「帰るって言ったら帰るんだ」
僕は今にも点滴の針を引き抜こうとしていた。
確かに寒かった。
ハードだったことも認める。
でもこんなことくらいで熱を出すなんて思ってもみなかった。
僕の体はもうギリギリの所まで来てるのだろうか。
掴みようのない不安に苛立ちを感じ僕は思わず声を荒立てた。
「・・・・・・すまない・・」
誰もいなくなった病室は花もなく寒々としている。
見上げると音もなく一滴一滴細い管を伝わり、僕の体内に液体が送り込まれる。
その無機質な動きに吸い込まれいつの間にかウトウトしていたのだろう。
ふと気づくと、さっきと何も変わらない天井がそこにあった。
いや、違う。何かを僕の目が捉えた。
僕のベットの横に何か小さいものが見えた。
痛みが引いて軽くなった頭をそちらに向けた。
ブルーのパジャマの男の子が立っていた。
「・・・やあ・・こんにちは」
「こわくないんだよ。びょうきをたいじするんだよ」
「!?」
「さっき、かえるってないてたでしょ」
大きな黒い瞳で僕を真剣に見つめた。
「そう、帰りたいんだ」
僕は素直に答えた。
「ちゅうしゃはこわくないよ。なおってからかえればいいんだよ」
男の子は優しく諭すように僕に一生懸命話しかけてきた。
僕は瞼が盛り上がるのを感じた。
熱いものが僕の頬をスッと流れた。
小さな手が僕の頬を撫でた。
ゆっくり目を開けると男の子が微笑んだ。
「・・・ありがとう・」僕は久しぶりにはにかんだ。
「ここには何にもないね」男の子は部屋を見回していた。
「そう、たぶんすぐ退院するからね」
「そうなんだ・・・いいな」
「・・・・」
「ぼくはまだなんだよ」
「そうか、大変なんだな」
「でも今度の誕生日までは帰るんだ、絶対にね」
「じゃあもうお部屋に戻らないと、お誕生日まで帰れないぞ」
「おじさんもう泣かない?」
僕は顔が赤くなるのがわかった。
「・・ああ・・大丈夫だよ君のおかげだよ、もう怖くないからね」
「わがまま言って悪かったね。もう大丈夫だから」
僕は頭を下げた。
「ところで僕のお願い聞いてくれる」
「退院とお誕生日おめでとう」パパとママとお兄さんが僕より喜んでいる。
ーピンポーンー
「プレゼントよ、誰からかしらね」
大きな箱といろんな色のチューリップの花かご
箱の中から眼鏡を掛けたクマがでてきた。
「まあ・・・」ママが少し驚いていた。
僕はクマの顔みてわかった、そうあのおじさんだ。
注射が怖くて泣いていたあのおじさんにそっくりだった。
ーもう泣いてないかなー
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いかがでしたでしょうか。
想像の翼が大きく広がることを祈って。