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To the future ―未来へ― 4 白い魔法
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4通の手紙を前に僕たち6人は途方に暮れていた。
校外活動の計画が本格的になった。
「あこがれの仕事」の人と連絡を取って、訪問をして、
新聞にしてまとめることに決まった。
「あこがれの仕事」はあまり漠然としてどうしたらいいか迷っているうち、
ヘスクは「絶対デザイナーよ」と言い出して譲らない。
ヒョギョンはいつだってヘスクと一緒。
こともあろうか美久まで「すてきよね。会ってみたいわ」と。
美久のことなら何でもOKしちゃうジュノまで賛成したら、
僕とドンファンは顔を見合わせるしかなかった。
でもそう簡単にはいかない。
ヘスクが4人のデザイナーを選んで、訪問のお願いの手紙を書いたが、
みんな断ってきた。
どうしたらいいんだろう。
その時思わず、
「ヘスク、オ・チェリン先生を知ってるかい」
「あの有名なオ・チェリン先生?」
「そんなに有名なの?」
「ユソン、知らないの。韓国で超一流、パリでコレクションまでやってる先生よ」
ヘスクはオ・チェリン先生のすばらしさをみんなに話し始めた。
「オ・チェリン先生のウエディングドレスには幸せの魔法があるんですって・・・・。」
そんなヘスクを見て僕はおどろいてしまった。
チェリンおばさんはすごいんだ。おばさんなんてヘスクに言ったら大変だな。
自分のことのようにオ・チェリン先生の自慢をし終えたヘスクが、
「ユソン、まさかオ・チェリン先生を知ってるなんてことじゃないわよね」
校門のところで美久が待っていた。
「ユソン、無理をしないでね。オ・チェリン先生がだめだったら私、
ヘスクにもっと違う仕事の人にしましょって言ってあげるわ」
僕がオ・チェリン先生と知り合いだとわかると
ヘスクは「お願いユソン、お願い、お願い」
とうとう僕も根負けして引き受けてしまった。
でも、チェリンおばさん韓国にいるのかな。
僕が考え込んでいると、
美久はつぶやくように「幸せの魔法を使える先生に会ってみたいわね」
思わず美久の顔を覗き込んでしまった。
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美久が喜ぶことなら僕は何でも出来るかもしれない。
ママに一生懸命お願いしている自分を、冷静な目で見ている自分に気づいた。
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その夜、ママがチェリンおばさんに電話をしてくれた。
チェリンおばさんは日本から帰ったばかりで、ママ達に会いたいと連絡をしようと思ってたところだった。
僕のお願いをママがチェリンおばさんに話した。
「ユソン、直接話を聞きたいんですって」
ママがそう言って僕に受話器を渡した。
「こんばんは、チェリンおばさん。僕ユソンです」
電話が切れてしまったかのように、何も聞こえてこない。
「ママ、切れたのかな。なんにも言わないよ」と僕が言ってると、
「ごめんなさい・・・・ユソン・・・」チェリンおばさんの声が聞こえた。
いつもと違う声、ちょっと上擦ったような声が。
「ユソン、声が変わったのね。・・・・・パパとそっくりね」
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いつもと違う時間に僕たちは浮かれていた。
お店はそれは華やかで、活気に溢れて、それでいて上品で。
オ・チェリン先生は綺麗でかっこよくて、
まるでおとぎの国のようなところ。
ヘスクがあこがれているのがわかるような気がした。
僕たちが落ち着くまでオ・チェリン先生はにこにこしながら待っていた。
雰囲気になれ、やっと自分たちを取り戻した。
二階の先生の大きな机のある部屋で、僕たちの質問を受けて下さることになった。
気取り屋のヘスクがこれ以上気取りようがない声で話し始めた。
「いつからデザイナーになろうとお考えでしたか」
「どんな時にアイデアが浮かぶのですか」
オ・チェリン先生は颯爽とポンポンと答えてくださった。
僕たち男子三人もあまりのかっこよさにポ〜してしまうのがわかった。
質問が途切れた。
「もういいのかな」オ・チェリン先生がニッコリしながら聞いた
「先生のウエディングドレスには幸せの魔法があるってお聞きしたのですが」
美久が頬を赤らめオ・チェリン先生に尋ねた。
「あなた、日本の方ね。美久さんね」
オ・チェリン先生が日本語で答えた。
「私のことわかるのですか」美久は驚いて日本語で聞き返した。
「ええ、ユソンのママに聞いてたから」
僕たちは美久とオ・チェリン先生が何を話しているのかさっぱりわからなかったが、
美久の顔を見ると楽しそうなのがわかった。
オ・チェリン先生がみんなの方に向き直って
「私のウエディングドレスの幸せの魔法はね・・・・秘密。」といってクスクス笑った。
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その夜、夢の中にチェリンおばさんがいた。
小さい僕に「どうしてユソンはそんなにパパに似てるの」といって抱きしめてくれた。
小さい僕は「僕、おばさんのこと大好きだよ」と話していた。
夢の中で僕はチェリンおばさんを探した。
遠くの方でチェリンおばさんは、
今日お店で美久たちが歓声を上げていた
あの素晴らしい真っ白のウエディングドレスを着て、素敵な笑顔を見せてくれた。
僕はそんなチェリンおばさんを見るのが嬉しくて大きな声で笑った。
白いベールがチェリンおばさんを包んだ。
まるで幸せの魔法が、チェリンおばさんに降り注ぐかのように。
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