10 <サンヒョク —友で兄弟―>


サンヒョクとヨンゴクに飲みに誘われる事が増えた。
サンヒョクが僕に聞いてきた。
「ジュンサン。釣りってやった事あるか?」
「・・幼い頃はね。今は・・。今度一緒に行ってくれないか?」
釣りをしたい訳でもなかったが、結婚前に、どうしても、サンヒョクと二人きりで話がしたかった。
ヨンゴクは一緒に行きたがったが、途中で気付いて遠慮してくれた。

天気のいい日にサンヒョクは迎えに来て、釣り場に連れて行ってくれた。
釣りの準備もサンヒョクが頼りだ。サンヒョクは気にする様子もなく、世話をしてくれた。
「ジュンサン、タバコいる?」
「いや、止めたんだ・・」
「へえ。ユジン、ジュンサンの煙草吸うしぐさが好きって聞いた事あるけど、それでも止めたの?」
「まぁな・・」

水音は静かだった。サンヒョクの煙草の香りがあたりに広がった。

「魚って何時釣れるのかな?こんな僕にも釣れるのかな・・・?」
「・・そんなの魚に聞いてくれよ(笑)」 

しばらく竿先に集中した。

「なあ、サンヒョク。・・ちゃんと聞いた事なかったけれど、兄弟だった事どう思っている?」
「なんだよ。いまさら・・」
「・・・」
「・・・はじめは受け入れ難かったよ。驚いたし、戸惑ったし、憎かった・・なんで、なんでジュンサンが兄さんなんだよ?って」
「そうか・・」
「ジュンサンだって、僕が弟で戸惑ったろ?」
「まあな」
「父さん、母さんや僕にも責められて・・でも、父さん、ジュンサンのこと、ずっと心配しているんだ。・・悩んでいる父さんを見て、時間はかかったけれど、事実は受け入れることにしたんだ・・誰かが人生には受け入れなくてはならない事があるって言ってたよ」
サンヒョクは勤めて明るい口調で言ってくれた。
「サンヒョク。僕は、アメリカで、このままみんなに忘れてもらえばいいと思っていたんだ。でも、ユジンの事・・君に頼って・・・・頼りになる弟で感謝しているよ・・」
「そうだよ。感謝しろよ!(笑)」

「サンヒョク、お前、心から祝福してくれるの? その・・僕たちの結婚・・」
「あぁ」

日差しで、僕の背中は次第にホカホカとした暖かさを感じた。

「サンヒョク、聞いてくれ。昔、君が僕の欲しいあらゆるものを持っていて、それで羨ましくて、憎くて、君に喧嘩ばかり吹っかけていた。でも、思ってみれば、一番大切なものを奪うこと、それはしてはいけなかったと思うんだ」
「ジュンサン、それは僕にも言える。ジュンサンとユジンの――」
「サンヒョク」
「あっ、魚、かかっているぞ」

釣りの最中何度もユジンから、(寒くはないの?早く帰って来た方がいい)と心配の電話が入った。
心配してくれるユジンには悪かったが、僕はその後もサンヒョクと飲みに出掛けた。

思い出話に花が咲いた。高校時代の事、4年前の事。いろんな思い出がよみがえる。
争って憎んだ時間を思い出として心に仕舞う。
ヘンな感じだ。
僕たちは肩を組んでお互いを抱きしめた。


血縁の父、キム教授。
『本当のお父さん』という存在だけでなく、《サンヒョク》という兄弟を与えてくれた。


友達と同時に兄弟


僕は胸が温かくなるのを感じた。


*****


ヨーロッパにいる母カン.ミヒに電話を掛けた。
「母さん。元気?」
「ジュンサン。お父様から聞いたわ。結婚するんですって?」
「そうなんだ。母さんには絶対結婚式に出席して欲しいんだ。母さんに祝福して欲しい」
「・・そうね。マネージャーに頼み込んでみるわ」
「そうして・・。ありがとう、母さん」
「ユジンさんはお元気になったの?」
「あぁ。母さんに会いたがっているよ」
「・・そう。やっと・・ユジンさんと・・・・・」
母さんは電話の向こうで泣いているようだった。




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