1 <ユジンの訪問>


また、冬が訪れようとしていた。
その日は仕事が長引き遅くにベッドに入った。

ウトウトしていたら玄関チャイムの音が響いた。

えっ
目覚まし時計を押して時間を確認したら、『午前1時5分です』と電子音で答えた。
もしかして・・もしかして・・?
あわてて飛び起き玄関に急ぐ。こんなに玄関が遠くに感じたのは初めてだ。
「・・ユジンなの?」
「・・ジュンサン・・」
ドアを開けると、ユジンは僕の首に手を回し抱きついてきた。


これは夢なのか?
ユジンのシャンプーの香りが広がった。懐かしい香りだ。
「お休みが取れたの。だからすぐに来たの。約束したでしょ?」

突然の深夜の訪問に、僕は最初から戸惑ってしまった。
「あら、忘れたの?連絡もせず逢いに行ったら、突然現れたら、怒りたくても怒れないものだって。あなたが教えてくれたのよ。でも非常識過ぎたかしら?」
ユジンは愉快そうに言った。

僕は何とか抱擁から脱した。

ユジンは大きなトランクを持って来たようだ。
何か確かめないといけないのに、何も問うことが出来なかった。
口を開けば、消えてしまいそうだから・・


― 何か言わなければ―――――


「・・ユジン・・その・・休まなくても大丈夫?」
「眠っていたのに起こしてしまったのよね。あなたは休まなくても平気なの?」
お互いにくすりと笑った。
「寒くない?」
「大丈夫よ」
「・・ええっと。元気だった?」
「元気だったわよ」
ユジンは笑い声になっていた。
「ジュンサン。あなたがよければ、ワインで乾杯しない?」
「乾杯?ユジンお酒飲めるようになったの?」
「すこーしだけねっ」

腕を組んでリビングまで歩いた。夢ならば覚めないでくれ・・

ワイングラスを用意しようとすると
「あの・・教えてくれたら私がするわ・・ワインは持参したの。お土産よ。チェリンがあなたの好み教えてくれたの」
「・・大丈夫だよ。家の中ではたいがいなんでも出来るんだ。ユジンはソファに座っていて」 
すると、ユジンが茶目っ気のある声で言った。
「ジュンサン・・ここに飾ってある写真は恋人なの?うーん、どこかで見たような・・」
ん?チェリンの写真? そうか・・この家にはまだ飾ってあったのか・・
ん?おかしいな・・ああ、エイミーさん、チェリンをユジンと勘違いしているんだ・・
そうか、チェリンの写真が飾ってあったんだ。ユジンに指摘されるなんて・・
苦笑いが浮かぶ。ユジンも僕の顔を見て笑っているようだ。

「ひとつ聞いてもいいかな?」
「何でも聞いて」
「どうしてここが分かったの?その・・あまりここの事は知らせてないのに・・。サンヒョクのお父さん?」
「えっ?」
「・・いや。いいんだ・・」
「ヒントをあげるわ。ジョンアさんは私の信頼する上司、そのジョンアさんの彼は?」
「キム次長!キム次長から聞いたの?」
「そう。私、時々ふたりのお邪魔をして、一緒にご飯食べに行ったりするの。キム次長とは一種の協定ね。そう、助け合いの精神よ・・今回はここの地図まで描いて貰っちゃったわ」
「・・そうだったのか・・」
「時々ね、あなたの事、教えてくれたの。体調はどうとか、どんな仕事をしているとか・・」
「・・・なんだか、不公平だな。僕には何も教えてくれなかったのに・・」
「そうなの?フランス留学中はあなたの事知りたくてもわからなかった・・。今年は仕事は大変だったけど、あなたの様子が聞けて嬉しかったわ。」

乾杯の後、ユジンは何か思いに耽っている様。二人とも黙ったままでいた。
ユジンはそのうち、旅の疲れからか、ワインに酔ってしまったのか、僕の肩に寄りかかったまま軽い寝息が聞こえてきた。

反対に僕はだんだん目が冴えて来た。

秒針の音を大きく感じながら、ユジンとつないだ手を離すことが出来ずにいた。




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