「Back and forth 〜フランク・シン In Manhattan〜D」
 
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ここはマンハッタン。



自信と実力は持ち得て当たり前、さらに過剰なほどの自己陶酔が必要な、一瞬たりとも気の抜けない世界。
夢が叶うニューヨーク、ニューヨークでは夢は叶う。
誰がそう言ったのだろうか、いやそう思って、若者たちが人生を賭け、ニューヨークに辿り着く。
そして去っていく。
ニューヨーク・ニューヨーク、ビッグアップル。



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「 どこかで見た顔だな・・・・おい、お前・・・・」
パーティ会場でかなり飲みすぎと思われる男に後ろから肩を掴まれた。
フランクはさりげなく男の手を振り払いながら、わずかに目を細める。
この男・・・


「あなた、失礼よ。さあ、行きましょう」
横からすっと現れた女性が男の腕を取って歩き出した。


フランクの右の眉が微かに上がる。



「リンダ、まさか君がウィリアム・フリードマンの妻とはね」
「・・・フランク、驚いたわ。こんな所で会うなんて」



フランクはハイスクール卒業まで養父母の庇護のもとにあった。
進学に備えて勉強をするか、アルバイトに出るか、そんな生活に明け暮れていた。
ハイスクールでも周りとどこか一線を画す雰囲気を漂わせている。
そんなフランクが気軽に言葉を交わせる相手がリンダだった。
リンダに特別な感情を持っていたわけではない、
単に家が隣同士という気楽さがあったのかもしれない。



卒業前に行なわれるプロムを間際に控え、校内はいつもとちがう浮かれた空気が流れていた。
プロムは一人では参加できない。
男の子は女の子を誘ってOKされるかどうかハラハラし、
女の子はお目当ての男の子から誘われようと躍起になる。
無口で冷たい目のフランク、しかしあの端整な顔立ちの彼を女の子達が抛っておくはずもなく、
かなりのアプローチを受けていた。
しかし、彼はそれらを尽く断っていた。
プロムが近づいたある日、着ていくドレスの話で持ちきりの女の子達から外れて、
ひとり本を読んでいるリンダが目に留まった。
「リンダ、君は誰と行くんだ?」
「フランク・・・私のことを誘ってくれる男の子なんていないわ」
「・・・・・・僕と行くかい」


卒業したらこれっきり会うことがないだろうリンダの頬にお別れのキスをしようする。
ふいにリンダの唇がフランクの唇をとらえた。
リンダの大きく見開かれた瞳が潤んだのを見た次の瞬間、
フランクの唇が熱を持ち荒々しくリンダの唇をむさぼっていた。
リンダの唇が僅かに開く。
フランクは今まで経験のない甘い切ない危険な吐息を聞いた。
いつどうやってリンダのベッドまで辿り着いたのか、どんな風に服を脱いだのかさえ、
後になっても思い出せなかった。
リンダの堅い蕾を思わせる胸に触れたとき、フランクは自分の血が逆流するかのように感じた。
無言のままリンダに没頭するフランクにリンダが何か呟いた。
「・・・・・えっ・・・なに・・・・・・・」
「ねえ・・私・・・・・フランク・・私初めてなの・・・・」
「・・・・・・・僕もだ・・・」
フランクはリンダが震えているのか自分が震えているのかさえもわからなかった。
リンダがフランクの背中に爪をたてた、その途端フランクの体は崩れ落ちていった。



「変わったわね、フランク」
ホテルのバーのカウンターでフランクを見つめていたリンダが短いため息をついた。
「確かに前からあなたは冷たい目をしていたわ・・でも、今のあなたはあの頃とは違う。
 もっと冷え切った目をしているみたい・・」
「いや、何も変わらないよ」
「フランク、私にはわかるのよ」
絡み合った視線があの時のことを思い出させた。



***



「ア・タワー・インタナショナルホテルを手に入れていただきたいの」
事務所に飛び込んできた女はそう言った。
飛び込んできた・・そうではない。
アポイントを取り、こちらの顔見知りの紹介状を手にやってきたのだから。
にもかかわらず何故、「飛び込んできた」と感じるのだろうか。
真っ直ぐと射抜くような彼女の瞳の強さに「断らせないわ」と言う気迫、
そんなものをフランクは見て取った。
「ここ数年の経営状態は良好のホテルのようです。だからこそ、それを手放すとも思えませんが」
「そんなことは言われなくても承知していますわ、レオ弁護士。
 でもそれを可能にするのがあなたたち一流の役目ではないのかしら。
 お引き受けしていただけないなら、他に話を持っていくまでです」
彼女の言葉に、デスクに肘を付き手を組んでいたフランクが視線を上げる。
その瞳は先ほどとはちがう光を放っていた。
「わかりました、お引き受けしましょう。条件についてはレオから提示させます」



