<プロローグ>


長い間、二人はソファに並んで座っていた。
ふいに、ジュンサンは沈黙を破った。
「ユジン・・熱があるの?」
「えっ・・あの・・・あなたが・・・触れてるから、なんだか恥ずかしくって」
瞬間、僕の手が止まった。ささやくような声だったが、最後はわずかに吹き出していた。

そうだった・・
僕は君を見つめていたいだけなのに、無意識のうちに、ユジンの顔、髪を撫でていたようだ。
ユジンは暖かく僕の手をとった。そして僕の肩は温かい重みを感じた。
ユジンに逢えて・・嬉しくて・・愛する人にまた逢えたことが嬉しくて・・
ユジン、君の体温を感じることが出来て、世界中に感謝したいくらいだ。

ユジン・・ユジン・・ユジン・・・・ここにいるんだね。

僕はその嬉しさに流されて行きそうだった。流されて行きたかった。
けれど、心の片隅でブレーキがかかる。

ジュンサン。お前は愛するユジンのそばにいていいのか? 
ジュンサン。お前はユジンを本当に幸せにできるのか?
ジュンサン。お前はユジンに相応しいのか?
ユジンの重荷にはなりたくない。ユジンを諦めたはずじゃなかったのか?

何度ここに立ち返ったら、僕は納得できるんだ?

僕は、伝えたい気持ちを堪えるばかりで、言葉にならなかった。
僕たちは、何か話した気もするが、静かな時間ばかりが過ぎて行った。
このまま。このまま。世界が止まってしまえばいいのに・・

気持ちを組立て直すのに、時間を要した。

ユジン、君との再会は一生分の嬉しさを使い切った気がしたよ。

でもまた、3年前のように、僕はアメリカに戻らなくては・・・
ユジン、君は分かってくれるだろうか・・

アメリカに帰国すると伝えたとき、ユジンは何も言わなかった。
キム次長とジョンアさんにはお叱りを受けたけれど。


空港はいつものように雑然としていた。
見送りに来てくれたのは、サンヒョク、ジンスク、そしてユジン。
チェリンにはさっき短い電話で別れを告げた。
子供を抱いたジンスクは泣きながら言った。
「ジュンサン・・どうしてよ・・どうして一人で行っちゃうの?どうして・・」
「ジンスク!止さないか」
それまで何も言わなかったサンヒョクが語気を荒げる。

サンヒョク、君は僕に怒ってるんだろうね。ユジンをまた置いていく僕に。
サンヒョクが僕を抱きしめた。胸が詰まっていたようだ。
「・・ジュンサン・・いや兄さん・・本当にこれでいいのか?ユジン、ユジンの事はこれでいいのか?

アメリカでよく考えてくれよ。頼むよ。ユジンは君じゃなくちゃ駄目なんだ・・分かっているんだろう?」
僕はサンヒョクに返事もできず、背を向けた。

「・・ユジン・・」
ユジンは早口で言った。
「私ね、頑張って仕事してジョンアさんにお休みをもらうわ。そうしたら・・そうしたら、今度は私、あなたに逢いに行く。駄目って言ったって押し掛けちゃうわ。絶対行く。約束よ!」
泣き虫のユジンは泣いていなかったようだ。
まるでちょっと旅行をする人を見送るように明るい声だった。


機内で、またいつもの様に、ユジンが懐かしく恋しかった。
でも、その恋しさは、これまでのように痛くも悲しくも感じなかった・・・

僕は期待していているのだろうか・・何を??
雲の上で僕はぼんやり考えていた・・


****

地上では飛行機を見上げていた。
まだ泣き声のジンスクに、ユジンは明るく言った。
「ジンスク。めそめそしているとジヒョンちゃんに笑われちゃうわよ。ジュンサンにもう会えない訳じゃないんだし。ジュンサンね、アメリカでまた仕事しているの。今回だって学会に来ていたんだから。」
「・・ユジンはそれでいいの?」
「・・いいの。当たり前じゃない。ジュンサンも頑張っているのよ。私も頑張らなくっちゃ・・」

ジンスクと別れた後、ユジンとサンヒョクは話をする時間があった。
いつもより饒舌なユジンに、サンヒョクは心配そうに言った。
「・・ユジン・・無理するな・・僕の前では強がらなくてもいいよ。大丈夫、ジュンサンは戻ってくるさ。こんないい女。ほっとく奴の気が知れないよ」
「・・サンヒョク・・私ってあなたに心配かけてる?」
「ふう。ホント心配ばかりだっ!まっ、今始まったことじゃないから・・癖みたいなものさ」
「心配しなくても大丈夫よ。これでも私、強くなったのよ」
「はいはい。ユジンは前から強いですよ」
「もうっ」
「さて、ユジンさん。会社までお送りしましょう」
「・・悪いわよ」
「どうせ同じ方向なんだし遠慮するな。バリバリ働かないとジョンアさんに長期休暇はもらえないぞ!」
「・・ありがとう。サンヒョク・・」

サンヒョクは心の中で呟いた。
(強くなって欲しい訳じゃないんだ。幸せになって欲しいんだ。ユジン..)




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