そっとチュンサンの手を取った。 「・・・・・ユジン」 声の震えとともに指も微かに強張っていた。 秋の気配を感じる頃、僕たちは舞い上がるような喜びに溢れていた。 この夏の暑さは一段と厳しかった。 こなしてもこなしても押し寄せてくる仕事、いやそうではない。 目の不自由な僕が限界以上のことに手を伸ばしているのは、他ならぬ僕が知っていた。 「理事、今日はもうこれくらいにしておきましょう」 「だめだ、ここを考え直さないと明日の工程に差し障るはずだ」 「・・・明日の工程の組み直しはもうしました、ここは来週でも大丈夫です」 「先輩・・・すみません。足を引っ張ってるのは僕なんですね」 「おい!ミニョン・・・・」 「チュンサン!遅刻するわよ。起きて!!」 「・・・・・・・・・」 「チュンサン?」 「・・・・」 「熱でもあるの」 チュンサンの額に手を伸ばした時、チュンサンの腕がユジンを抱きしめていた。 「・・・チ・チュンサン・・」 「ねぇユジン、このままサボろうか・・・あの時みたいに・・・ね」 「チュンサン」 「・・・ごめん・・先輩が少し休めって」 「そうね、この暑いのに働きすぎたから疲れてるのがキム次長にはわかったのよ」 「ユジン・・」 「じゃぁこの際、あの家に行って夏休みをしてこない。きっと涼しいわよ」 『ユジンさん、理事は疲れています。さっき明日から2週間休むようにって命令をしましたよ』 キム次長の笑いを含んだ優しい声に、ユジンの胸は熱くなった。 『ポラリスの工程の方は今のところジョンアさんがいてくれるので支障はありません・・・』 波の音と虫の声だけが静寂を支配していた。 不可能の家に着いた途端、 「ユジン、ちょっと昼寝をしてくるね」 夕方になっても夜になっても僕はコンコンと眠り続けていたらしい。 開け放した窓から流れてくる冷たい空気に僕は身を震わせた。 エアコンの風ではない、緑の土の匂いのする風だった。 何にあくせくしていたのか、誰に苛ついていたのか。 僕の中に澱んでいたものがほどけるようにこなれ、解けていった。 僕の隣に息づく温かい固まりに僕は触れた。 「・・ユジン・・お寝ぼうさん、おはよう朝だよ」 細くしなやかな僕だけが知ってる柔らかい肌が無意識に僕の胸に潜り込んでいた。 「ユジン」 穏やかな寝息が答えた。 「・・・相変わらずだな、僕の奥さんは」 朝の太陽が輝きを増すにはまだ早すぎる。 焼け付く暑さも峠を越した頃、僕たちはまた時間との競争の真っ只中に舞い戻った。 「チュンサンきょうも遅いの?」 「ユジンは」 「私も遅くなりそう、どっかの分からず屋の理事が無理難題を言ってくるから」 「じゃあその理事に出来ませんって言ったらいいじゃないか」 「絶対に言いません。出来るもの」 「フフフフ、ユジンならきっと出来るさ」 秋夕の頃になると呆気ないほど仕事は落ち着いていった。 「ユジンお母さんに会うのは久しぶりだね」 「そうね、春から忙しかったから」 「まるで僕のせいみたいだな」 「あら違ったのかしら、イ ミニヨン理事」 僕たちは秋夕のお墓参りに春川に向かっていた。 「ユジン、ゆっくりでいいからね。安全運転でね」 「チュンサンもうさっきから何度も言ってるわよ」 「・・・だって心配なんだ」 「サンヒョクだって太鼓判押してくれたじゃない、上手だって」 「サンヒョクは相変わらずユジンに甘いんだよ」 「あら!チュンサン妬いてるの」 「・・・・まさか」 「・・・・・・・・・」 突然何も言わなくなったユジンに僕は言葉を失った。 「・・・・・ユジン・・・・・」 車が路肩に寄せられ停まった。 「ユジン・・・冗談だよ」 「・・・・・・チュンサン・・・気持ちが悪い・・・・」 『予定日は来年の5月ですね』 医者の声が遠くで聞こえた。 〈僕が父親になる〉 舞い上がるような喜びを覚えた。 そしてその後、僕は愚かにも悲しみを感じた。 つづく