'08 Happy Birthday!!
覚めた夢



朝と呼ぶには早すぎる午前4時、街はまだ眠りから覚めてはいない。


俺は「おはようございます、お帰りなさい」と声を掛ける入管を足早に通り抜けた。
ー 気が急く・・・・とはこういうことを差すんだろうな ーと、分析をしている自分に思わず苦笑し、長時間のフライトで強張った身体と張り詰めた気持ちが、僅かに緩んでいくのを感じた。




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ーあとわずかー
その気の弛みが事故を引き起こしたのだろう、誰のせいでもない。
運転はするなと強く言われていたんだ、でも16歳から自分で車を動かしていた僕には誰かが運転する車に乗るのはまどろっこしかった。
確かにここは車幅も狭くスピードも出しにくい、でもまさか自爆事故を引き起こすなんて考えてもいなかった。
遠くから救急車の音が聞こえる、あっちとこっちじゃサイレンの音も違うんだな。そんなことを消えゆく意識の中で思っていた。


ピピピピピ・・・・・・・・・・


覚醒する意識の中に機械音が木霊する。
「気が付かれましたか」柔らかな声が聞こえた。
「・・・・え・・え」
声が喉に張り付いたように引きつった。
自分の声に驚き目を開け、やけに白い天井が目に入った。
「目立った外傷はありませんよ、眠ったままだったので声が出にくくなってるだけですよ」
「・・・ど・のくらい・・・眠ってたん・・ですか・・」
「ほぼ48時間、2日間。あなたが目覚めるのを待ってた人を入ってもらいますね」



ー待ってた人・・・まさか・・ー
そんなことはあり得ない、あんなひどいことを云って僕は突き飛ばしたんだ。
本当なら僕が突き飛ばしたって転ぶことがないほど鍛えているあの人が、あっけなく蹌踉けたんだ。



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「ほっといてくれ!!何でここまで追ってくるんだ」
「ほっとけないからだ」
「自分のことなら嫌というほど判ってる、ほっといてくれ」
「・・・判ってないからだ、お前は自分のことなんかちっとも判っていない」
「・・・・・・」
「そうだろう」
「ンッ・・な、はずは・・・・・・・・・」



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遅れる台本と天候待ちの撮影、暑さと寒さと苛立ち、度重なるアクシデント、かってないほどの撮影期間。
それらをすべて抱え込むようにあの人に災難は降っていた。
期間が長引けば長引くほど、完璧を目指せば目指すほど、予算はオーバーし撮影終了後から恐ろしいほどのスケジュールが組まれていた。



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あの時、本当なら仁川空港から病院に直行し、手術を受ける手配になっていたはずだった。
でもあの人が仁川空港から向かったのはN.Yだった。

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あと少しあと少し・・・と、決して人前では痛みも辛さも見せはしなかったあの人の強さに僕はいつしか惹かれていた。

「何でそんなに頑張れるの」
僕は痛みに耐えるようにベットに蹲るあの人に思わずそう言った。
「・・・・待っていてくれる人がいるから・・・」
「待っている?」
「そうだよ、俺を・・いや俺という俳優を待ってくれる人達だよ」
「あなたが家族と呼んでる人達のこと」
「  ・・そう・・・んんっ・・・」
苦しそうに大きく息を吐き出した。
「苦しい?」
「・・ん・・」
「・・・やっと云ってくれたね苦しいって・・・・」
「・・ん・・・何でかな・・・」

僕はあの人の手を取り、出来る限りの支えになろうと密かに誓った。

最大のイベントが終わり、息付く暇もなく過密なスケジュールは進んでいった。休養と称されるときも気を抜くこともせず傍で見ている僕の方が草臥れていた。

「疲れたのか」
「あなたはよく平気だね」
「まあね、何にもない方が怖いからな」
「こわい?」
「その内お前にもわかるさ」


内々と称されたあの人主催のスポンサーや関係者を交えたパーティが過密スケジュールの中行われ、にこやかに微笑むあの人、その姿に僕は驚きを隠せなかった。
だってさっきまで・・・・・・・・・。



意味ありげなで、物珍しいものを見るような視線。
そんなものに晒されていたことに僕は気づかなかった。

ー君は確か彼と一緒に出てた人だねー
ー彼といると自分も売れてるって錯覚するかねー
ーずっと傍にいるって聞いたけど・・・・ー
ー彼のおこぼれに与ろう・・・・・ー
ー・・・・・・・・・ー


・・・・・・ここに居ちゃダメだ、僕もいや、あの人を壊してしまう・・・・・



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「判っているなら逃げるように帰るな」
「何にも判っていないくせに・・・・・」
「俺が判っていないって云うのか」
「・・・そうだよ、あんな・・・・あんな・・・屈辱はな・・・い」
「そんなことが屈辱だったら、この世界では生きられないぞ」
「・・・ああ・・・ああ、構わない。そして僕に・・・構うな」
「おい!」
「僕に触るな!!」


僕の右手はあの人の右肩を突き飛ばしていた。

「・・・・つツッゥ・・・」
「あぁ!」


明くる日あの人がL.Aに行ったことを知らされた。
あの人を突き飛ばした右手がピクンと疼いた。



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「運転をさせちゃダメだって云われてるんだ」
「子どもじゃないんだぞ」
「こっちの道路はアメリカと違うから危ないんだ」
「いいじゃないか、慣れなきゃ僕だって困るよ、ね、ねいいだろう」
「気を付けてくださいよ、内緒ですよ。俺が叱られますよ」
「大丈夫だよ、君のせいなんかにしないよ」

ー僕が強請ったんだ。ー
ー彼まさか叱られてなんかいないよね。ー


「命が縮んだ」
立ち尽くしたままあの人が呟いた。
「・・・ごめん・・」
射るような視線からそっと目を外したとき、頬に冷たいものが落ちた。
あの人の泪だった。

「ごめんなさい・・ごめんなさい・・・」
僕の中に死への恐怖が立ち上がった。



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街が目覚め、動き出した。
何事もなかったように1日が始まった。

俺はこいつの横に腰掛け、穏やかな寝息に誘われるような眠気に吸い込まれそうになりながら考えた。
ー明日にでも右肩を手術しよう、きっとずっと傍にいるだろうこいつに云ってやろう・・・・・
俺が監督をやるときには主演を張れるように・・・・って、頑張れお前、頑張れ俺ー



俺の夢が眠りから覚め、確かな未来に動き出した。






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