女が部屋から立ち去るとレオはフランクに言った。
「ボス、どうして引き受けたんだ」
「おもしろそうじゃないかレオ。ああ言うと俺が引かないことも計算に入っている。
 後で糸を引いている奴がいるはず、多分レオと俺のことを熟知しているやつだ。
 紹介者がエリックというのもひっかかる」
「なにもわざわざ・・」
「罠は逆手に取ればいい、何を心配しているんだ?」
口元にわずかな笑みをも湛えているフランクに、レオは目を瞑り言葉を発した。
「ふぅ。大した男だよ、ボス。」


「レオ、少なくとも、これは負けないゲームだと思う。
 それ以上におもしろいことがあるかも知れないな」
「退屈しのぎにやる仕事でもない気がするんだが・・ まあ、ボスがそう言うんなら」


「しかし、調査費先払い、必要経費は別途請求、買収後株の16%は成功報酬としていただく。
 この条件を提示しても引かないなんて、普通じゃないぜ。何かあるな」
レオはファイルにまとめられた資料をペラペラとめくった。
フランクは反対からページをめくり顔写真の付いたページを開き、指差しながら言った。
「レオ、ア・タワー・インタナショナルホテルの社長はウィリアム・フリードマン。
 依頼人ジョアンナは彼の前妻、
 で、今のあのホテルがあるのは彼女の経営能力と彼女の財産によるものが大きい」
「ウィリアム・フリードマン? あの1カ月前のパーティで会った無礼なやつか」
「ああ」
「まてよ、ボス。確か彼の後妻とは知り合いなんだろう?」
「依頼は依頼だ、きちっとやるさ」
「改めて思うよ、ボスを敵に廻すことだけはしたくないね」
レオの大きなため息を聞きながら、フランクはリンダの顔を思い描こうとした。
しかし、18歳のリンダばかりが思い浮かんだ。



フリードマンの持ち株は43%、妻のリンダが3% 市場に流れているのは残り54%
この間のパーティで見たフリードマンの泥酔状態からも彼を快く思っていない者も多いだろう。
ジョアンナの経営手腕に一目置いたからこそホテルの株を買った者は?と、丹念に調べ上げていった。
フランクとレオは確実にこれを手に入れていく。
ア・タワー・インタナショナルホテルの買収は予定よりも順調に進んだ。
しかし、期日の株主総会にあと3日と迫ったところで、
買い付けは全体の42パーセントで全く動かない状況になった。
さすがのフリードマンも自社の株価がおかしいうごきをしていることに気付いたのだろう。
古くからの腹心の株主に頼み込むくらいの手は打ったかもしれない。
それにしても...


「レオ、このまま続けていてくれ。株主総会までには戻る」
レオは「どうするんだ」という言葉を呑み込んだ。


株主総会の当日の朝、フランクが事務所に顔を見せるとレオが唸った。
「ボス、あと4時間だ。勝算はあるのか?」
「レオ、俺は負ける勝負はしない。これが6%の信任状だ」
レオはフランクの顔も見ず、その手から書類をひったくると書類の最終仕上げに取り掛かった。
それはものの10分で出来上がった。
「相変わらず手際がいいな、レオ」
「数字さえ入れたらいいようにしてあったのさ」
「さあ、決戦だ」



「こんなことになるとは・・な・・」
スコッチをグラスに満たしながらレオがさっきから同じ言葉を繰り返していた。
「ボス、何処まで知っていたんだ? 俺は女が怖くなったよ」
「42%まではわからなかったさ・・・・」
電話の呼び出し音がフランクの言葉を遮った。
「ボスにだ」



ア・タワー・インタナショナルホテルはいつもと変わらず優雅な雰囲気に溢れていた。
このホテルを手に入れた者たちが最上階の夜景にグラスを傾けていた。
フランクが無言のままその横に座ると、夜景からゆっくりと目を離しフランクを捉えた。
「いつから気付いていたの?」
ジョアンナが華やかな声を上げた。
「あなたがエリックの紹介状を持って来たときから。そして42%で止まったとき確信した」
「さすがね、やっぱりあなたはエリックより1枚も2枚も上手ね」


