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To the future ―星の揺りかご―10
誤解
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「以上ですね。今週は特別大きな問題もないようですね」
「ありがとう、キム次長」
「ところでユソンくんに続きチュンソンくんまで
家を離れて寂しいでしょ」
「そうですね、先輩。でもうちにはまだふたり居ますから
寂しくなるのはまだ先でしょう」
「そうですか?結構落ち込んでいたりして」
「先輩!」
・・・・♪♪♪♪♪・・・・・・
「・・・・電話ですよ、ユジンさんかな、案外寂しいからって」
「先輩!」
********
「何かの間違いなんじゃないのか」
「ええ、そう思って聞き返したわ、でも、ご両親揃っておいで下さいって」
放課後の中学の教室は静まりかえっていた。
どこか懐かしいもどかしい思いが微かに心を過ぎった。
ジュンサンとユジンは待っていた。
「ミンソンくんのご両親ですね」切り口上で話しだした。
「先日、担任が急に辞めたので、私が先週から担任になりました」
「はい、ミンソンから聞いています」
「それぞれの実力を知るにはテストが一番ですので、
昨日数学のテストをやったのです。これがミンソンくんのです」
「ユジン、見て」
「あ〜お父さんは目が不自由でしたね」
「・・・・・ええ・・」
数学のテストは25問、基礎から応用、さらに発展問題
ユジンが見たのは、解答欄がきれいにすべて埋められ、
全問に丸が付いていた、しかし、点数欄は0点。
ユジンがジュンサンに説明をすると、ジュンサンは顔を曇らせ、
「先生どういうことですか」
「カンニングですよ、カンニング!」
「ミンソンがそう言ったのですか」
「だってそうじゃないですか、簡単な計算ならまだしも、
この発展問題は正解者はいなかったんですよ、
それなのに、何の計算のあとも見えないのに答えが正解なんて。
カンニングに決まっています」
「・・・・ミンソンが不正をしたのを見たのですか?」
「そんなものを見なくても、そうに決まっている」
「何故そんなことが言えるのですか」
「カンニング以外ありえない」
「分からないでしょ、本人に聞いてみたのですか」
「聞いたって本当のことを言うわけがない」
「なんてことおっしゃるんですか!」
「あなた落ち着いて・・・」
教室の戸が開いた。
「どうしました、大きな声が聞こえますが」
「アッ!校長先生、保護者の方にお子さんのカンニングを話していたら、
興奮されて」
「カンニング?」「カンニング!」「カンニングだって」「・・・」
校長の後ろで声がした。
あわてて校長は教室の戸を閉めると、廊下で
「評議員の皆さま、ではあちらへどうぞ」と、声が聞こえた。
********
その日の夕食にミンソンは部屋から出てこなかった
「あなた、お父様からお電話よ」
それはキム ジヌだった。
「チュンサン、今日私は中学校にいたのだよ」
ジヌは教育委員会の評議員として各中学の視察をしていた。
今日の騒ぎは当然議題になり、担任が説明に呼ばれた。
評議員からはいろんな意見が出された。
そこで校長が担任に再テストを命じた、
但し、明日新たな問題で放課後校長室でと。
「チュンサン、僕は昔を思い出していたよ。
君が大学の講義室で僕に指名され大学生も
理解できない問題をいとも容易く解いたのを」
そして更に、
「長年教師をしていると、思いがけない生徒に出会うものだよ」
********
「で、その結果どうだったんですか、理事」
「ミンソンは校長室でテストを受けたそうです。
カンニングなど出来ない状況で
採点も担任が校長室ですぐ行ったんだそうです、
ですがやはり解答欄だけすべて埋められていて
途中の計算はなかったそうですが」
「でも答えは全部合っていた、そうなんですね」
「ええ」
「で、ミンソンくんはどう説明したんですか」
ミンソンが校長に説明したことはその日のうちに
ジヌを通して知ることが出来た。
新しい担任は前の担任の悪口をはき続けて、
どうせそんなやつに教わった生徒だ、
勉強なんて出来るわけがない、
そういってテストを受けさせた。
ミンソンは若さからの正義感でカチンときたんだろうね、
担任に一泡吹かせやろうと思ったそうだ。
「ですが理事、それだけで全問を途中の計算なしで
正解は出せないでしょ」
「ええ、頭の中で計算をしたんだって言ってました」
「ほー頭の中で・・大したものだ」
「でも何にも言わないんですよ、次長。
そこまで聞き出すのが大変でした」
「肝心な事は何も言わない、何のことはない、
理事にそっくりなだけですよ」
「先輩!」
校長が担任にミンソンに謝罪するように命じた。
ミンソンは明快だった。
「誤解は解ければいいんです」
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