[雪・・1文字の秘密] Valentines Day の思い出
 


雪が全てを隠すなら・・・お願いだ、僕の心も覆って欲しい
雪が全てを凍らせるなら・・・・僕の心を閉じこめて


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空が明るい、今夜はどれくらい降り積もるのだろう。
カーテンの隙間から僕は空を見上げる。
君の息づかいが僕の気持ちを落ち着かせる、それは君がここの地上にいる証だから。



君と初めて会ったのは春だった。
あの年は季節が少し遅れてきて、でも僕が降り立った日は春には暑すぎた。
あの日、僕が目にした桜は今が盛りと咲き誇り見事だった。

ホテルの窓から見下ろす街はさながらピンク色の靄が架かったかのように美しかった。
この街は人と車が多すぎて汚いよ・・・って人々が口にしていたけれど僕には青い空と桜だけが見えていた。


川にはボートが浮かび、川岸は見事な桜。僕は木の橋に寄りかかって感嘆のため息をついていた。
行き交う人々をサングラス越しに見ながら僕は橋の欄干に身を預けた。
ー眩しいー

大きく背伸びをした僕の身体を誰かが掴まえた。
「落っこっちゃうわよ」
「・・・・・・?」
「あら?日本の方じゃないのね」
「ケンチャナ・・」


君の趣味は外国語、僕らは春の夕方の冷たい風に吹かれるまで桜を堪能した。
もっともその後、前から引いてた風邪がぶり返したことは言うまでもない。


初夏というにはもう暑いあの日
僕は気持ちに一区切りつけるため飛行機に乗った。
どこへ持っていっていいのかわからない想い、どうして君に打ち明けようなんて考えたんだろう。
寂しかったなんてそんなのは言い訳だ。持って行きようのないものを飲めないお酒にぶつけていたのだろうか。

君は僕の手から「マッカラン」をもぎ取ると笑いながらこう言った。

「美味しいお酒は楽しく飲まなきゃ」

耳の底で氷が軋む音がした。




二日酔いでガンガンする頭をそっと持ち上げた。
僕の横に誰かがいる。
裸の肩をむき出しにした君が眠ってた。
朦朧とする頭で昨夜の記憶を辿った。

「クスッ」と笑い君が目を開けた。

明るい朝の太陽の下、僕は君とシーツに潜り込んだ。
なくした記憶を辿るため・・・・。

秋が来て冬になり、また桜の季節が巡り夏が過ぎ、枯れ葉が散り雪が舞い落ちた。




「ねぇ・・・」
君がささやいた。
僕は振りかえりながら笑顔を見せた。
「なに?・・・・雪が積もりそうだよ」

つややかに輝く黒髪を編んだ君に、ぼくは強く心を揺さぶられる。いいや、僕の心の琴線を震わすのは、君の美しさではない。
大きく見開いた瞳と毅然とした顎の繊細さなのかもしれない。


「哀しまないで」
「・・・・」
「お願い笑って・・・・・」
「・・・出来ないよ」
僕の声は途切れた。

三つ編みされた黒髪が白い頬を縁取る。熱を持ったような潤んだ瞳の美しい顔に見つめられると、僕の胸はしめつけられる。

君は笑っていた
「ねぇ・・・お願い、私は笑ってるのよ」
「僕の・・僕の想いはどこへ持って行ったらいいんだ・・・・」

僕は君のそばに腰を下ろし細い腕をとった。
「ねぇ君と出会ったことを悔いることはない・・・・・でも・・・・だめだ・・・」
僕はうめきながら君に口づけをした。唇の甘さにすべてを忘れたくて、むさぼるようにキスをした。
無機質な時間を取り除くような深いキス、不安をもぎ取るようなキス。
君のやわらかい心と魂が僕のすべてを受け入れる。


「想いはどこへも持っていけないわ、だから雪の下に隠してね」
「春になったら・・・・雪が融けて隠してなんておけないよ」
「ケンチャナ・・雪と一緒に融けてしまうわ」




あの日から僕の全ては仕事になった。

2月14日
パソコンを立ち上げたとき1通のグリーティングカードが届いた。

ーHappy Valentine!!  クローゼットの帽子の赤い箱を開けてね ー

帽子の上に封筒が置かれていた。
君の笑顔が見えるような文面が僕の目の前で踊っていた。


ー 空からいっぱいの愛を贈ります、あなたを囲んでいる太陽は私の愛の輝きよ 一粒のチョコレートを添えて ー


箱の中の帽子を寄せるとたくさんの封筒が並んでいた。

「恋人が出来たときに開けてね」
「結婚するときに開けてね」
「子供が産まれたら開けてね」

そして一番下に
「私を忘れたときにね」・・・と。

君はあわてん坊だよ
君への返事はどうやって届けたらいいんだ。

口に放り込んだチョコレートは涙の味がした。


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いかがでしたでしょうか。
想像の翼が大きく広がることを祈って。

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