To the future ―青年の樹―  1


「素晴らしい庭ですね」
「そうだろうミンソン、この家と自然の調和を感じて欲しかったんだ。これからの時代はますますそれが求められるんだよ」
「先輩、僕なんかお邪魔して良かったんですか」
「何言ってるんだ、教授が連れてこいって言ったんだ。ミンソンお前ローレス教授と知り合いか」
ミンソンはいいやと頭を振った。


ローレス教授がゼミの学生を集め自宅でパーティをするのは、学部では知らないものはいなかった。
卒業生も多く参加し、教授推薦で超一流な企業に入社することも珍しくなかった。
そんな意味で、ローレス教授のゼミは希望者も多く学部内のゼミ入室試験は熾烈な競争だった。


ミンソンはローレス教授のゼミ希望を提出していたが、ゼミ学生でもないのに招待されたこと事態不思議なことだった。
同じ寮で院生のゴンザスが教授の申し出を伝えたとき、ミンソンは「間違いじゃないの」と聞き返しさえした。

「いやミンソン、間違いじゃないと思うよ。いつだったか構内で俺がお前に声を掛けたことがあっただろう、あの時教授と一緒だったのを覚えているか。あの後、教授は ー彼は誰ー って聞いたんだ。俺はお前がゼミに入りたがってるのを知ってたから韓国から来ているカン・ミンソンと話したんだ。で、今回あの時の学生も連れてきなさいってさ。お前は優秀だからね、他の教授たちだってお前を欲しがってる話だぞ」


カラリと晴れ上がった5月だった。


「あぁミンソン言い忘れていた教授の奥さんもここの大学の出身者で建築家だ」
ゴンザスはそう言うとミンソンを伴って、庭のテントを張った一画へと歩き出した。


三々五々グラスやお皿を手にテントを中心にして人々がざわめいていた。


「・・・・教授」ゴンザスが声を掛けた。
振り向いたローレス教授の目はミンソンにまっすぐ向けられた。
「今日はご招待いただきありがとうございます」ミンソンは挨拶をした。
「ノラ、こっちへ来て」教授が夫人を呼び寄せた。

軽やかな足取りでお客に笑顔を振りまきながら、ローレス夫人が教授のそばに来た。
軽く結い上げた金髪のシニヨンのほつれが美しい顔にかかり、上気した頬が若々しくみせた。

「こちら韓国から来ているミンソン君だ」

ローレス夫人の目が大きく広がり、食い入るようにミンソンを見つめた。
「・・・あの・・カン・ミンソンです・・・・」
「あ・・ノラ・ローレスです」
ローレス夫人の差し出した手が微かに震えていた。

「あの・・・・」ミンソンは手を離さないローレス夫人に戸惑っていた。
「ごめんなさい、あまりにも貴方が素敵だから見とれちゃったわ」
ローレス夫人の声が掠れていた。

「カンさんとおっしゃるのね。韓国では夫婦別姓でしょ、お父様の名字がカンさんなのね」
「はい、父はカン・ジュンサンといいます」
「・・・・カン・ジュンサン・・」
「父のことをご存じなのですか」
「いいえ、人違いのようですわ。楽しんでいってね」


華やかなパーティは続いた。
ときおりどこからか自分を見つめる視線を感じ、そわそわした気分のミンソンだった。



「ミンソン、・・・・ミンソンじゃないか」
その声に振り向くとセウングループで会った大学の先輩だった。
「君もこのパーティに来てたのか、凄いなまだゼミも取っていないのにここに招待されるなんて。さすがイ・ミニョンの息子だな」


ミンソンの背中でグラスが割れる音がした。



「危ない!さわらないで・・・・・・・」
砕けたグラスに手を伸ばしたローレス夫人の腕をミンソンが掴まえた。
「ガラスが刺さったら大変ですよ」
ミンソンは後ろから抱きかかえるようにそっとローレス夫人を立たせた。


「大丈夫ですか、青い顔をされていますが室内に入った方がいい」
ミンソンの声にローレス夫人はハッと首を回し後ろから支えるミンソンの顔を見上げた。
「・・・ありがとう・・・・もう大丈夫よ・・・・」
ローレス夫人の戸惑うようなか細い声を聞きながら、邸に入った。


「・・・・・・・・・誰にでも優しいのね」
ローレス夫人がつぶやくようにいった。
「エッ・・・誤解させたようですね。教授を呼んできます」
強張った表情のミンソンが庭に続く窓から出ようとしたとき、
「・・・ミニョン・・・」ローレス夫人が叫んだ。


「ノラ、どうしたんだ」
その時、ローレス教授が入ってきた。
「・・・・・・・・・・・・ノラ、彼はミニョンじゃないよ、カン・ミンソンだよ」

ローレス教授の言葉にミンソンが立ち尽くした

「教授・・・・・建築家のイ・ミニョン・・・・のことですか」
「ミンソン・・ああそうだ。君も知ってるあの高名な建築家イ・ミニョンだよ」

ミンソンの目が微かに泳いだ。

「・・・・教授・・・・イ・ミニョンは僕の父です」
「さっき君は・・・・」
「父は複雑な事情からワークネームをイ・ミニョン、家庭ではカン・ジュンサンと使い分けています」


「ミニョンミニョンごめんなさい・・・・」ローレス夫人がソファに座ったまま泣き出していた。
「ノラ、誰も君のことを責めてはいないよ。さぁお日様にやられたんだ少し休んでおいで」
ローレス教授のことばに頷き夫人は2階に上がっていった。

「ミンソン、このパーティが終わったら残ってくれるか」





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