「Back and forth 〜フランク・シン In Manhattan〜H」
 
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ここはマンハッタン。



自信と実力は持ち得て当たり前、さらに過剰なほどの自己陶酔が必要な、一瞬たりとも気の抜けない世界。
ロウアー・マンハッタン
ニューヨークの玄関口そして世界の経済の中心地。
18世紀末から何の変化もない街、強いて変化を見出すとすれば旅行者の数の多さだろうか。


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BGMが変わる。
料理を手にしたウエートレスとウエーターがぱっと身を翻し、歌いながら踊り出した。
いろんな表情を客に振りまきながらミュージカル仕立てのショートショーが繰り広げられていた。
そして、BGMがまた変わる。
それは、ミュージカルスター達がオーダーを運びに戻る合図。


「レオ、この次からは埃の立たないレストランを予約してくれ」
「あはは、ボスはやっぱりお気に召さなかったか。たまには趣向を変えてみたんだが。あのブロンドの子がいいだろ?」
「ここはそんな店なのか」
「いやぁまさか、ミュージカルスターを夢見てオフブロードウェイにも立てない子が勤めているらしい」
レオの言葉を聞き流しながらフランクは見事な栗毛の女に目を惹きつけられていた。
― どこで会った ―

フランクの視線の先を見つけてレオの口元が緩む。
「なんだ、ボスも隅に置けないな。あの子ねえ・・」
「知ってるのか」
「ああ、才能はあるが磨きがかかっていないというか・・・・好みなのか?」
「どこかで見た」


教会の椅子に座り十字を切り、静かに手を組んだ。


何も考えられない..
何も考えたくない・・


疲れたのか
逃げるのか
ちがう 逃げない 

次第に穏やかにそして染み渡ってくるように、敬虔な気持ちが湧き上がる。
再び正面の十字架に向かい十字を切り喧噪への扉へ向う。
フランクがドアを開くと同時に入ってきた女はフランクに軽い会釈をしすれ違った。
女が通り過ぎたときフランクは思わず振り返った。

― 春の匂いがする ―

頭を振りながら苦笑いが浮かぶ。
― 神の前で素直になりすぎたか ― 
眩しい日差しを浴びながら、無表情を張り付けた。


あれは何度目だったろう・・

「よく来てるの?」
隣に跪きながら女が声を掛けてきた。
「ああ・・・祈り方を忘れないように」
「まあ」場所に似合わない顰めた笑い声がした。
同時に立ち上がり十字を切って背を向けた。
「祈り方はなんて忘れるのかしら? ご両親に習ったんでしょ?」
「ああ・・・養父母だ・・・」
この空間では無防備になりすぎる、フランクは足早に扉に近づいた。



「ねえ、賭けた方がいいかしら?」
フランクはゆっくり振り返った。
「ね、どう思う?」
「僕は神父さまではないので」
「いいじゃない、ちょっと啓示が欲しいな〜って。だめ?」
「後悔するような賭けはしないほうが良いですよ。お嬢さん」
「後悔しなかったらいいのね?」
「自信がないんだね」
「まさか!あるわよたっぷりとね。でも迷う時だってある、そうでしょ?」
「どうかな」
フランクへ向けたまっすぐな視線がわずかに震えた。
「私はキャスリン。あなたは?」
「フランク」


ふたりで一緒に扉に向かった。


扉の向こうからは全くの他人になるはずだった。
しかしキャスリンの両手を広げ大きく深呼吸する姿が目に入ったフランクは、両手をズボンのポケットに突っ込んで俯いた。
「ねえ、冬と春が行ったり来たりするこの季節、私は好き。どっちが勝つかなって思わない?」
「・・・・勝負はもう付いてるさ。決して逆転はない」
「あら、そうかしら?もしかしたらもしかするかもよ」
「キャスリン俺はもう・行・・・・・・・」
「キャスと呼んでフランク」フランクの言葉を遮った。
フランクは諦めたように顔を上げると、言葉とは裏腹な不安な顔をキャスが佇んでいた。
左の手を目尻の横に置きそっと顔を滑らしたとき、フランクがキャスの涙を拭ったように見えた。
「ふーう」大きなため息を付くようにフランクが空を見上げる。
「確かにな、もしかしたらもしかするかも・・・・でもどうやって確かめるんだ」



マンハッタンの最南端に位置するバッテリー公園。
自由と平等を求め夢と希望を持って多くの移民が上陸したこの地。
そのモニュメントを眺めながらキャスは呟いた。
「何がそんな勇気を彼らに持たせたのかしら?」
「君はどこから来たんだ」
「祖父母はアイルランドからよ、あなたは?」
「・・・・・・」
「ねえ、リバティ島に行きましょう。自由の女神に登ってみない」



