「Back and forth 〜フランク・シン In Manhattan〜F」
 
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ここはマンハッタン。



自信と実力は持ち得て当たり前、さらに過剰なほどの自己陶酔が必要な、一瞬たりとも気の抜けない世界。
ハイシーズンはほぼ満室。常時8割は埋まっている。
マンハッタンのホテルの部屋数は6万から7万室。
世界各国から旅行者が集まっているといっても過言ではない。



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― あいつ・・・・ フランク・シン ―

「ブレッド、なに見てるの? ・・・・だれ?知ってる人?」
視線の先を追ったダイアナがブレッドを見上げてささやいた。
「ハーバードで一緒だった」
「ふ〜ん。いい男ね」
― 彼は確かホテル専門のM&Aのはずだ・・と言うことは ―
「・・・・・・ねえ、私の話聞いてる?」
ブレッドはダイアナに優しく微笑みかけた。
「・・ああ、もちろん。お父さんのホテルの創立パーティのパートナーだろ。いいよ」
視線を戻すとフランクの姿はもうそこには無かった。



「レオ、先に帰るぞ」
「もう帰るのか?」
「顔と名前が一致したんだ、もうここにいる必要はない」
「じゃあ引き受けるんだな」
「ああ、気になる男がいるが・・・この仕事は受ける。連絡してくれ」
「気になる・・女。じゃなくて男か・・・」
フランクはレオの言葉を置き去りにして立ち去った。



ブロードウェイの真ん中に位置し、アットホームなサービスに定評のあるパパの誇りのホテル。
決してLランクではないけれど常にAランク。
そして、ママを孤独に追いやったのもこのホテル。
いつもここに来るたびに思う。私はこのホテルを憎んでるの?愛してるの?

「お嬢様、オーナーは少し出ていらっしゃいます。中にお入りになってプライベートルームでお待ちくださいとのことです」
「ありがとう」


「・・・これ以上、負債が膨らまないうちに手を打ってはいかがですか」
いつの間にか眠っていたダイアナが低い話し声に目を覚ました。
そっと執務室を覗いてみると、あの時の男ともうひとりの男がパパと話しをしていた。


「この金額ですと、負債を精算し、あなたの理想の家族的なホテルを簡単に手に入れることができますよ」
「もう少し考えさせてくれ」
「不渡りを出すのは目に見えています・・・・カーターコーポレーションにお願いするのも限度がありますよね。
 もっともお嬢様を抵当にっという手が残っているのでしょうが」
「レオ、失礼だぞ」
「いや、ボス。オーナー申し訳ない、つい下世話なことを申し上げて・・・・」
ダイアナの手が震え、押さえていたドアが開いた。3人が同時に振り返る。
「・・・・ダイアナ・・・」
「レオ失礼しよう」
「ああ、ボス」




「やあフランク」
「ブレッド・・偶然ではないようだな」
「ああ、君を待っていたんだ」
「・・・・・・」

「で、用件は」
「相変わらずだなフランク、そんなに時間が惜しいのか」
「そうだ、今も昔もね」
「勉強してるかアルバイトしてるか、いつも忙しそうにしている君しか記憶にないな」
「そんな話をするために俺を待っていたのか」
「どうせ調査済みだ、わかっているはずだろ・・・・あのホテルから手を引け」
フランクの冷たい視線とブレッドの力のこもった視線が火花を散らす。

フランクはふっと息をつき、ブレッドに顔を近づける。穏やかな口調は辛うじて保っていた。
「救世主の登場か?そこまであのホテルに入れあげるのは・・・ダイアナ、彼女のためか」
ブレッドの顔がさっと紅潮する。
「俺にはわからないな、女のためにそこまでする価値はあるのか」
睨んでいたブレッドの視線がフランクをすり抜けた。
「君には理解できないか、フランク」
フランクは普段感じることのない微かな狼狽を覚えた。



「ホテルを守るために?私をブレッドに・・・・」
私はパパの制止も聞かずホテルを飛び出していた。
ブレッドの優しさがすべて作り物のように思えてきた。

彼との楽しかったデートの思い出も、私に向けてくれた微笑も、音を立て崩れていく。
彼のくすぐるようなキスも、押さえられた欲望も私を大切に思ってくれるからと信じていたのに・・・



