「Back and forth 〜フランク・シン In Manhattan〜G」
 
==========================================================

ここはマンハッタン。



自信と実力は持ち得て当たり前、さらに過剰なほどの自己陶酔が必要な、一瞬たりとも気の抜けない世界。
ニューヨーク最古の歴史を誇るトリニティ教会
茶色の砂岩で造られた建物
ウォール街の喧噪の中にゴシック様式
証券取引所から僅か100mの距離
似つかわしくもあり・・・・・・・・・


******************


「あら、フランク奇遇ね」

フランクは左口角をわずかに引き上げた。
同じパーティで顔を合わせた一瞬、それぞれのパートナーを値踏みするかのように視線を走らせる。
「じゃ、またね」

表情1つ変えることなく別々の方向へと歩き出した。



同じ仕事で拠点はニューヨーク。
顔を合わせないことのほうが難しい。

私とフランクが密かに会っていることは誰一人知らない。
どんな情報も逃がさない彼らであっても気付くことはない。



フランク・シン
韓国系アメリカ人
韓国系と言うのがどんな意味をもつのか私には興味がない。


物事をドライに割り切る。仕事における冷静さ・冷酷さは並の人間ではないものを持っている。
短期間に確実に成功への階段を上がってくる。
判断を迷わず勝負どころを逃さない彼。

私の最大のライバル、フランク・シンに心惹かれないわけがない。
フランクを愛しているのか?
そんなことはあり得ない。ベッドの中でじゃれあうことが愛し合っていると言うのは短絡的すぎる。

仕事の有利な情報を引き出すのか?
そんな姑息な真似は私のプライドが許さない。
私には私の越えたくない一線がある。



「この間のあの女性、フランクが好きなのね。熱い視線を送っていたわ、気付いてた?」
「・・・・・・」
「ねえ・・」
「妬いているのか、似合わないな・・・・・」
「まさか・・・あぁ・・」

フランクが彼女の唇をふさいだ。これ以上の言葉を続けさせないかのように。
僅かにスザンナの吐息が漏れた。



同じ仕事で拠点はニューヨーク。
調べなくても彼女の業績は耳に入る。
俺はスザンナと時々同じ時間を共有する。
それを知る人はない。



スザンナ・カーン
俺より3年前からこの世界を闊達に泳いでいる。
柔和な外見とはうらはらに仕事のできる女と評判だ。


各界への人脈があり、それを上手に使いながら確実な計画・指針を打ち出してくる。
温厚に見える人柄で人望も厚く、部下の能力を引き出すことに長けている。
合併吸収後の運営にもアドバイスを求めるクライアントがいるほどだ。

先を歩くスザンナに憧れがあったのか?
誘ったのは彼女だったのか、俺からだったか、そんなことは何の意味も成さない。
会うのは不定期、お互いの邪魔にならない時期を見抜くのも長けている。

時にベッドの中で重なることが「ラク」なだけ。
仕事への便宜を図ってもらうのか?
そんな幼稚な発想は俺のプライドが許さない。
俺には俺の誇りがあり、スタイルがある。



「君こそもっといい男を連れて歩けば。あれでは君ばかりに目がいくよ」
「あら、フランクこそ妬いてるの・・・まさかね」
「ああまさかだ」

飢えた獣のように、目の前にいるお互いを手当たり次第味わう。
その濃厚な時間は熱く、しばらくするとふたりだけの宇宙に放り出された。
フランクの身体が崩れ落ち、スザンナが腕の中で眠りに落ちようとするとき、
フランクがベッドから離れバスルームに歩き出した。




「もう行くの?」
「1時間後に約束がある」




「見事ですね、Mr.ロジャース。別々のハンターを同時に呼び出すとは」
態度も表情も変えることなくフランクは言った。
同じテーブルに座ったスザンナに一瞥も与えず、ロジャースを眼鏡の奥から射抜く。
「どうせ同じことを言わなくてはならないんだ、なら同時でいいだろう?」
「それはルール違反ではありませんか」
スザンナは事務的な口調で切り返す。
「そうかな。俺にはそうは思わないが。とにかくここを手放す気はない、いいな、これで話は終わりだ」

ロジャースは自分の言いたい事を言うと席を立った。

スザンナと彼女の秘書ベス、フランクとレオがテーブルに残された。


「ターゲットが同じホテルなんてね」
「・・・・」
「INVとしては、この件から手を引くつもりはないわ」
「こちらも」
「そう・・わかったわ。新進気鋭のレイダースさん。こちらも全力であたらせていただくわね」



