To the future ―未来へ― サンヒョク


「なんでこんなに具合が悪いのに知らせてくれなかったの」

「・・ユジン、君とチュンサンには心配を掛けたくなかったんだ」

「サンヒョク、君にとって大事なお父さんだ、だけど・・・」

「ごめんチュンサン・・・・・悪いと思ってるよ」




静まりかえった病院のロビー、わずかに照らし出された灯り、目凝らすと、ポツンポツンと 

不安を抱えて座り込む家族、ほんの一息の休息を硬い待合い椅子に身体を投げ出す 

姿が目に入る。




サンヒョクから話があるからと連絡を受けたとき、既視感デジャブを感じた。

確かあれは、いつの夏の初めだったんだろう。

まだ、ビョルも幼くって、ユソンも小学生だった。

サンヒョクと僕が兄弟だってことを、子どもたちにはじめて話した。

大きな戸惑いを覚えたのはユソンだけで、チュンソンとミンソンは驚きながらも

うれしがって、ビョルに至ってはおじいさまって抱きついていたっけ。




でもそれからもキム一家の気持ちを思い、サンヒョクから声が掛からない限り、

決して深く入り込むことはしないようにしていた。

しかし子どもたちを見ていると僕を経て、キムジヌの血が流れているのは確かだなと

思うことがある。


ミンソンの数学の力やチュンソンの包み込む度量


子どもたちが大きくなるにつれ、キムジヌのいたたまれないような胸の痛みがいっそう

判るようになってきた。


だからこそ距離を取ってきた。




「サンヒョク、お父さんはもう・・・・・・ダメなのか」

「・・・・・・・今僕とウンヒが出来ることって父さんの身体を撫でて上げることだけなんだ」


ユジンの手がそっと伸びて、サンヒョクの膝の上の手をつかみ、

「サンヒョク・・・痩せたわね」

愛おしむようにサンヒョクの手を包み込みさすっていた。

「・・ユジン・・・・・・」


サンヒョクの瞳が、かって見たことのある想いに輝き、見間違いだったように消えた。





「あの時のことを覚えてるかチュンサン」

「あの時・・」

「君たちがお父さんのお見舞いに来てくれた時のことだよ」

「ああ、僕も今ここに来るときそのことを思いだしていたよ」

「あの後、君たちに会ってからめざましく快復したんだ。それを今になっては期待は    

出来ないけど、少しは元気になるかなと思ってね」


「いいのか・・・チヨンさんの気持ちを逆撫で無いのか」

「私たちは構わないのよサンヒョクでもね」

ユジンの言葉をサンヒョクが遮った。

「母さんも老いたよ・・・ユジン。君のこともチュンサンのこともとうの昔に許してる。

ましてや自分が愛した夫キムジヌの血を引くあの子たちを抱きしめたいと思ってるよ」





ホスピス病棟に続く廊下を僕たちはそれぞれの気持ちを持って辿っていた。





苦しげに痛みに耐える父キムジヌがそこにいた。





「・・・・・・・チュンサン、ユジン・・・・・」

荒い息の中で紡ぎ出された名前、そう僕はあなたの息子チュンサン

「・・・チュンサン・・・・すまないな」

僕の嗚咽を押し凝らすだけで声が出ない。

「・・おじさん」

ユジンが声を掛けた。

「ヒョンスの子、ユジン・・・・・いい子に育ったな」

「おじさん・・・」

「まった・・・く、泣き虫なん・・ら・・」



「お父さん」

僕の声が喉で詰まった、僕ってこんな声だっけ、思いがけないことを考えた。

痩せ干せた腕が宙を彷徨い、僕の上着を掴み損なって布団に落ちた。

「お父さん・・・・」

僕はしっかりと僕の命の源の胸にすがった。

「お父さんお父さんお父さん・・・・・」

「あぁ・・・・私とミヒとの子チュンサン・・・・・」





短い夏の夜が明ける。





「サンヒョクいいか、子どもたちが来るまで頼んだぞ」

「サンヒョク、どんなことがあってもあなたはおじさんの代わりにはなれないのよ」

「ユジン、僕どんな顔をしてるんだ」

「おじさんの苦しみを代われるものならって」

「・・・思ってたよ・・・・」

ユジンの指がサンヒョクに伸びる前、僕はサンヒョクを抱きしめていた。

「サンヒョク・・・大変だろうが・・しっかりな・・・ぼくもついてる」

「チュンサン・・・・・兄さん・・・・・・」





数日後、ユジン、チュンソン、ミンソン、ビョルの賑やかな笑いに病室は包まれていた。





しとしと降り続く雨の中、黒いリボンの中で微笑む写真を手に深々とあたまを下げた、

サンヒョクが車に乗り込んだ。








「・・・・・サンヒョク・・・」
「お父さん何、苦しいの」
「いや、サンヒョク・・・・・・親は先に逝くものだよ、親より先に逝くのは最大の親不孝だよ」
「・・・・ええ・・・・わかっています・・・・・・・・」





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