To the future ―星の揺りかご―7 
再会

「ユソンさま、奥さまがブランチにどうぞ、とおしゃってましたよ」
シャワーを浴びて出てくると、リュさんがリビングを片付けながら声を掛けた。
テーブルに目をやると、携帯はなかった。
僕は寝室へ目を向けた。
「お掃除をしますので、奥様の方へどうぞ」
リュさんが目をそらしながら言った。
 
「ユソン、遅くまでお友達がいたのね」
「ベランダで騒いでいた声が聞こえた、うるさかった、
 ごめんなさいおばあさま」
「そんなことはないさ、楽しかったかいユソン」
 
「・・・・ユソン、女の子が泊まったの」
「ミヒ、やめなさい。ユソンだって子どもじゃないんだぞ」
「・・・・・」
「・・・・どうして知ってるの・・・」
「・・あなたがシャワーを浴びているとき、寝室から女の子が出てきて、
 リュさんが驚いたって」
 
そうだ、僕はソファーで目を覚ましていつものようにシャワーを浴びたんだ、
その時、確かに携帯はテーブルにあったんだ。
 
「リュさんにあいさつすると、引き止める隙もなく帰ったんですって」
「リュさんと話した?リュさんいつの間に英語を覚えたの」
「あら、ハングルでよね。リュさん」
「はい、奥様」
「ハングルで・・・」
「ユソンさま、韓国の方ではないのですか、お上手でしたよ」
 
僕の頭は窓の外の日差しのように鮮明になった。
 
「おじいさま後で説明します」
「おばあさま出掛けてきます」
「ユソン!!」
「ミヒ!ユソン行ってらっしゃい」
 
********
 
「マーク!!マーク!!」
学生寮に飛び込んだ。
いつもなら鍵も掛けないのに・・・・・・
「ユソンか、あれからどうした」
ドアに立ちふさがる格好で声を掛けてきた。
「kobaの部屋を知ってるか」
「koba?おまえと一緒じゃないのか」
「マーク、じゃ、mikuはどこの部屋だい、夕べ送ったんだろう」
「・・・・」
「kobaはE棟の829号室よ、マリーンと一緒」
マークの後ろから声がした。
「・・・miku・・・・・ありがとう・・・」
僕は駆けだした。
「おいユソン!何があったんだユソン!!」
 
[829号室]
深呼吸をした、躊躇うような、焦りを感じたままノックした。
「・・・・・ハーイ」
「ん?マリーン?kobaいるかい」
「あなたユソンね」
「僕を知ってるのか?」
「女の子の間じゃ有名よ。あなた格好いいもの」
「・・・kobaは・・」
「さっき帰って来たと思ったら、
 携帯を見つめて憂鬱そうな顔で散歩に行ったわよ」
「どこへ!!」
 
********
 
寮から講義棟に続くプラタナスの並木道にkobaは立っていた。
遠くからその姿をしばらく見つめていたユソンは、少し距離を置いて歩いた。
kobaは立ち止まって後ろを振り返った。
それはユソンが夢見ていた懐かしい美久だった。
 
********
 
「・・・・美久なんだろう」
美久は返事の代わりに笑顔を浮かべた。
そんな美久を見つめるユソンは、新たな切なさと愛おしさを感じた。
ユソンは美久に歩み寄った。
美久に手を差し出すと、美久がユソンの手を握りふたりは歩き出した。
言葉はいらない。
あれからの10年は手紙とメールで知り尽くしていたから。
 
どのくらい歩いたのだろう。
「ユソン、お腹がすいたわ」
「僕もだ」
顔を見合わせると、スプリングst.に面したクラシカルな建物に駆け込んだ。
ここは定番のグリーンではなくライトグレーのシックな外観のコーヒー店
大きなソファーがあって、ふたり並んで座れるんだ。
僕は[アイス キャラメル マキアート]
美久にはカスタムオーダーでバニラ・クリーム・フラベチーノをベースに
キャラメル・シロップとキャラメル・ソースを加えたものを
「甘い?」
「ん、とっても」
心置きなく思いっきり笑った。
 
********
 
時間は時空を越え、
子どもの僕たちから大人の僕たちに
淡い初恋から確かな手応えのときめきに
遠い空は同じ空の下に
一瞬で変わった。
 
********
 
ー明日また会える?ー
プラタナスの木の下で美久にささやいた。
ーええー
頬を染めて美久が頷く
ーまた明日ー
ーまたねー
立ち去る美久の後ろ姿を見ていた僕は
追いかけた
 
美久を後ろから抱きしめ、振り向いた美久の額に唇を近づけた。






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