「ボス、あのオーナー、株の譲渡を承諾したぞ」
「・・・・・そのようだな」
「ん?何か気に掛かることでもあるのか?」
「いや、依頼主に渡すところまでが俺達の仕事だ。・・・それ以上は・・・・」
「ボス?」


すべての契約がスムーズに行われ、依頼主がオーナーの座に就任した。
ホテルは表面的には何の変化もなく、業務は着実に流れていく。



「案外早かったじゃないか・・・」
フランクが開けたドアの隙間から、一人するりと滑り込んできた。
「君は・・・」
「ダイアナよ、ホテルを手に入れたんでしょ。だったら私も一緒に手に入ったんじゃないの」
「なるほど・・・」
フランクは興味深けに眉を動かした。
「どうして欲しいんだ」
挑むような視線を投げかけていたダイアナの敵意は、みるみると萎んでいく。
心を奮い立たせ、精一杯の強がりを叩きつけようとした時、フランクの携帯電話が鳴った。

ダイアナは隣の部屋に消えるフランクを茫然と見つめていた。

「さあ、続けようか」
フランクの言葉にダイアナは深手を負ったように動けなくなった。
ダイアナをベッドに横たえ、フランクは視線を外さないままブラウスのボタンに指を掛ける。
上から1つ目 2つ目・・
堪らずダイアナは目を閉じた。
睫毛は涙で膨らんでいた。
フランクの手がブラウスから離れ顎に、そしてダイアナの唇をフランクの右手の親指がなぞる。
「目を開けてダイアナ」
ダイアナの視線を捉えたフランクの低音の声が響く。
「君の相手は俺じゃないだろ」

ドアを激しくノックする音はダイアナには聞こえていたのだろうか・・

フランクはダイアナをベッドに残しドアを開けた。

「ダイアナ!」

ダイアナの耳に懐かしい声が届いた。
フランクを突き飛ばしブレッドが部屋へ飛び込んできた。
ダイアナはボタンの外れたブラウスを前で合わせ、体を起こした。
ブレッドは振り返りフランクを睨みつけるが、フランクは真正面からその視線を受け止め返した。

「遅かったな」
「フランク、君には礼も言わないし、謝罪も受け付けないからな」
「ああ」

「ブレッド、連れて出て行ってくれないか。友人が来るんだ」

ブレッドはダイアナを腕に抱き、フランクの前を通り過ぎる。
ドア越しに振り返ったブレッドの瞳に感謝の色が宿っていた。
フランクの部屋のドア閉まると、ダイアナはブレッドの胸に崩れた。
ブレッドは彼女を強く抱きしめ、その唇に荒々しく惜しみなく欲望を癒した。

音を立てエレベーターが開いた。
何かに取り憑かれたように長いキス重ねている二人は、フランクの部屋に誰かが消えていったのにも気がつくことはなかった。


フランクは椅子に深く腰掛け、グラスにブランデーを注ぐ。
ドアがノックされた。
「ちょうどよかった、飲むかい」
「ええ、情熱的なキスを見てきたからのどがカラカラよ」
フランクの意思とは無関係な深いため息が漏れた。





「フランク・・偶然ではないようだな」
「ああ、君を待っていたんだ」
「・・・この前とは逆だな」
「どうやってあのホテルの株をあの依頼主から取り上げたんだ」
「フランク、知っていたのか」
「ああ」
「俺だって誠意や優しさだけでこの世界を生きてきたわけじゃない。
 ダイアナが知らなくてもいい世界も知っている。それを突きつけてやったまでさ。
 フランク、お前が買い取った金額そのままで譲り受けられたよ」
「やはりな・・・いつも陽気な雰囲気をまき散らかしながら常にトップの座を脅かしていた君だ、
 この世界で生き抜くことくらい身につけているか」
「フランク・・君がそれを確かめるだけに俺を待っていたとは思えないな」
フランクが書類ホルダーをブレッドに突きつけた。
「・・・結婚祝いだ、お前がオーナーのホテルの株を持っているのは性に合わないんだ」
「・・・・・・フランク」
「ブレッド、お前とはこれから先も関わりたくないな」
「俺もだ、フランク・・・・」



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風雪が吹き荒れる
窓ガラスはすべてのものを遮る
凍てつく寒さも、かじかむ指先も
思い出すことはない
だが、
心は寒さの質が違う



寄り添う姿が過ぎる
羨ましいのか
妬ましいのか
馬鹿げた妄想に頭を振り
苦笑いが・・・・・苦笑い?



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2004/12/16UP

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