To the future ―星の揺りかご―6 
青春

「ユソン、今度の金曜日セッションしてくれないか」
「いいよマーク、どこでやるんだい」
 
大学3年になっていた。
僕は月曜から金曜までひたすら勉強をしていた。
授業の合間は図書館、授業終了後も図書館が閉まるまでいた。
そんな僕も金曜日になると、我先にと遊びに行くんだ。
前はそんなことが分からないから、金曜の4時30分頃、
大学の事務局に行ったらもう誰もいないんだ。
あれには驚いた。
 
以前、マークは僕の部屋にピアノが置いてあるのをみて、
「ユソン、ピアノを弾くのか」
「ピアニストを夢見たこともあるさ」
「ふ〜ん・・・」
次の日、マークは楽譜を持ってきた。
「ユソン、弾いてみてくれないか」
 
キース・ジャレット
[ブッチ&ブッチ] [マイ・ファニー・ヴァレンタイン] [二度東・三度西]
 
あの日から僕はジャズのナンバーに夢中になり、
マークの(ベース)とゲーリーの(ドラム)そして僕の(ピアノ)で
トリオを結成し、機会あるごとに演奏をしていた。
初めの頃は、スタンダードな曲ばかりだったが、
次第にリズムも軽快にスイング出来るようになり、
今では、インプロビゼーション(即興演奏)もこなすようになった。
 
********
 
「どこでやるんだ」
「この夏休みを利用して短期の留学生が学生寮に入るんだ
 その歓迎パーティをやるんだよ」
「留学生?」
「そう、韓国や日本、東南アジアの人が多いって」
「・・リハーサルの時間取れるのかい・・」
 
学生のスタイルにとらわれない自由な演奏のためか、
躍動感あふれたフレーズのせいか、拍手喝采は鳴りやまなかった。
 
久しぶりにハングルでお喋りをした。
母国語の安心感からか、いつにはなく饒舌の僕がいた。
ボリビア出身のゲーリーは陽気に笑っている。
マークは女の子ばかりとお喋りをしている。
「ユソン、日本語出来るか?」
「ダメだよ」
「あの子たち、可愛いよな日本人だって、同じ年になんか見えないな」
「ほんと可愛いなー」
「へー、ユソンが同調するなんて珍しいな」
「なんだよ!」
 
ちょっと短めのきれいなチョコレート色の髪のkoba
背中までの長い黒い髪のmiku
はにかんだような笑顔のyuri
大きな黒ぺ、見つめられたら・・nabe
 
「・・・miku・・・・」
 
mikuとkobaはきれいな英語を話した。
nabeとyuriも辿々しいけれど会話が出来た。
僕たちの杞憂も吹っ飛んだ。
僕たちは時間も忘れて話した、笑った。
分からない言葉は、知ってる世界中の言語を並べ立てる。
すると言い換えができ、いつの間にか笑ってる。
 
僕たちは別れがたく、会場を出るとその場に佇んでいた。
他の店に行くにも、彼女たちが若く見えるので、
身分を提示しなければならないので面倒だった。
 
「ユソン、お前の部屋に行こうぜ、広いしさ」
僕が反対する暇も与えずマークとゲーリーは歩き出した。
 
「すごいこんなに素敵な夜景なんて!」「NYを独り占めしてるみたい」
「大きな部屋ね、ユソンはお金持ちなの」「ユソン、ピアノを弾いてよ」
彼女たちは好きなことを口々に言っている。
時々日本語で話し、クスクス笑っていた。
 
マークとゲーリーは、勝手知ったる何とかで
冷蔵庫から飲み物を出したりしている。
時々、マーク達が寄るのをおばあさまがわかっていて、
メイドのリュさんに不自由がないようにって整えてくれている。
ゲーリーは慣れた手つきでシェーカーを振っている。
マークもオーブンで簡単なおつまみを作る。
暑いNYも夜も更けると、少しは涼しくなり
窓を開け放して、ベランダの椅子に座ると
いつもと違う空間ができる。
僕たちは夏の短い夜を楽しんだ。
 
目の端でkobaが崩れるように倒れ込むのが見えた。
「koba! koba!」
mikuが驚いて揺すっている。
「miku、だめだよ、揺すったら」
kobaを抱えてみると、スースー寝息を立てていた。
「miku、kobaは酔って眠ったみたいだよ」
驚きが笑いに変わった。
でも、kobaは起きる気配も見えなかった。
kobaをベットに運んだ。
それを汐にゲーリーがyuriとnebeを
マークがmikuを送って行った。
 
玄関でマークが囁いた
「ユソン、どうする・・・・」
 
ベットで眠るkobaを見つめ、
ドアを閉めた。
 
********
 
リビングに戻った僕は眠れないままに
美久にメールを送った。
・・・・・・・
美久、夏休みどうやって過ごしてる。
僕はまだN.Yにいます。
・・・・・
・・・・・
送信をクリックした。
 
どこかで、携帯の着信音がする。
ソファーの間から携帯をみつけた。
kobaの眠るドアの方を見た。
 
テーブルに置いた。
 
・・・・・
ごめん美久、追伸・・・・
また、ソウルに来ないか、N.Yでもいいけど
あれから会っていない君を見てみたい
・・・・
送信・・・・クリック
 
テーブルの上の携帯が着信を告げる
 
思わず、彼女の携帯を手にする
携帯の窓に日本語が表示している
読めない・・・
エッ!
「ユソン」
この日本語だけは読めるんだ、
美久が「ユソンの字は簡単なのよ、覚えて」
と、教えてくれたから。
 
彼女の携帯に「ユソン」
 
koba、君は誰・・・・・






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