To the future ―青年の樹―  3


「ノラ・・・と会ったのかミンソン」
緩めたネクタイをユジンに手渡しジュンサンはソファに深く腰掛けた。
「コーヒーを煎れてきますね」
ユジンがそっと離れようとした。ジュンサンの手がユジンの腕を掴んだ。
「ここにいて・・・・・・・ああ・・ユジンやっぱりコーヒーを頼むよ」

ユジンが静かにドアを閉めた。



ノラを恋人と呼ぶとしたらイ・ミニョンには何人そんな存在の人が居たろうな。
ジュンサンの頬に自嘲的な笑みが浮かんだ。

イ・ミニョンの頃の僕は大した自信家だったよ。どんな女性もその気にさえなればものに出来ると思っていたし、現にそうだった。
ん?ミンソン幻滅した?いや、応えなくてもいいよ。


僕が父と母の元を離れることを母は異常に嫌がった。
それは単に僕が交通事故にあって言語中枢が多少不自由していたからだろうと思っていた。
でも、僕は敢えて同じ年の人達が大勢集まるところで克服しようと考えていた。もちろんアン先生がそれを後押ししてくれたんだけどね。

大学生活の中で僕は瞬く間にことばの障害を取り除いていた。もちろん当たり前だよね、ずっとハングルだけで過ごしていたのに言ってみれば突然違う言語の世界に放り出されたんだから。

イ・ミニョンの僕はジュンサンとは違う、明るく誰にでも親しまれる性格になっていた。
そんな時ノラと会ったんだ。
彼女は男たちが多い教室で輝いていた。きっと今でもそうだろうな。

僕がデートに誘い、ステデイな関係になるのはそんなに時間は掛からなかった。



「ねえミニョン、前期試験の木造2階建住宅設計は終わったの」
「あぁ、あとは提出するだけだ」
「さすがね・・・・・・・・」
「なに?行き詰まってるの」
「多少ね・・・・きっと盛り込みすぎなのはわかってるんだけど」
「そこにあるよ、見てもいいよ。僕はシャワーを浴びてるから」



ーミニョン、教授が探していたよー



教授室から転がり出るとアパートに飛び込んだ。
綺麗に片づけられた机上には消し屑ひとつ上がってはいない。
呼吸が荒く心臓がバクバクしているのがわかった。
ー落ち着け落ち着けー
ミニョンは深く呼吸をし、そっと斜めになった設計台を持ち上げた。


「イ・ミニョン、君の提出した設計図は見事なものだよ。だが、矩計図の1枚がないというのはどうかな・・・・・・・」


前期の試験は教授の計らいで乗り切ることが出来た。
しかし、同時に行われていた「木造2階建住宅設計」優秀作品にはノミネートはされなかった。



ドアが静かに開いた。

「・・・・・・・それって・・・・」
「僕の確認不足だよ・・・・・・・・・・」
コーヒーカップを手にジュンサンは目を瞑った。

ユジンのカップがソーサーにカチンと触れた。

ゆっくりと目を開けたジュンサンが微笑んだ。
「もう昔の話しだよミンソン」
「ええ、でもローレス夫人には昔のことじゃないようでした」

ジュンサンはユジンをじっと見つめた。

「怒りを言葉で攻撃することはあの頃の僕には平気だった。そのせいでその人が傷つくなんて思いもしなかったから・・・」

ユジンの手がジュンサンに伸びしっかりと重なった。
ミンソンはマンションの窓から闇に零れるような光を見ていた。



ミンソンの口がゆっくりと開いた。
「・・・・・お父さん僕にはローレス夫人、ノラさんを救ってやることは出来ません」
「当たり前だ、イ・ミニョンは僕だからね」
「・・・・・・・・・・・・・出過ぎたことを言ったようですね」
「いいや、でもありがとうミンソン。きっと近いうちノラと会うよ」




ミンソンはハンドルを握りながらジュンサンとの会話を思い返していた。
ジュンサンの自嘲的な笑いを今夜何度目にしたのだろう。
ミンソンは何かいけない部分に切り込んだ気がしていた。

しかしあの時のローレス夫人の取り乱し方は、イ・ミニョンとただならぬ関係を物語っているようだった。
それも杞憂に終わったのかとホッとしてはいたものの、どこかがカチッとかみ合わないもどかしさがあった。




夢の中で何かがけたたましく音を立てていた。
ベットから手が伸び目覚ましをつかんで枕の中に押し込んだ、それでも音は鳴りやまない。
何度も寝返りうち明け方に眠りについたミンソンの意識は朦朧としていた。
その音が携帯の呼び出し音と気がついたときには部屋には静寂が戻っていた。

「あっ!!」
ベットから転がるようにミンソンは飛び起きた。
1度の呼び出し音で声が聞こえた。
「ごめん、寝坊しちゃった。すぐ行くよ」
『・・・おはようミンソンさん・・・・・』





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