フランクらが立ち去った後、ベスがスザンナに問いかけた。
「彼らのことを調べましょうか?」
「その必要はないわ、私達は目の前の仕事に集中すればいいのよ」



「ボス・・・・」
「調べろ、レオ。ロジャースの弱点を見つけるんだ。あのホテルは必ず押さえてやる」
「そうじゃなくてボス、組織力のあるあそこと事を構えるのか?」
「INVのことか、関係ない。あっちだって今頃そう言っているはずだ」




汗を滲ませた二つの体がベッドに横たわっていた。
ふたりは満足のため息をもらしながら歓びを分かち合った。
ささやき・・・けだるいキス・・・ 
まるでわだかまりをすっかり消し去ったかのように。


「今日、あなたが私の誘いに応じるとは思わなかったわ」
「今日、君が誘ってくるとも思わなかった」
「じゃあ、何故誘いに乗ったの?」
「多分、君と同じことを考えている」
「・・・・同じこと・・」
「決して手を引かないってことを伝えたいだけだ」
「・・・同じよ・・」





「見つけたぞ、ボス。ウィークポイントだ、いやアキレス腱だな」
「こっちもわかったぞ、巧妙な手口で不明金を作っている」
「なるほど、きっとそれが流れているんだな」
「流用先まで掴めたのか、レオ」
「ああ、俺に係れば“国税”も真っ青だよ」


レオの得意然とした顔に大きく頷くとフランクは言い放った。


「ということは、急げ、レオ。これはINVも気付いたと考えたほうがいい」




「まだ諦めていなかったのか」
ロジャースが苦々しい顔で立ち上がる。

アポも取らせてくれないロジャースに、フランクは強引に彼の前に進み出た。

「まぁ、これをご覧下さい。これを見てもまだそう言えますか」
レオが取り合おうとしないロジャースの手にファイルを握らせる。

ロジャースは二人を睨み付けるとバカにしたような顔で紙を捲りはじめた。
次第に、ロジャースの顔は青ざめ、崩れ落ちるように椅子に身を落とした。

「・・・・どこで手に入れた・・・誰が・・・・ここまで・・」

さっきまでの態度では考えられないロジャースの姿があった。

「今なら大金を手に出来る。これが司直の手に渡ったら、簡単には済まないだろうな」
「・・You can't be serious!」



「すべての書類を揃えてある。ここにサインを」
フランクが有無を言わせぬ口調でロジャースに迫る。

急遽呼び出された弁護士には口を挟む余地は残されてはいなかった。
書類に落ち度がないことを確かめると、ロジャースに頷いて部屋を去っていった。


抜け殻になったロジャースにレオがささやいた。
「May a good day come!」
濁った目がふたりを睨み付けていた。




廊下に出るとスザンナの声が響いてきた。
役員室フロアまで辿り着いたが、ロジャースの秘書と押し問答が繰り返されていた。
フランクはそんなスザンナを目の端に止めながら、エレベーターのボタンを押した。

スザンナはフランクが社長室から出てきたことに気付くと、言い争いをピタリと止めた。
秘書のベスは驚いてスザンナの顔を見、スザンナの視線の先を追う。

その先にフランクとレオを見つけすべてを悟ったように口をつぐんだ。





「都落ちよ、当然の人事だわ」
スザンナが乱暴にベッドに腰掛けながら言った。

しばらく窓から夜景を見つめていた。
足を組み直すとフランクをチラッと見上げる。

「フランク、少しは罪の意識を持ってくれるのかしら」
「罪? なんの? これが君の限界だとしても?」

「・・・言ってくれるわね。でも、すぐにでもここN.Yに戻ってくるわ。
 私にはそれだけの実力があるのよ」
「・・・・・・」

「その時、また会えるかしら」
「・・・・さあ・・」

「・・・どういうこと?」
「このN.Yで勝ち続けることと他で勝つことは、天と地ほど違うはずだ」
「・・・・」

「君とのゲーム、楽しかった」
「ゲームオーバーってとこかしら」
「ああ、たぶんな」

「・・・そう・・あなたには嘘をつく優しさがなかったわね」
フランクの目が氷のように突き刺した。
「俺がどんな男か知っているはずだ」


スザンナは氷の欠片を呑み込んだように冷え込んでいった。
さっきまで熱を持って温もりの持ったベッドまでが音を立て凍り付いていく。



******************



雪は眼鏡のレンズさえにも積もる
眼鏡を外し、かけ直す
さっき見た光景が溶けだし消えた
吹雪は幻想までを吹き付ける


ゲームを続けるには大きすぎるリスク
ハンターのふたりにはわかりきっている



================================================


2005/2/3UP

                              ご感想をこちらへ



冬のソナタ To the Future 2005 Copyright©. All Rights. Reserved
当サイトのコンテンツを無断で転載・掲載する事は禁じています