To the future ―星の揺りかご―14 
夏の夜

 
手紙を弄びながらため息を洩らしたとき、上からサッと手が伸びてきて奪い取られた。
「カン ビョルさま・・んん・・ビョルにじゃないか」
「返してよチュンソン兄さん」
「何でミンソンがビョル宛の手紙を持ってるんだ」
「・・・・頼まれたんだよ」
 
キッチンからビールを抱えてユソンが入ってきた
「頼まれたって誰にだよ、ミンソン」
ジュンソンにビールを手渡しながらユソンが聞いた。
 
「あれ、兄さんライムは」
「ライム?」
「そうだよ、このビールにはライムを切っていれるとおいしいんだ」
手紙をユソンに渡すとジュンソンは「ライムライム・・・」とキッチンへ行った。
 
「もう休んだんじゃなかったの」
「そのつもりだったんだけどチュンソンに起こされて」
ユソンは手に持った手紙を頭の上にかざした。
「返してよ」
「返しちゃダメだぞ兄さん」
「意地悪言わないでよチュンソン兄さん」
串切りにしたライムをビール瓶の口に押し込み
「兄さんのビールにも入れてやるよ こうするともっと味が軽い感じになって水代わりに飲めるんだ」
「ほんとだ、でもメキシコじゃこんな飲み方しなかったぞ」
「日本だけかも、美久さんに聞いてみたら」
 
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「はい、ミンソン」
ユソンは手紙を返しながら
「厭なことは頼まれてくるなよ、相手のためにもならないぞ」
「ごめん・・・」
「でも引き受けたのならビョルに渡さなきゃ」
 
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{不可能の家}での夏は1週間が過ぎようとしていた。
思い思いにテラスで波の音と、時折ビール瓶をカチッとテーブルに置く音、うるさい位の虫の鳴き声それらに身を委ねていた。
 
********
 
沈黙を破ってミンソンが聞いた
「ユソン兄さん今度医学校の3年生なの」
「ああ、こっちで言ったら大学7年生かな」
「こっちの大学だともう医師の資格は取れるんだろ」
「そうだよ、日本もそうなんだ。
 美久はこの7月に医師の免許を取れたそうだ」
「あと何年勉強するの」
「医師免許まではあと2年だけど 専門医の資格まで取りたいから最低でもあと5年かな」
 
「ミンソンは今年入学したんだったな」
「チュンソン兄さん、言ってなかったかな、僕辞めたんだ」
「辞めた!?ソウル大学を辞めたっていつ?」
「夏休み前」
「・・・・・ミンソン、新入生代表じゃなかったかい」
「・・・・うん・・・・」
 
********
 
ミンソンが大学を決める時、すでに2人の兄はアメリカとフランスへ留学していた。
ジュンサンは建築をやりたいのなら自分の母校で学ぶことを強く進めたが、あの時は、まだ父と母そしてビョルをおいてこの国を離れることは考えられなかった。
しかし入学して3カ月軽い失望を覚えていた。
そして状況が変わった今、再出発をすることを決めていた。
 
********
 
「兄さんは聞いていたのか」
「話そうと思ってもチュンソン兄さん ソウルに帰ってきてから忙しかったんだよ」
「・・・・そうかよかったな、やるべきことが見つかったんだな」
「うん」
 
「チュンソンこそ絵を専攻してるもんだと思っていたんだが、 違うんだってお父さんも驚いていたけど」
「それこそ聞いてないよ、チュンソン兄さん」
「自惚れていたんだよ、少しくらい上手な人は 掃いて捨てるだけいたんだ。美術館に通いつめて通いつめて悟ったのさ」
「で、チュンソン兄さん今、何を勉強してるの」
「経済学、似合わないだろ」
「お父さんの会社を視野に入れて?」
「いや、建築には興味がないよ、美術品のだよ。こっちでいう大学は修了して今doctoratを目指す準備課程だよ、僕もあと2年必要かな」
「チュンソン兄さん、アルバイトも大変なんでしょう」
「・・・まあね」
「チュンソン、アルバイトって・・・」
 
********
 
「あなた達まだ起きてたの」
「お母さんも飲む?」
「ひっくり返ちゃうわよ」
「そうだったね、ここに座って」
「ありがとうチュンソン」
 
テラスの支柱に保たれてジュンソンがたばこに火を付けた
その姿を見つめていたユジンが懐かしそうな声を出した。
 
「チュンソン、いつからたばこを吸ってたの」
「少し前からかな、ほんの数えるほどしか吸わないんだけど」
「そう、不思議なものね。おかしなところがそっくりなのね」
「・・・・」
「そうやって火を付ける仕草、煙を吐き出すところ・・・」
「あれ、お父さんも吸っていたの、知らなかったな」
「私と初めて会ったとき吸ってたわ」
「初めて会ったとき?」
「それって高校生の時?」
「ええ」
 
高校生のジュンサンがたばこを吸うところを目撃したユジンの驚きの姿を想像しながら、僕たち3人は顔を見合わせて笑い転げていた。
 
お母さん・・愛してるよ・・・






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