「Back and forth 〜フランク・シン In Manhattan〜 B」
 
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ここはマンハッタン。

自信と実力は持ち得て当たり前、さらに過剰なほどの自己陶酔が必要な、一瞬たりとも気の抜けない世界。
ニューヨークは道路の多い街である南北にアベニュー交叉してストリート
ここの住人ニューヨーカーを見分けるには簡単である、なぜなら信号にも立ち止まらない人を見付けたらいい。



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「サインを・・・」
フランクの穏やかな口調は変わらない。
正面に座る男は低く呻くように口汚く罵った。
「抵抗できる状態ではないことはあなたが一番ご存じですよね」
レオの事務的なよく通る声が彼の言葉を遮った。
「こんなことが罷り通ると思っているのか悪党ども」
真っ青な顔をし、震える手をきつく握りしめ自分の子どもより若いハンターの顔を睨み付けていた。
百戦錬磨でこの城を守り抜いていた男が、大きなため息と共にただの老人になった。
「・・・・わかった、どこにサインをするんだ・・・」


フランクとレオが立ち去ろうとドアノブに手を掛けた時、背後でカチャという微かな金属音がした。
その金属音は、聞き覚えのある、拳銃の安全装置をはずす音。
フランクとレオがハッとして顔を見合わせ、ゆっくり振り返る。
男は、高層ビルのニューヨークにあっても空を見ることのできるガラスを背に、護身用の拳銃を手にしていた。
鈍く輝く銃口が向けられる。レオがごくりと唾を飲み込んだ。
どのくらいの時間が流れただろうか・・いやそれは僅かな時間。
発射音がした。
「・・・・・」
ものすごい音を立て壁にあった鏡が粉々に砕け散った。
男は自嘲気味に口を開いた。
「気にするな・・・何もかも元に戻っただけだ・・今まで自分を打ち抜いたのさ」



フランクの口の中の苦さはドライマティーニを何杯流し込んでも消えなかった。
何杯目かのスコッチのグラスを手に沈黙を守っていたレオが話しかける。
「・・・こんなことは覚悟の上だろう、誰かが勝つと誰かが負ける、俺達のやったことは別に犯罪でも何でもない。ボス・・・」
「黙ってくれないかレオ」
「しかしボス・・」
「黙れと言ってるんだ!・・・・・・・」

「・・・・・・・すまないレオ・・」

レオはフランクから目を逸らすとU字型になったカウンターの向こうでこちらを見ている女に気付いた。
「ケイトだろ?そうだケイトだ。何処に雲隠れしてたんだ?」
レオが勢いよく振り返る
「ボス覚えてるよな?ケイトだよ」
フランクが物思わし顔をケイトに向けた。
「ああ、覚えてるさ 忘れるわけがないよ、君のその燃え立つような髪を」
「うれしいわフランク」
ケイトはフランクに近づき肩に手を回し、軽く唇にキスをした。
「こっちはエマよ」
「ヒュー すごい美人じゃないか、ラテン系かい?」

程良く日焼けした肌と黒い髪、そして落ち着きのあるグレーの瞳
エキゾチックな顔立ちの女がフランクの隣に座った。
エマは、レオに問われるまま、ラテン系の明るさでここに来る経緯を愉快に話していた。

毎日が同じ繰り返しの平凡でつまらない人生を方向転換しようと思い立ったこと
5年間勤めていた教師を辞め、南米ペルーからウィリアムズバーグまでやってきたこと
そこでMBAを取得し、粘りに粘ってニューヨークの採用通知を手にし、今朝マンハッタンに着いたばかりのこと

エマの言葉を聞いているのか、いないのか。フランクの表情からは全く窺い知ることはできなかった。

「エマ、フランクはこの生き馬の目を抜くニューヨークで成功を手に入れたのよ
 エマは、たぶん、少し前のあなたと同じよ。フランク」
エマのグレーの瞳がフランクを捉えた。


「フランク、まだあそこに住んでるの?」
「いや、月が下に見えるアパートメントに越したよ」
「・・・お金持ちになったのね」
「いや、最上階じゃないよ」


レオがケイトの腕を引っ張って立ち上がった。
「ボス、次の仕事の連絡を待ってるよ」
「あなたが誘ってくれなくて残念だわ」
ケイトはフランクとエマにキスをしてレオに腕を絡ませ席を立った。
レオの他を憚らない声が聞こえくる。
「ケイト、きれいだよ。その髪好きだよ、ケイト・・」
ケイトの笑い声が他の客の話し声に溶けていった。


