ぎらぎらする太陽がすべてにフィルターをかけ、
見開いた目がまぶしさに半分閉じ、
この世の色という色が世界を埋め尽くす。
光がすべてを露わにするとおもわせながら、
あまりの輝きに凝視することができない、
夏はいつも夢の中にある。
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夏休み
毎年僕たちは、{不可能の家}に行く。
{不可能の家}での2週間、僕たち家族はいつも一緒、
同じ空間で同じものを見ながら同じものを感じる。
広い敷地でそれぞれ違うことをしていても、
お互いを無意識に感じてあっている。
ソウルから離れ自然の中でいるからだろうか、
それとも{不可能の家}がパパとママを再会させた
神秘を持っているからだろうか。
いつもそうだけど、ここにいるときは、
見慣れている僕たちでさえ照れるほど
パパとママは仲良しだ
パパはママに何もさせない、食事の支度さえも。
朝、一緒に起きてくると
「お散歩に出掛けるわよ」
その声に僕たちは大慌てで外に飛び出し、
パパとママの間に割り込む
誰がパパと手をつなぐか、誰がママと手をつなぐか
大騒ぎをしながら、船着き場や花畑へ向かう。
散歩から戻ると部屋は片づき、食事が整っている。
そこには大きな声で笑う「賄いのおばさん」が待っている。
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「賄いのおばさん」は僕にそっと教えてくれた。
ある日いつものようにおばさんが朝の食事の支度にきたら、
ずぶ濡れのパパがいて、
お友達も雨に濡れてシャワーを使っているから着替えを出してやってと頼まれ、
パパの洋服を置いた。
しばらくするとリビングから、笑い声がするのでおばさんが覗いてみると
ぶかぶかのパパの服を着た女の人がいてびっくりした。
それが僕のママだ。
おばさんが言うには、
あんなに明るい声で笑うパパをその時初めて見た。
その後、「僕のお嫁さん」とパパに紹介されたとき、
おばさんはスキップしたくなるほど嬉しかったと。
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けだるい午後
風の良く通るテラスに続くフロアで、おもいおもい休息をしている。
この時だけは、ママがパパにコーヒーを煎れて手渡す。
でもそれさえもパパは嫌がり、
パパがママにコーヒーを煎れる時の方が多い。
ママは「ねえ、あんまり動かないと私、太っちゃうわよ」
「いいさ、ソウルに戻るとまたクルクル動き回るんだから」パパは笑ってる。
ママはちょっと口を尖らせる。
ママはソファに座っているパパの足元にもたれ掛かり、
パパの膝に頭を乗せ、思いだしたようにコーヒーを飲みながら、
二人ともずーっと遠くを見つめている。
そんなとき僕には、声に出さない言葉が彼方から聞こえてくるような気がする。
ソウルからおじさんやおばさんが来ると、朝も昼も夜も大騒ぎになる。
でもみんな帰ってしまうと、夜は深く長い。
森の中は他の灯りも透さない。
外は漆黒の世界に包まれる。
夜、ひとり灯りもつけず外を見るたび、
パパの苦しみがほんの少しわかる気がする。
ぼくの心が悲鳴を上げる。
明け方、「カタン」という音で目が覚めた。
そっとドアを開ける。
まだ、誰も起きていないはずだ。
足音を忍ばせ、階段を下り掛けた時、テラスにふたつの影があるのに気づき、僕は足を止めた。
そのふたつの影は肩を抱き、海を見つめている。
まるで過去を旅してるかのように、身じろぎもせず。
僕は見てはいけないものを見たときのように後ずさった。
二階に戻り部屋のドアを開けるとき、
・・・・振り向いた。
僕の目は廊下の真ん中にテラスの影を見ていた。
夏は終わった。
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