサマーセーターは彼女には大きすぎた。大きく開いた胸元、たくし上げた袖、足元は・・・・・目の毒ってこんなことを指すんだ。
僕の思考能力はこんがらがっていた。



「久しぶりね、覚えてくださってた・・・・・・」彼女の包み込むような柔らかな声が沈黙を破った。
その声は僕の心の底を震えさせ記憶を揺さぶった。
「・・・・・・・・会ったのはいつ・・・・・」僕の声だろうか?
喉に張り付いて掠れた低い声が遠くで聞こえた。

「ずっと待ってたの・・・永かった・・・」僕の手を取り彼女はそう囁いた。
彼女の目から涙が零れ僕の手の甲に落ちた。

涙がスウッと身体に染みこんだ。





私は[佛の御石の鉢][蓬莱の玉の枝][火鼠の皮衣][龍の頸の玉][燕の子安貝]そんな贈り物が欲しかったわけじゃなかった。
ただあなたの愛が欲しかった。
帝・・・・あなたの愛が・・・・。
あの時、月の使者たちはあなたをも私の世界に連れ去ろうとした。私はあなたをこの世界から引き裂くことはできなかった。
帝・・・・




夜が白々と明ける。西の空に薄い月が太陽に負けじと張り付いている。
空が青さを増すごとに月はしだいに姿を消した。


僕は椅子から身を起こした。
一晩ここで過ごしていたのか・・・・・・・・。


あれは夢・・か・・・・・・・・。
空が真昼のように明るくなり、雲に乗った月人たちが地上に降り立てきた。
僕の応戦は空しく、月人たちの「飛車」によって、彼女は連れ去られた。

いや・・・違う・・・彼女はまた僕を置いて行った。
あと何千後にまた巡り会うのだろうか。

夢・・・・・だった・・・・か。



椅子から大きく伸び上がった。
握りしめてた僕の手から黄金の欠片が転がり落ちた。


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いかがでしたでしょうか。
想像の翼が大きく広がることを祈って。





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