残り12%のうち4%はあのフリードマンの身内が持っていて絶対に首を縦に振らなかった。
いくら探してもあと8%の持ち主の存在は皆目つかめなかった。


「迷ったら初めに戻る。鉄則さ」
「そこで、私が株を持ってることに気付いたのね」
「フリードマンを陥れることと、俺を嵌めること。エリックは欲張りすぎだ・・・・・」
フランクはここで言葉を切りグラスに口を付けた。
「・・でも騙されたな・・・」
さっきから一言も発しなかったリンダが声を上げて笑った。
「レイダースと言われるフランク・シンも最後の一撃は考えもしなかった・・のね」


株主総会で臨時決議が提案され、フリードマンの社長解任が要求された。
フリードマンは自分持ち株43%と妻リンダの3%、そして身内の4%を盾に激しく抵抗した。
その時、リンダがおもむろに立ち上がり、つかつかとレオに歩み寄り手にした信任状を渡した。
「ここに私の持ち株3パーセントを売却する書類があります。レオ弁護士にお渡しします」
それはあっけない幕切れだった。
フリードマンの解任は了承され、社長人事は株主へと委ねられた。


「リンダ、君があの場に登場するとは正直思っていなかった」
「フランク、あなたが変わったように私も変わったの」
リンダの表情には何かを吹っ切った印象があった。
リンダはフランクを覗き込むように言う。
「ところでフランク、どうやってジョアンナを陥落させたの。知りたいわ」
リンダの声にあの危険な吐息を含んだ声色が加わった。
「ジョアンナが言ったわ」彼女を見ながらリンダは続けた。
「経営者としての自信、女としての自信が甦ったわ、って」
ジョアンナが立ち上がる時、彼女の手がフランクの手に重なった。
「お先に失礼するわ、フランク。リンダまたね、ごゆっくり」
ジョアンナはリンダに囁いた。
「リンダ。Mr.シンは恩人であり、うちのホテルの株主よ。あとはよろしく頼むわ」
ジョアンナは優雅に身を翻すと、微風を起こしながら立ち去った。



リンダが微かに身震いをする。
それはあの時とは違う期待に満ちたものだった。
部屋のドアが閉められるとフランクに抱きすくめられた。
彼の瞳に熱いものを見た気がした。
フランクの優しく挑発的なキスに、リンダは奔放に応えた。
リンダはフランクの唇から開放されると、慈しむかのように彼のワイシャツのボタンをひとつずつ外していった。
フランクの手はうなじから背中にまわされリンダのドレスのファスナーを引き下げた。
ドアの前でお互いの衣服をはぎ取り、そして共にベッドに倒れ込んだ。
フランクは思い出していた、「そう、あの時もそうだったんだ」
リンダのクスクス笑う唇を熱い唇でふさいだ。
「ねえ 思い出したん・・・・・・・」彼女の声が次第にかすれ、
いつしか我を忘れねだるようなあえぎ声をもらした。

「フランク・・・・フランク・・・・フランク・・・・」
リンダの切羽詰まった声を無視するようにフランクはリンダをさらなる高みに押し上げた。
声まで失ったリンダがフランクの背中に爪を立てたとき、フランクの自制の糸も切れた。
あの時のような情熱に後押しされて上りつめ、ふたりは官能の海を漂っていた。


上着に手を通し身支度を終えたフランクがベッドに横たわるリンダに屈み込み声を掛ける。
「リンダ、素敵だったよ」
フランクの瞳に熱いものを見つけようとしたリンダが見たものは、
誰をも寄せ付けないこおった瞳だった。
フランクはリンダの額にキスをし、ドアを閉めた。
リンダもフランクの思い出のドアを閉めることにした。



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しっかりとした冬靴に履き替え凍てつく道に踏み出す
体が覚えている、踏みしめる強さを
自分の意志だけでは太刀打ちできない自然の恐さを
春の日差しを微かに感じながら
雪に身をさらす
春の嵐なのか、寒の戻りなのか



ここに身を置くものの定めなのか
いまだ、いまだ
この声に自分の選んだ人生を賭ける
存在する唯一の場所
そうであることをひたすら信じて

―神に許しを請う―



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2004/10/18UP

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