To the future ―星の揺りかご―23 
祝福

彼の決意は固かった
N.Yに渡るまでの1カ月少し、お互いに今抱えている仕事を終わらせることに夢中になり、彼との会話の時間も取れないほどだった。
何とか目鼻が付きホッとしたのが渡米前日であった。
幸いにN.Yにはお父様お母様がいてくださるのであちらでの生活は何の心配もいらない。
ただ、検査そして手術まで何日掛かるか分からない今、ソウルにミンソンとビョルを残していくことだけが不安だった。
その不安を払拭するかのように私たちが忙しかった1カ月、彼らは自分たちの生活ペースを確立していった。
 
子どもだと思っていたミンソンがそしてビョルが私たちの背中をポンと押してくれた。
私の心は子どもたちからの温かな気持ちで満ち溢れていた。
そして想いはただひとつ
ー奇跡と希望ー
これだけを持って機上の人となった。
 
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彼と結婚してから何度となく訪れているアメリカN.Y
空港に降り立ったとき、初めて海外にでた時のことを思いだしていた。
足が地に着かない、この古びた表現がぴったりくるような感覚を
彼が言ったー手が冷たいよ、今から緊張してどうするのー
そんな彼に言葉を返そうと彼を見たとき彼の顔が青白く見えた。
 
到着ゲートを抜けたときユソンが待っていた。
あの子の顔見た瞬間、私の手から緊張が解きほぐされるのが分かった。
お父様から差し向けられた車に乗り込む個人として来るのだからと固辞していたが、マルシアンの代表理事としての立場とセウングループの今後を占うのだからとの言葉に、セウングループの会長としてのお父様の熱い思いがひしひしと伝わってきた。
お年を召されてもなお、現役で頑張っている姿は、彼の今回の決意に、残された人生を掛けるためだったのではないかと、思えるほどだった。
 
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翌日には検査のための入院が準備されていた。
 
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検査を進めていくうち彼は鬱状態に陥っていた。
次第に会話も減り、
目が見えなくなったことを受け入れてから溢れていた自信が、崩れ去るような姿を目にしたとき、私の中に後悔が生まれた。
彼のこんな姿を見るためにここまでやって来たのではない、と。
 
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N.Yはいつのも年より早く、寒さがやってきたようだ。
 
遠くで
ーTrick or treat  Trick or treat  Trick or treatー
秋の収穫を祝い 悪霊を追い払う 万聖節の前夜祭ハロウィーン
子ども達の楽しい声が響いている。
 
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ー子どもたちの足音が聞こえるー
ーまさかー
 
ーパパ・・・・・ー
ー・・・お父さんー
ビョル、ミンソンそしてジュンソンが姿をみせた。
気力が薄れていく彼を、ユソンが精神科医と相談をし、子ども達を呼び寄せていたのだった。
 
ーパパ、元気がないみたいー
ーそんなことはないよ、ビョルが来てくれたんでうれしいよー
 
子ども達に心配を掛けまいとする彼が微笑みを取り戻した。
どんなお薬より心と笑顔が効くことを改めて思った。
家族の愛と穏やかな笑い声が病室を満たした。
 
この機を逃さず手術が行われることになった。
どんなに技術が優れていても病気に打ち勝つという気持が本人になければ回復は見込めない。その信念を持っていた担当医の判断によるものだった。
 
ーカンさん、私はあなたを救うことが出来る。
 でもわかっていてほしい奇跡を呼び込むのはカンさんあなたなんですよー
 
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祈り続けた
ー彼を私に戻してくださいー
 
窓の外は風が木々を揺らし、葉っぱが舞っていた。
ビョルが呟いた
ーレオ・バスカーリアの葉っぱのフレディみたい・・・ー
ミンソンが言った
ー違うよ・・そんなことはない、オー・ヘンリーの最後の一葉なんだよー
ー・・・ごめんなさい・・・ー
ービョル、頑張ってるパパのために泣いちゃ駄目だよー
ジュンソンが抱きしめた。
 
どれくらいの時間が過ぎたのだろうか
私の手をビョルが握り、私の肩をミンソンが抱き、
ビョルの背中からジュンソンが手を伸ばし私を支えてくれていた。
 
教授の配慮から手術室へ入ることが許されたユソンが姿を現した。
ーお父さんは頑張ったよー
 
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眠りから目覚めない彼を待ち続けた
 
「・・・・ユジン・・どこ・・・」
 
彼は迷わず帰ってきてくれた。
懐かしい声に私はあの日を重ねていた。ーユジン、僕だよー
 
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これ以上何を望むのだろうと思いつつも、彼の目が開かれる運命の日を迎えた。
カーテンが引かれた薄暗い部屋で固唾を呑んで彼を見つめていた。
 
「・・・・・・」

私たちは顔を見合わせた。
震える心を落ち着かせながら、「・・チュンサン」彼の名前を口にした。
「・・・ユジン・・昔のままの君がそこにいるよ・・」
眩しい光を目に入れないよう、カーテンを開けたのは夜になってからだった。
 
「わあ〜雪よ、初雪よ。積もってる」ビョルが叫んだ。
 
祝福するかのように果てしなく降りそそぐ雪は、N.Yを真っ白に覆った。






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