To the future ―星の揺りかご―1
天使の通り道


空港にいた。ここから飛び立つのは何度目になるのだろう。
いつもと同じ僕たち4人と父と母。
ただ違うのは、送る者と送られる者、涙が悲しみのためだけではないということ。
 
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「去年のあの時、ミンソンの勢いにはびっくりしたよな」
「そう、わたしも。ミンソンお兄さんがあんなに話すなんて」
「ビョル、僕だったら驚かないだろう」
「チュンソンお兄さんは、いつもそうだからね」
 
夏の間の2週間{不可能の家}で過ごす習慣は守られてきた。
しかし、もしかしたら今年これが最後かもしれないと、
家族のみんなが感じていたのだろう。
限られた時間を惜しむかのように、僕たちは語り明かした。
そして感じていた、{不可能の家}神秘を。
 
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おそるおそる話し始めた。
お父さんがどういう反応をするのか。
お母さんがどう思うのか。
僕の中では会話のシュミレーションは出来上がっていて、
絶対に「うん」といわせる自信はあったんだ。
 
「僕の大学の病院で検査だけでもしてみませんか。
 手術するしないはそれから考えたもいいことですし、
 あの頃より技術も進歩しているので、
 まったく不可能なことではないという論理的結論
 を教授からもらってきてることだから」
「・・・・」
「・・・お父さん・・考えていただけますか」
「・・・・」
「お母さん・・・検査だけでも」
「僕は反対だな」
「ミンソン!」
「何度も聞いてきたじゃないか、手術にはリスクが伴うって
 それも僕たちのことを忘れるかもしれないことを。
 また検査をして、やっぱり手術は無理ですって言われたら
 それこそお父さんとお母さんを悲しみの底に沈めることになるんだぞ、
 お兄さん、それを承知で話してるのか」
「ミンソン、やめなさい。お兄さんに向かってなんです」
「お母さん・・・僕だってお父さんの目が見えるようになって、
 僕たちを見ていただきたいんだ。
 でも、もし僕たちのことを、僕たちとの思い出、
 そしてなによりお母さんのことを忘れてしまったら
 お父さんはどうやって生きていくんですか。
 もしかしたら、目が見えないことより悲しいことかもしれないんですよ」
「ユソンお兄さん、ビョルもいやよ。パパがわたしのことを忘れるなんて
 わたしが踊ってる姿を見られなくてもいいの。
 パパは感じてくれるもの、心の目で見てくださってるもの。
 ねえママそうでしょ。」
「僕は見えてほしいよ。」
「チュンソンお兄さん!」
「いつも思ってた、お父さんの目が見えさえすればって。
 僕の作品を見ていただけるのにって。僕はイメージを先行させる絵を描く度、
 お父さんが見えたらどんなアドバイスをいただけるんだろうと、思っていたんだ」
「ミンソン、おまえだって思ってるんだろう。
 これから先、お父さんと同じ仕事を志す者として、
 イ・ミニヨンの伝説的な仕事を伝説ではなくこの目で見てみたい、
 教えてもらいたい、一緒に仕事をしたいって」
「・・ユソンお兄さん・・・」
 
テラスから抜ける風が気持ちよく流れていった。
しばらくの沈黙・・・。
僕は思っていた、「天使が通り過ぎた」と、
お母さんがフランスにいた時、おしゃべりをしていて、会話が途切れることを
「天使が通り過ぎた」と言って笑い、また、おしゃべりに戻るって話していたな。
 
「ユソン、ありがとう。みんなの気持ちがうれしいし、
 みんながどう思ってくれていたのかもわかってうれしい。
 この夏が終わる頃まで答えは待ってほしいんだが、ユソンいいかい」
 
その夏の終わり{不可能の家}を離れるとき、お父さんは決断をした。
それぞれの心を思いやりながら。
それが去年の夏
 
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「まだ起きてたのかい」
2階からお父さんとお母さんが降りてきた。
僕たちは顔を見合わせた。そして口々に言った。
「パパお願い、ねえ、星の話をして」
「お父さん、ポラリスの話をして」
「お父さん、テラスで聞かせて」
「ママ一緒にお星様を見ましょうね」
 
「どうしてそんなに同じことを言えるのあなたたちは」
「ママだってそう思っていたんでしょ。だって私たちはチュンサンとユジンの子よ」
「ビョルたら・・・」
テラスからお父さんが声を掛けた。
「早く出ておいで、世界が夜から朝に変わる瞬間が見えるよ。
 綺麗だな・・・
 ポラリスが大きく瞬きしそうだ」
 
僕たちはテラスに立ち、見つめていた。
ポラリスが大きく輝き消える瞬間を。
そっと横を見ると、
チュンサンに寄りかかったユジン、ユジンを抱きしめているチュンサンがいた。
 
この夏が終わるとそれぞれが決断をした未来へ歩き出す。
去年の夏お父さんがした大きな決断のように。
{不可能の家}の神秘は、チュンサンとユジンだけのものではなく、
ここに訪ねたものすべてが体験しうるものだと思っている。
6人だけの夏はこれが最後かもしれない。
そう思いながら、もう少し彼らの腕の中に抱かれていたい。






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