「Back and forth 〜フランク・シン In Manhattan〜 @」
 
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ここはマンハッタン。

自信と実力は持ち得て当たり前、さらに過剰なほどの自己陶酔が必要な、一瞬たりとも気の抜けない世界。
フランク・シンがヨウコを初めて見た時、言いしれぬ郷愁を感じたのはほんの一瞬に過ぎなかった。
ヨウコの奔放さは、ここマンハッタンは本当に似合っている。
はっきりとした物言い、立ち振る舞いは、ハーバードの人間“そのもの”だ。
自分をいかに他とは違うと主張出来るか、しかも実力の伴わない者は、ここの人間にはすぐ底が割れる。
他所で生きるなら、単にハーバード出身ということだけで幅を利かせることが出来る。
しかし、彼らはそんな逃げは、よしとしない。



ここで生き抜くための術をヨウコはヨウコなりに嗅ぎ分け、泳ぎ切っていた。
それは,フランクとて同じ事。
お互いに同種の匂いを感じ、彼らが寄り添うのは自然なことだった。



***************ヨウコ**************



私が男とベッドを共にするのは愛情からじゃない。そう、好奇心の方が強かった。
あなたはどんな男なの?
はじめは後腐れのないボーイフレンドのひとりで始まった。「フランク・シン」



私があなたの部屋に足を踏み入れた時、無機質なものを感じた。
そのおもいはベッドの中でも同じ。あなたは私の身体に溺れるわけでもなく、いつも寸前の縁でとどまる。
私も負けたくはなかった。快楽に溺れることなく自分を保とうと必死なる。
この戦いの駆け引きが心地いい。
あなたのとぎれがちな声を聞きながら信じられないほどの快感が波となって押し寄せ、
自分のことしか考えられない。あなたが身を震わせたのも意識になかった
昇りつめた時、あなたの端正な顔が微かにゆがむ。その時はじめて一体感を感じることができた。



あなたの部屋で、いつものように、私はあなたの首に手を回し唇を重ねる。
胸をまさぐったあなたの手の冷たさに、思わず息を呑む。
その時、私の目に飛び込んできたのが机に置かれたサリンジャーのペーパーバック。
私は弾かれたように笑い声を上げた。
真顔で見つめ返すあなたに、私の笑い声はさらに大きくなる。
「ヨウコ、何が可笑しい?」
「フランク、あなたも人間なのね。」
そう思えた瞬間、とても・・あなたを愛おしく感じた。
あなたは肩を竦めながらも愛撫の手を休めない。



いつもなら、あなたの汗ばんだ背中にキスをし、手早く身支度を整え、ドアを閉める。
ベッドを抜け出した時点で、もうほかの事を考え始める。これが私の男との付き合い方。
でも、この日から、私はあなたの温もりから体を離すことが出来なくなった。
そう、私から先にベッドを降りることはできない。



「フランク、しばらくあなたのガールフレンドは私だけにしてくれない?」
「あぁ。」
あなたは振り返りもしないで答えた。
私の提案をあなたが受け入れたのは、私を愛しているからじゃない事くらい分かっていた。
だから、私はあなたに何も求めなかった。
フランク、あなたがどこで何をしようと最後は私の元にさえ戻ってきてくれさえすれば、それで満足だった。
そして、あなたも私を束縛しようとはしなかった。



あなたの冷たい背中、凍った瞳を感じるたびに、反比例するように私は熱くなっていく。
次第に、あなたが私の元に来る事だけを待つようになってしまった。
あなたには重かったのかしら。
あなたが私を愛してないことを理解していても、あなたの心を私に向かわせたかった。
私は、どんどん愚かになっていった。
あらゆることを試みた、ある時は妊娠を装ってまで・・



フランク、あなたから別れを切り出された時、私には予感があった。覚悟はしていた。
でも、理性ではない感情がそれを許さなかった。
あれほど男との修羅場をくぐり抜けてきたはずの私なのに。
莫迦みたいに、泣いてすがって・・ もう、あんな事、二度としない。
・・・二度とできない、が正しいかしら。




***************フランク**************



逢いたい時に逢い、求めたい時に求め合う。
いつの間にかできたそんな関係を、僕は結構気に入っていた。
ヨウコとの体の関係は、まるでスポーツ、ある意味ゲームでの駆け引きにも似ていた。
欲望にたきつけられて大胆になり、手と唇を巧みに用いてヨウコの望む境地へと導く、
ヨウコの頬が紅潮し小刻みに震え、動きが止まり、雷鳴のとどろくような興奮の渦の中落ちていった時、
君を征服した実感が得られた。



ヨウコが僕の部屋に訪ねて来るようになった。
モノクロだった世界に一色加わるような雰囲気の変化を新鮮に感じた。
そして、なによりヨウコの体は温かい。



いつものように、乳房を包み込むように手を伸ばし、ヨウコをのけぞらせ、弓なりになった喉に唇を押し当てたとき、
君は急に笑い出した。
「ヨウコ、何が可笑しい?」
「フランク、あなたも人間ね。」
ヨウコの視線の先には、サリンジャーのペーパーバック。
あの時はじめて、君に僕の私生活を覗かれた気がした。
ヨウコの感じやすい背筋を撫で、ヨウコが歓喜に震えながら笑い続けた。
いつもならさっとベッドから去っていく君が、いつまでも僕の腕に頭を乗せているようになった。



「ヨウコ、しばらくボーイフレンドは僕だけにしてくれないか」
僕は自分でも予想外の言葉を発していた。
ヨウコ、君を喜ばせたかったのか、君を独占したくなったのか、今でもよく分からない。
君が僕を愛しはじめていることは伝わってきていた。
僕の野心や野望の荒んだ心を癒すのは、この時ヨウコだけだった。
だからといってこの時ヨウコを愛していたのか、いや、分からない。



僕がどこで何をしようとヨウコの元にさえ戻ればヨウコは満足なはずだった。
ヨウコは僕を束縛しようとはしなかった。
しかしいつからだろうか、
僕の来ることだけを待ち続けているヨウコを見るたび、僕は冷えていく。
ベッドに君を引きずり込み自分の欲望だけを満たしてしまう
そして僕を引き留めるあらゆること、愚かなことを試みるヨウコがいた。



そんなヨウコの姿は物悲しく、颯爽とウオール街を歩くヨウコには程遠かった。
ヨウコ、君は僕と関わらなければ、君でいられたのではないか。
僕は別れを切り出した。
ヨウコもその時が来るのをわかっているようだった。
意外だった、あっさりと「じゃあね・・・」と身を翻して去るものと思っていた。
あのプライドの高いヨウコが泣きじゃくっていた。
僕が涙に心を動かされないことは誰よりもヨウコ、君が知っているはずじゃないのか。
僕はどこかで聞いたことのあるような陳腐な別れの言葉を繰り返した。
君の耳に入っていただろうか・・



「君を愛してくれる人を探してくれ。
 ヨウコ、君はもっと相応しい人と出会えるよ」



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フランクの心に近付くのは、真冬の凍て付いた道を夏靴で歩くようなものかもしれない。
立っていることさえ困難で、ましてや突風が吹くと進むべき方向から押しやられてしまう
自分の意志だけではどうにもならないもどかしさ。
フランクの心は常に閉ざされていて誰も立ち入ることができなかった。



夏の太陽のような眩しさにフランクは慣れてはいなかった。
フランクがヨウコの愛情を理解するには巡り会う時期が早すぎ、
そしてヨウコは性急すぎ、幼すぎた。


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