To the future ―星の揺りかご―19 
女学生

「ねえ、聞いてよ!!」ミスクが教室に飛び込んできた。
「シン ミスク、あなた具合が悪くって保健室で休んでいたんじゃなかったの」
「それどころじゃないわ」
ミスクが興奮した様子で話し出した。
あーまたミスクの「たいへん!」が始まった。
ビョル、イ ヨンエとチョ ウンスが顔を見合わせた。
 
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暑い夏の午後、夏休みの補習も2タームが過ぎ、明日からやっと夏休みらしい休みが取れることになっていた。
市内でも名だたる進学校で通っているこの高校は、今でこそ半数を女子生徒で占めているが、その昔の男子校の伝統を引き継ぎ徹底したカリキュラムで有名校への進学率を上げていた。
 
ビョルはなんの抵抗もなく、兄たちの進んだこの高校に入学していた。
しかしレベルの高さは生半可ではなかった。
高校生活を謳歌していたように見えた兄たちの偉大さをこの1学期で見せつけられたようだった。
幼いときから兄たちの後を追いかけてきたビョルが、初めて現実に向き合った3カ月だった。
 
ママがバレエを続けるのなら他の高校の方がいいのでは、と言ってくれた事が今更ながらわかった。
でも、その時は自分の夢よりも兄たちと同じところにいたい、その思いだけだった。
 
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遊ぶときも勉強するときもいつも兄たちに守られていたビョルに、女子高生特有のいつもぴったり一緒にいる友達が出来た。
どんな小さな事も大騒ぎをするシン ミスク
さっぱりとした気性で外交官を目指すイ ヨンエ
歯科医の両親を持ち、おとなしいチョ ウンス
 
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「わかったわ、ミスク。アイスクリームを食べながら聞くわよ」
「そうじゃないの!」
「ヨンエの頭の中は今アイスクリームでいっぱいなの、さあ、ミスクなにが大変なの」
ウンスがやさしく聞いた。
 
保健室にキム先生が飛び込んできた。
「ウンギョン、来たのよ。とうとう来たのよ」
この春から養護教諭になったイ ウンギョンは、キムの言う事が理解できずにいた。
「ウンギョン、前に話したでしょ。夏になったらアポロンが現れるって」
「ホントに、あの話ホントだったの」
「あら、わたしがうそを言ってたと思ってたのウンギョン」
「だって、本当だと思えないんですもの」
「なに言ってるの、さあ、百聞は一見に如かずよ」
「どこにいるの、あなたのアポロンは」笑いながらウンギョンが尋ねた。
「笑っていられるのも今のうちよ、ホントびっくりするから」
 
キム スオン先生とイ ウンギョン先生が「職員室なの?」と
飛び出していったのをミスクはベットで休んでいて聞いていた。
 
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「で?」
「ほら、知りたいでしょ」
「もったいつけないでよ、ミスク」
「いたのよアポロンが職員室に、だから誘いに来たのよ、帰ちゃったら大変よ」
「ええー」走りかけたとき、ウンスが言った。
「ねえ、ミンソンさんより素敵なの?彼より素敵な人ってわたし見たことないわよ」
ミスクはう〜んと首を傾げた
「3年生のビョルのお兄さんのミンソンさん?」
ミスクは腕を組んで考えた。
「・・・なんて言うのかな、高校生の彼と比べたら大人よ」
「おとな・・の男の人?」ビョルが呟いた。
「大人の男の人・・・!!」ヨンエの目が輝いた。
「みんな子どもぽくってうんざりしてたのよ、早く行きましょ」
ヨンエの言葉につられ走り出した。
 
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「今年はラッキーだわ、彼らを見られるなんて」
「わたしは初めてよ、彼らは誰なの」
「卒業生よ、毎年夏に挨拶に来てるのよ」
「ねえ、ねえ、キム先生真っ赤になってるわよ」
 
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ビョル達が職員室の前に行ったとき、もう3年生や2年生が話を聞きつけて集まっていた。
50人近くいただろうか、1年生はビョル達だけだった。
職員室のドアからそれぞれ覗いていた。
ビョル達もやっと上級生の隙間から見ることが出来た。
「アッ・・・」と小さな声を上げ、ビョルは手で口を塞いだ。
後ろに立っているウンスに場所を譲る形を取って、そうっとその場を離れようとした。
 
その時
女の子達の歓声が上がった。
彼らが職員室から出てきたのだ。
ビョルは後ずさりしながら遠ざかろうとした。
後ろから肩を叩かれた。
 
「ミンソンお兄さん・・・・どういうことなの」
「毎年のことらしいよ」
「まいとし?」
「そう、僕はこれで3回目だけど、毎回すごいよ。もっともキム先生が吹聴してるせいもあるだろうけど、だけど今年は多いな、過去最高なんじゃないか」
 
そこには女の子達に囲まれたユソンとジュンソンがいた。
柔らかな微笑みを浮かべたユソン
とろけそうな笑顔のジュンソン
ビョルは何となく兄たちから隠れるようにした。
「ビョル!」ジュンソンが呼んだ。
女の子が一斉に振り返った。
「ビョル、みつかったよ。あきらめるんだな」ミンソンが囁いた。
「ミンソン、ビョル帰れるんだろ」ユソンが声をかけた。
「ああ、兄さん大丈夫だよ」ミンソンが答えた。
「・・・・はい」ビョルが頷いた。
何故かビョルはみんなの視線が痛かった。
 
あーー今夜はミスク達の電話で眠れそうもないな。






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