僕の泊まっているホテルに、サンヒョクがある人を連れて来た。
「キム教授・・」
「・・ジュンサン」
サンヒョクはキム教授を送り届けると、一足先に病院に向かった。
幼い時あれほど呼びたかった『お父さん』という言葉。
友達が無邪気に『お父さん』と呼ぶ度に、身を竦めていたものだった。
あの頃仕方がないとあきらめていた言葉を、今、自然に使うのは難しい。
『お父さん』という言葉が、ただの家族を意味するならば、僕は永遠にその言葉を胸に仕舞わなくてはいけないのかもしれない。
「・・ジュンサン・・あれからどうしていたんだ?・・」
「・・連絡もせず・・すみません・・」
「イや・・こっちからも連絡取らず・・サンヒョクから君の様子を聞いて・・」
「・・そうですか・・」
キム教授はしばらく、僕の手を握っていた。
「その・・ユジンと結婚するのか?」
「したいと思っています」
「ユジンと結婚したら、韓国に住むつもりなのか?」
「・・ユジンのためにそうしなくてはと思っています。まだ話し合えていませんが・・」
「私のそばで暮らさないか?・・そうすれば・・サンヒョクもちょくちょく会いに行けるし・・私も・・」
「・・・」
「・・ジュンサン・・済まない・・」
「いいんです・・気を使わないで下さい・・」
親子の会話とはかけ離れたものだった。
「あの、ユジンが退院するので、そろそろ失礼しなくてはなりません」
「そう・・そうだね・・」
キム教授から、捉えどころのない悲しみが伝わってきた。
僕は、僕を見詰めているだろうキム教授の方へ振り向いて言った。
「たまに会いに来ていただけませんか?」
「・・ジュンサン・・」
「・・無理にとは・・」
「いつか・・」
そうです。長い時間を掛けて、ゆっくり解決しましょう。
これから、いつか、あなたを自然に『お父さん』と呼べる日が来るかもしれません。
「そうですね。お父さん・・」
僕は少しぎこちない言葉を意識して使った。
そして病院へと向かった
|