12 <初 夜>


『カタンッ』 CDを取り出す音が聞こえてきた。
ユジンは、先程から何も話さない。ユジンは何を思っているのだろう。 

僕はなるべく明るい口調で言った。
「ユジン、今日は感動した?」
「・・うん・・」
「ユジン。今日の花嫁姿、亡くなったお父さんにも見て頂きたかったね」
「・・うん・・」

「・・ユジン? ひょっとして緊張しているの?」
「えっ?なんで?」
ユジンは少しだけ明るい声を取り戻した。

「ジュンサン。私、今日なんだか眠れそうにないの・・」
「ユジン。ユジンが眠くなるまで、ここで座って話そう」


窓の外から、冬の夜の荒々しい風音が聞こえてくる。


僕はユジンと出逢った頃のことを思い出していた。
ユジン。君は僕と初めて出逢った頃のことを覚えている?

影の国の住人だった僕を、光あるこの世界に引っ張り出してくれた、
ユジンのまっすぐな瞳と明るい笑顔。
僕のために流してくれた涙。
僕の記憶の奥深くに刻み込まれている。

今日からは、僕は、君の瞳を通して、この世の中を見ることが出来る。
ユジンの清らかでまっすぐな瞳で、この世の中を暖かく見られるようになって、
うれしくて・・うれしくて・・そして幸せだ。

講堂で『はじめて』を僕が弾いて、君が聴いてくれた。
ユジンがバランスを崩しそうになった時、僕の手を取ってくれた。
一緒に授業をサボって、その罰で一緒に焼却場の掃除当番をした。
初雪の日に雪だるまを作って、ファーストキスを交わした。

何年も前の事だけれど、記憶の中の日々はいつでも色鮮やかなままだ。


今日からは、さまざまな困難から君を守っていきたい。
君のコートや帽子になって、世の中の寒さから君を守ってあげたい。

バスの一番後ろの席が僕たちの定位置だったように、もしかしたら、社会の中で、前の便利な席ではなく、一番後ろの席に座ったのかもしれない。
でも、ユジンと一緒なら、この席もいつも楽しい席になるはず。

これからはいつも一緒に・・

僕たちはたくさんの回り道をしてしまったけれど、これからは、いつも一緒にいよう・・ユジン。


それまで黙り込んでいたユジンが、やっと口を開いた。
「ねぇ、ジュンサン。外は雪が積もりはじめているわ。私たち、ここに閉じ込められて帰れないかもしれないわ・・」
「・・スキー場のことを思い出す?」
「うん・・」
「僕たち雪でいっぱい遊んだね。雪だらけになってさ」
「・・そうか。そうね。ジュンサン、これからしましょ!雪遊び!」
「えっ?」
「できないこともないでしょ?」
「・・外は寒いよ・・」
「それじゃ、私、一人で行ってくるわ!」
僕はユジンに押し切られる形で外に出た。

「もう、結構、積もっているわぁ。」
子どものようにはしゃぐユジンの声。とたんに冷たい塊が僕の上から降ってきた。
「やったな!」
「ふふ。雪合戦しようって言ったら?」
「ユジン。お前、新婚初夜から僕と合戦なの?」
「なによ」
ユジンが楽しそうに笑う。
記憶の中の、ユジンの屈託のない笑顔と重なった。
ユジンがまた笑ってくれる事が、本当にうれしい。



本当に必要なのは物ではなく、お互いを思い遣れる事ではないか。
僕は見えなくなってしまったけれど、ユジンを思い遣ることでは、誰にも負けない。


ユジンと僕は体が冷え切るまで雪で遊び、お互いに雪を払いあって、部屋に戻った。
「ユジン、こんなに冷たいじゃないか。先にお風呂に入っておいで」
「ジュンサンだって、こんなに冷たい・・」
「ユジンが雪をかけるからだろ?」
「ジュンサン、先に入ってきて。私は後で入るわ」
「・・・じゃあ、一緒に入る?」
「やあね。もうっ」
「なんで? 僕、見えないんだから恥ずかしくないでしょ?ねえ、そうしよう!ユジン!(笑)」
「ヘッ・・ヘンな事言ってないで、先に入ってきて!」
ユジンが顔を赤らめているのが想像できた。



夜が更けていく。
一晩中、雪が降り続ける。


そして、世界は白の世界へと変貌してゆく・・。




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