「やっぱりいいな・・・・・・」
「ここは何度も来てる?」
「いいや、1度来たっきりかな・・・何年前だろう・・・」
船上から見る女神は、マンハッタンの景色はいつもと異なって映る。
頬に当たる風もどこかが異世界のように感じていた。
「・・・・・・俺をどうして誘ったんだ」
大きく息を吸い込む音がした。
「あの..何か足りないんだって・・
私には恋する女の表情が出ないんですって・・
デートをしたことがないじゃないか?男を知らないのか?切ない情感をだせないのか?ってさんざんなの。
でも確かにそうだと思うの。デートはしたことはあるわよ。ボーイフレンドだって事欠かない。
だけど身を焦がすような夢中になれる相手には出逢っていない気がするの。判るのは紙の上だけのことよ」
「・・・・・・・・」
「それで..何度か教会で見ていてあなたになら夢中になれるんじゃないかって・・・・・・」
フランクに苦笑が浮かんだ。
「そうその顔。あなたが教会にいるとき時々浮かべるその表情。
でもあの扉を閉めた瞬間全くそんな顔をしないのよ。気付いてる?
だから・・・・教会にいるあなたに会いたかった。
そんなことを考えていると胸がドキドキしたの。
あなたとデートしたら自分を変えられるんじゃないか・・と思ったの」
「・・・・で・・・」
「まだ、よくわかんない。ただの行きずりの人の隣にいるみたいなんだもの」



フランクの手がキャスの腰を捉えそっと抱き寄せる。
キャスは自分がうろたえている事に衝撃を感じた。
顔に熱を感じ体が強張り思うように動かない。そして唾を飲み込んだ。
「こうすれば恋人になれるか」
うまく反応することができないキャスだったが、ゆっくりフランクを見上げる。
フランクがキャスを離すと両手で頬を挟んだ。
その動作はスローモーションのようにキャスの瞳には映っていた。
「キャス・・・・・」
温かく、驚くほどの優しいフランクの唇がキャスの唇に重ねられる。
キャスの心臓が激しく打ち意識が遠のく。
深くなるキスにキャスの両手はフランクの項を引き寄せていた。
― 唇だけで私がこんなになってしまうなんて・・信じられない ―
リバティ島行きのフェリーでキャスリンは恋に落ちていく



右のかかとを持ち上げた後ろ姿の女神にフェリーは接岸した。
冠までの展望台へ354段の階段を歩いて上る、気候のせいか混雑はなかった。
無言のまま二人の靴音が響いていた。



「キャス・・・見てごらん」
フランクの指差す方にゆっくりと首を向けた。
無機質なビルに強大なガラス、中が見えないようになっていた。
フランクに肩を抱かれたキャスリンが目にしたのは、ガラスに映った姿。
どことなく今までに見たことのない自分のような気がしていた。
船上でのフランクとのキスを思い出し、目が、頭が、身体全体がクラクラしてくる。
顔が火照ってくるのを感じ、キャスは自分の頬に手を当てた。
心を読んだかのようにフランクが口元に笑みを浮かべ、声を掛ける。
「キャス、今度の役を掴めそうか」
「・・・・ええたぶん。掴めそうな予感がする。フランクまた会える」
キャスのその一言には深い意味と約束を含んでいた。
フランクはキャスのこめかみに軽くキスをした。
それが承諾なのか拒否なのか、キャスにはわからなかった。



「ああ、これから向う」 
携帯電話を内ポケットにしまうと時計を確認した。
ふと空を見上げた。
季節は確実に歩んでいた。
フランクの頬に微笑が浮かんだ。
すれ違った女性が頬を染めた。




バグパイプの音色が響いてきた。
通行止めになった車道をアイルランドの民族衣装を付けたグループを先頭にパレードが始まる。
「ハッピィ・セント・パトリックス・デイ」
緑のものを身につけた人々がすれ違う。
― ね、フランク、聖パトリックス・デイーにはパレードに一緒に行きましょうよ ―
決して実行されることない約束を俺はキャスリンとしてしまったのだろうか。
大通りを南から北に向かうパレードに立ち向かうかのように俺は歩き出した。


遠ざかる春の音と春の匂い



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寒中の木枯らしに身を縮める
ひとたび暖かい建物に入る
今しがたの寒さはもう感じない
しかし
またあの外に出ることは
寒さが心まで凍らせる



美しい歌声に足を止める
感情を欲しいまま歌い上げる
恋は女を磨き上げた


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2005/6/13UP

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