グラスを手にしたフランクとエマの視線が絡まった。
「もうそのくらいにしたら」
「・・・お酒以外で楽しませてくれるのかい、エマ」
フランクの指がエマの頬をなぞった。エマはただ見つめていた。
次の瞬間、フランクは荒々しく彼女を抱きすくめ、唇をむさぼっていた。
激しいキスにエマは身を震わせる。
フランクの腕の中でエマが微かにうめき声をもらした。
「・・・行こう・・」

アパートメントのドアを閉めるなり、フランクはエマを飢えたように求めてきた。
「・・フランク、ちょっと待って・・」
「・・・・・・」
エマのブラウスを剥ぎ取ると無造作にほうり投げた。
フランクは身をかがめ、エマの胸のふくらみに顔を埋めた。
慣れた手つきでブラジャーのホックを外すと胸の頂から唇を這わせた。
エマは手を伸ばし、フランクの髪をさするように撫でていた。
意外なほどのフランクの堅い筋肉を体で感じ、エマは思わず体をのけぞらせた。
フランクはゆっくりと胸から腹部へ愛撫の手を進める。
フランクの体の動きは容赦なかった。
ひたすら集中しているフランクの表情には感情のかけらも見られない。
フランクの抑制された態度にエマは戸惑いを覚えた。
しかしその感情も計算し尽くしたキスと愛撫でエマを呆気なく頂点に突き上げていった。

素っ気なくエマから体を離し俯せになったフランクに、エマは反感を覚えた。
「・・フランク」
静かな寝息が聞こえた。エマは肩を竦めると呟いた。
「飲み過ぎたのよ」
ノロノロと起きあがり脱ぎ散らかされた洋服を探した。
何かに引っかかったブラウスを拾い上げようとして、屑入れをひっくり返してしまった。
「んん、もう・・」



屑入れを戻そうとしたとき、捨てられていた1枚の美しいカードに気付いた。
エマはカードを手に、ベッドに眠るフランクから視線を外すことができなかった。



「エマよ 開けて」
フランクがドアを開けると、シャンパンを胸に抱いたエマが立っていた。
「ハッピーバースデー フランク」
「どうして知ってるんだ」
「そんなこといいじゃない、フランクおめでとう」

無言のままシャンパンの栓を抜き、グラスを満たした。

エマがグラスを掲げたとき、思いがけないものを見た。
フランクの瞳が言いしれぬ暗さ、冷たさに覆われている。
エマは思わず後ずさりをした


ベッドで煙草を吸っていたフランクの背中を、エマが抱きしめた。
「あなたって・・かわいそうな人ね。」
フランクは指の関節が白くなるほど握りしめながら立ち上がり、机から紙幣を取り出しエマに叩きつけた。
「出て行ってくれ」
エマの顔が引きつった。
「私はその辺の娼婦じゃないわ!・・バカにしないで!」

バックを手に立ち去ろうとしたエマだが、引き返してきた。
「・・・・これを見たのよ・・誕生日をひとりで過ごすなんてやりきれないわ、フランク」
冷たい一瞥を浴びながらエマは続けた。
「今日でいくつになるか知らないけれど・・フランク・・・あなたと過ごせてよかったわ」



Dear フランク
お誕生日おめでとう
神のご加護の元に あなたの頭上に幸多からんことを

追伸 今年はどんな誕生日を過ごしていますか?
いつでも本当の子供のように思っています。たまには元気な姿を見せに来てください。


フランクはカードから視線をそらした。



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真冬の凍てつく道をあてもなく歩く
かじかむ指先に息を吹きかけ、やがてその暖かな息が悪魔のように凍り付かせることを知りつつ
喩えようのないもどかしさ
立ち止まることは死をも意味する
フランクの心は氷を抱えたようだ。



エマの優しさがフランクにはわからない
母の温もりを遠い彼方に置き去りにしてきたフランク
それを愛と感じさせるにはエマには難しく、フランクには悲しすぎる。



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