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To the future ― '08 誕生日 ―
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「おはよう チュンサン」
うっすらと瞼を引き上げたとき、頭の上からユジンが囁いた。
「・・っん」
無意識に声をする方に手を伸ばした。
柔らかな髪が触れ、細い項を引き寄せた。
「僕より早く目覚めるなんて吹雪にでもさせるつもりかな」
「まっ!もう!」
「・・・ねえユジン今、目を瞑っていても君が頬を膨らませて僕を横目で見ていることわかるよ。だけどね、こうして目を開けると君の笑顔をほらここにある・・・・幸せだよ」
「チュンサン」
少し汗ばんだ腕からスルリと温もりが去っていく。
「今日がなんの日かまさか忘れてなんかいないわよね」
「きょう?もちろん僕の誕生日だろ」
バターを塗ったトーストを受け取りながら僕は答えた。
「今日は特別な誕生日なのよ」
「なにが?特別なの」
僕はサクッとトーストを噛み切りユジンを見つめた。
ユジンの指がスッと伸びて僕の唇の端をすべった。
「・・・・ほら、パン屑・・・」
僕の口元でヒラヒラさせる指を銜えた。
「ちょ・・ちょっとチュンサン・・・・」
「だって僕のパンの屑だぞ」
口を尖らせ頬を染めてユジンが横を向いた。
「ごめん、ごめん悪ふざけがすぎたみたいだ」
「・・いいわ、誕生日に免じて許してあげる」
「だったら毎日が誕生日だったらいいな」
「もう〜チュンサンたら」
「で、特別ってどういう意味なの」
「あのね、毎年誕生日のパーティはしてたでしょ。でも目がまた見えるようになって初めての誕生日なのよ」
「そうだったね、でも僕には見えなかったときもパーティは楽しかったよ」
「でも、いつか言ってたじゃない。ユソン、チュンソン、ミンソンそしてビョルのプレゼントの歌や踊りを見てみたいって」
「ん、そう・・・・耳で感じて空気で感じてもサンヒョクの笑いやユジンのお母さんのアラアラアラって笑いを堪えた呟きが羨ましかったよ」
「・・・チュンサン」
「これユソンだね、つかまり立ちしてるんだ」
「そうちょうどタッチが面白くなって目が離せなくなったのよ」
「あ〜〜あ〜〜テーブルのケーキに指を突っ込んでる」
「もうちょっと見てて、意外なことをするから」
ビデオは僕の誕生日の風景とユソンを映し出していた。
「ほら!」
「ん?ケーキの上の苺を摘んだじゃなくって握ってるよ。あ〜〜あ〜〜〜エッ!」
「そうよ、この苺はユソンが自分の口に入れるんじゃなくて、あなたの口に入れたのよ」
そう、思いだした。
『パーッ、アーン。アーン』
って言うから口を開けたら何かヌルッとしたものが入ったんだ。
『ウマ・・ウマ・・パーッ』
ユソンの声に「おいしいよ美味しいユソン」って・・・・・
あーこれがあの時の苺だったのか。
僕の口にあの日の甘酸っぱさが広がった。
何年分の誕生日を見た頃だろう。
「ユジン、勿体ないからこの続きはまた来年にしようよ」
「そうね、ビデオテープ逃げていかないわよね」
「お父さんお誕生日おめでとうございます。美久と選んだプレゼント喜んでもらえると嬉しいんですが・・・・・・」
「ありがとうユソン、君と美久の楽しそうな声が聞けただけでもうれしいよ。もっとも今日は特別なプレゼントをもらったからね」
「お父さんお誕生日おめでとうございます。春向けの撮影をしたときお父さんに似合いそうなジャケットを見つけたので送ってあります・・・・・」
「ありがとうチュンソン、アルバイトでムリをしないで欲しいな。しかしお前は昔からカメラの前でポーズをとるのがうまかったんだね」
「お父さんお母さんもう用意は出来た?」
「ミンソン、ビョル、1日中どこへ行ってたんだ」
「お父さんの誕生会の準備だよ」
「・・・・・・」
「さぁ、チュンサン行きましょうよ」
「ユジン・・・・・」
「みんなが待ってるわ、ビデオカメラの廻らない誕生日パーティ」
「みんなって・・・?」
「キム次長さん、ヨングク、チンスク、チヒョンそれからジョンアさん、スンリョンでしょ、そしてね・・」
「ストップ!お母さん。もうお父さんを驚かせるはずでしょ」
ハハハハハ・・・フフフフフフ・・・・
笑い声が路肩に残った雪と日差しの伸びた空に響いた。
Happy birthday
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