To the future ―未来へ― 1 ピンクのバラ

「6年生になったんだから、夏休みまで校外活動のグループは自分たちで決めなさい。
ただし、男子3人女子3人でな。」
僕たちの担任の先生はいつもそうだ。思いついたように何かを決めていく。
僕たちは、その度にうろうろする。5年生の時からそうだった。
そんなやり方には慣れていたはずだけど、{自分たちで決める}これがとても厄介なことに気づいた。
僕はすぐにドンファンとジュノに声をかけて男子は決まったんだけど、女子のどの3人と組んだらいいのか迷っているうち、気取り屋のヘスクといつもヘスクと一緒のヒョギョン、
そして日本から来たばかりの美久だけが残っていた。
 
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美久があんまり韓国語ができないんで、みんないらいらしてたんだ。
「ユソン、美久に聞いたってわかんないぞ。」ドンファンが大きな声でいった。
美久はその言葉がわかったのか、校外活動の計画を話し合っている間、
下を向いて顔を上げようとしない。
だから、誰も美久に話しかけなくなってしまったんだ。
 
でも、休み時間もぽつんとひとりいる美久を見てると、
淋しくないのかな。
その日一日ずーっと美久を見てた。
 
僕は決めた。
帰りの会が終わって先生も教室を出られてから、
「美久 一緒に帰ろう」と声を掛けながら、そばに行こうとした。
 
その時、誰かが僕の背中を押した。
 
僕の手が美久の肩をつかんで、美久を思いっきり突き飛ばしていた。
 
その日の夕方、やっと先生の怒りも治まり僕は学校を出ることができた。
ママは少し悲しそうな顔で僕を見ている。
僕はといえばそんなママの顔を見るのが辛くて、ふてくされたように歩き始めた。
 
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夜のご飯は静かだった。
いつもお喋りなチュンソンもただ黙々食べていた。
パパはいつものようにママに「おいしいよ」って言ってたけど。
 
部屋でひとり机にむかってボンヤリしていたら、パパが入ってきてベットに座った。
「ユソン 隣においで」とパパは、いつもより静かな声で僕を呼んだ。
そして、僕の顔を確かめるかのように、目 口 鼻とひとつひとつ手でふれていって、
僕を抱きしめた。「ユソン パパとママはいつだって信じてるよ」といいながら。
 
僕の目から涙がこぼれた。
 
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庭にはママの好きな白いバラが咲いている。
その甘い香りの中にいるとまるでふわふわした雲の上にいるような気がする。
このすてきな香りを届けてあげたら、美久もきっと許してくれるかな。
 
日曜の朝は、いつもはお寝坊なママもみんなより少し早く起きてくる。
そんなママをパパは「毎日が日曜だって思ったらいいのに」とからかう。
でもママがなぜ早く起きるのかっていうと、
日曜日の朝の一番すてきな白いバラを一輪切ってテーブルに載せるためになんだ。
そしてパパがテーブルに置かれたバラに、顔を寄せて微笑むのを見るために。
 
その日の朝は、ママが起きてくる前にそっと庭に出てママを待っていた。
「あらユソン どうしたの」とママはちょっとびっくりした顔で僕を見た。
僕はママにお願いをした。
今日のバラを僕にも分けてちょうだいって。
ママは「誰かにあげるの」って聞いたので、
僕は小さな声で「美久に」と答えた。
ママはちょっと考えていたけど、いつものようにパパのためのバラを選んで切った。
そしてこの春、植えたばかりでやっと花のついたピンクのバラを5本もパチンパチンと切って、
「美久には、ピンクの方がかわいいわ」と微笑んだ。
 
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バスに乗った。
美久の家はわかっている。
いつかヒョギョンが「美久は私と同じマンションにいるのよ」っていてたから。
僕の手にはママがリボンを掛けてくれたピンクのバラがある。
 
家を出るとき、ビョルが「私のバラなのに」とちょっと口を尖らせてた。
そんなビョルにパパが、「今日はビョルの好きな曲をピアノで弾いてあげる」となだめてくれた。
「僕にも僕にも」とミンソンとチュンソンもパパにもたれながら言っていた。
パパが楽しそうに笑う声とママの好きなあの曲を背中に聴きながら僕は歩き出した。
 
美久のマンションのチャイムを押したとき、
僕は目をつむった。
どきどきする気持ちをどうにかしたくて。
 
美久はちょっとびっくりしていたけど、僕を家に入れてくれた。
美久のパパはとても上手な韓国語で僕に話しかけてきた。
 
僕はていねいに話した。
いつもママが言ってるように「年上の人にはていねいにね、ユソン」
 
美久を間違って突き飛ばしたこと。
美久と友達になりたかったこと。
 
そしてママのピンクのバラを美久に渡した。
「ごめんなさい。美久」
「友達になってね。美久」
 
美久は恥ずかしそうにしながら、
僕が初めてみるすてきな笑顔で
「ありがとう」って
バラを受け取った。
 
僕は甘い香りと美久の笑顔で、
いつもよりふわふわの雲の上にいた。





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